秋山真一郎騎手インタビュー、最終回の今回は「ジョッキー・秋山真一郎」に迫ります。騎乗フォームの美しさ、フェアプレーの心がけ、そこには、物静かな秋山騎手のジョッキーとしての熱い信念がありました。秋山騎手の魅力をたっぷりお届けします。(10/22公開Part3の続き)
騎手には“どこまで”がない
東 :去年はご自身過去最多の重賞4勝。そして今年は2月に通算700勝達成、5月にはGIを勝利され、ジョッキーとして良い状態にあるなと感じられますか?
秋山 :いや、特にそういうのは感じないですけどね。まだまだですよ。というか騎手って、“どこまでできたらいい”とか“どこまでいけばいい”って、たぶんないと思うんですよね。
東 :常に上に、上に?
秋山 :はい。今年でデビュー16年目なんですけど、だからこれだけ続いているんだと思います。他の仕事をしたことがないから分からないですけど、たぶん同じ仕事を10年以上続けるって、よっぽどだと思うんです。会社だったら同じ会社の中でも、部署が変わるとか仕事の種類が変わるとか、きっとありますよね。
東 :そう考えると、ジョッキーさんってそういうことがないですもんね。
秋山 :毎日毎日同じことをやっているんですからね。それを続けているのは、それだけ僕「騎手」という仕事が好きなんですけど、なんだかまだ分からない部分は多いですね。
東 :そうなんですね。じゃあ、「目標をここ」って決めるんじゃなくて、「これができたら次はこれ」みたいな、常に上の目標を持たれて?
秋山 :そうですね。
東 :ちなみに、今の目標は何ですか?
秋山 :今の目標ですか? 目標というか、今またちょっとね、乗るバランスをいろいろと考えているんですけど…秘密です。
東 :あ、秘密で?
秋山 :これ、秘密です(笑)。
東 :そうなんですね(笑)。バランスって、その都度その都度またいい時期が来たら変えたりするんですか?
秋山 :いろいろ見ているんですけど、その時その時でこう、「この方がいいんちゃうか?」「この方がいいんちゃうか?」というのが、どんどんどんどん出てくるんですよね。僕、結構人に聞くんですよ。良い乗り方だなと思ったら聞きます。
“キレイ”と評判の騎乗フォーム
東 :ライバルだけど、その辺は教えてくれるんですね。そういう試行錯誤を、16年ずっと続けられているんですね。秋山騎手と言えば“フォームがきれい”と言われますが、そういうのもご自身で意識されていますか?
秋山 :僕は意識しています。
東 :「フォームがきれいだね」って、やっぱりよく言われますか?
秋山 :言われるんですけど、これね、騎乗依頼とは全く関係ないですからね(苦笑)。
東 :いやいや(笑)。そこはご自分のこだわりですね。フォームのきれいさは、勝つために大事なことですか?
秋山 :勝つためにもそうですし、僕が思うに、馬って思いっきり走っているから揺れるんですよ。例えば荷物を背負って走っていて、上でドンドンドンドンって揺れたら、走りにくいですよね? それだったら、例えばちゃんと縛って安定させた方が走りやすいんですよ。そのイメージです。
東 :お家で木馬に乗られたり、そういうふうにご自分で研究をされている?
秋山 :します、します。もし、自分がおかしな格好でしか馬に乗れないようになったら、考えますね。騎手をやっていくかどうか、考えます。
東 :それくらいですか!? 秋山さんは髪型とかは気にしないけど、騎乗フォームだけは気にするという噂を耳にしたのですが(笑)?
秋山 :そうそう、ホンマそうです(笑)。その通り! そういうのは全然気にしないです。洋服ね、最近みんなすごくオシャレですよね。だけど、そういうの全く興味ないです。
オシャレには興味がないんです(笑)
東 :すごいストイックですね。
秋山 :ストイックというか、競馬にしか興味がないんですよ。その代わり、馬に乗った時にダサかったら、ちょっと僕、考えますね。「自分、大丈夫かな?」と。
東 :そっちの方がショックなんですね(笑)。レースぶりもキレイという、フェアプレーも意識されますか? フェアプレー賞を5回も獲られていますが。
秋山 :フェアプレーは意識します。でも、たった5回なんですよ。16年でたったの5回。最初の頃は、結構騎乗停止ばっかり食らっていたので…それはちょっと、よろしくなかったですね。
東 :今年も狙っていますか?
秋山 :はい。というか、毎年獲るのが普通にならないとアカン、と思っています。
東 :そのために普段レースで心掛けていることはありますか?
秋山 :人の邪魔をしないことです。これね、たぶん意識するとかじゃなくて、普通のことだと思うんです。競馬に限らずどのスポーツでも、絶対にルールがありますから。人の邪魔をするのは反則なんです、言ったら。反則なんかしたらね、やっぱり駄目ですよ。
東 :競馬に対してとても真摯ですね。普段から競馬のお話はされる方ですか?
秋山 :しますね。僕は騎手ですから。家では全然しないですけど、仕事場では仕事の話をしたいです。家ではレース映像を見ます。1日どれくらいだろうな? 30分から1時間くらいは毎日見ますよ。
東 :毎日ですか? そこでまたフォームを研究したり、自分の反省会をしたりとか。なかなかそういう方っていらっしゃいませんよね? みなさんされているのかな? どうなんですか?
秋山 :どうなんだろう…? 分からないです。友達少ない方なので(笑)。
東 :そうなんですか?! 競馬に対しての思いの方が強い?
秋山 :というか、あまり僕人に興味がないんですよね。人のことは何も気にならないですし、人に良く思われようという気も一切ないんです。
東 :それって、強いですよね。私は周りがすごく気になっちゃいます。「どう思われているだろう」とか。
秋山 :いや、強くはないんですよ。だけど、全く気にならないです。だから、性格的にはあまり騎手向きじゃないんですよね。やっぱり人とのコミュニケーションはちゃんと取れないといけないですし、乗せてもらうんだから、誰にでも好かれるように。自分から営業したり、そういうの大事です。でも、できないんですけどね(苦笑)。だからやっぱり、性格は騎手向きじゃないですね。ただ好きだから、16年続いているだけなんです。
東 :それでも騎乗依頼がしっかりくるところが、実力だと思います。最後にこれからの夢ってありますか?
秋山 :夢ですか? やっぱり、大きいレースを勝ちたいですよね。勝ちたいというか、もっと乗りたいです。
東 :チャンスを増やしていきたい。今までの思い出の馬はいますか? すごく嬉しかった勝利とか?
秋山 :何でしょうね? 結構、勝ったことって忘れるんです。負けた時の悔しい方が覚えていますね。ベッラレイアとかキョウエイマーチとか、そういう悔しい思いをした方が覚えています。
東 :そういう悔しい思いがまた、大きいレースで生きてきたりしますか?
秋山 :大きいレースでというか、騎手としての励みになりますね。「次にもしそういう馬に出会ったら、なんとかしてやろう」って。毎日毎日ちょっとオタクっぽいことをして(笑)、「なんとかしてやろう!」「見返してやろう!」というふうには思っていますね。
東 :すごくご熱心ですよね。
秋山 :仕事に関しては、僕好きですね。本当にそれだけ楽しいんですよ、騎手って。それくらい魅力のある仕事ですから。(了)
◆次回予告
11月の「おじゃ馬します!」、ゲストは江田照男騎手。今春の日経賞では、12番人気のネコパンチで逃げ切り完勝劇。穴派ファンの心を鷲づかみにしました。その「穴男」ぶりは、民放テレビ番組でも取り上げられたほど。江田照男騎手の魅力たっぷりのインタビュー、初回の公開は11/5(月)12時です。お楽しみに!
◆秋山真一郎
1979年2月9日生まれ、滋賀県出身。父は秋山忠一元騎手。1997年に栗東・野村彰彦厩舎からデビュー(現在はフリー)。同期は武幸四郎、勝浦正樹ら。98年にカネトシガバナーで神戸新聞杯を制し重賞初勝利。04年に中京競馬記者クラブ賞、昨年は4度目のフェアプレー賞(関西)を受賞した。12年2月にJRA通算700勝を達成。同年のNHKマイルCをカレンブラックヒルで制し、GIジョッキーの仲間入りを果たした。