4月21日、大井トゥィンクルが開幕した。今年で18年目。月並みながら改めて時の流れ、その速さを痛感する。主催者の思惑、ファンの動向、むろん18年だから、さまざまに変わっていった。昔話とお断りして、今日は「大井トゥィンクル、現在・過去・未来」について少し書く。
昭和61年、大井ナイターは、当時売り上げ低迷の起死回生策として決断され、その年は何とも中途半端な時季にスタートされた。今思えばまだバブル景気の続く中で、しかしいうところのレジャーの多様化。ギャンブル産業は世相的にじりじり押されつつあったのだろう。当時はまだ“公営競技=必要悪”などという通念が残っていたから、ナイター開催そのものの認知(認可)に時間を要した。
7月31日、開幕日の入場者は3万人に少し届かなかったと記憶する。それでも通常のほぼ2倍のファンが押し寄せた。覚えていることが3つ。盛夏ながらしのつく雨で場内がサウナのように蒸していたこと。特設ステージで当時売り出し中の早見優さんが熱唱したこと。メイン「ブリリアントカップ」で宮浦正行・トミアルコが鮮やかに逃げ切ったこと。宮浦騎手は以後も味のあるベテランとして活躍、長く騎手会長を勤め、今年いよいよ調教師の道へ転進と聞いた。18年とはやはりそんなものだろう。
それからおよそ10年、いくつか小さな波はあったものの、トゥィンクルは若者を中心にファン層を広げ、おおむね順風満帆に成長した。平成当初は毎夜平均3万5千人の集客力。夜の競馬-それだけで当時は新鮮そのものだったということ。レース自体、ギャンブル自体の魅力というより、テーマパークをめざしたノリが成功したのかもしれない。証拠に、ウィークエンドの内馬場など一時は家族連れが占拠していた。広い芝生、地味ながら公園並みの遊戯施設は整っており、その気ならポニー乗馬も体験できる。お弁当と飲み物を詰めたバスケット持参なら、何よりリーズナブルで健康的だ。
競馬場側もむろん努力を怠っていない。毎年新しいイルミネーションに工夫をこらし、馬場内へ通じる地下道なども“メルヘン”を基本テーマに、大改造が行われた。「トゥィンクル・コンサート」と題した毎夜のミニステージも、記者などけっこう楽しみだった。旬のアイドルは望めないが、代わりに元タイガースの加橋かつみさん、もはや熟女然とした黛ジュンさん…いってみれば郷愁路線。むろん新種馬券の開拓も意欲的だった。「馬番連複」こそJRAに遅れをとったが、以後、馬単、ワイド、3連複、3連単、次々とゲームの幅をフロンティア精神で広げている。少なくともこの過程において、大井トゥィンクルはしっかりサービス業の王道を歩んできた。
03年スタート、開催6日間平均1万3千人は正直寂しいとしかいいようがない。売り上げは川崎、船橋、浦和、さらにオフト後楽園、汐留、電話投票などで最低ラインをクリアした模様だが、肝心のライヴ大井競馬場に活気が乏しい。実はと思う。手前ミソではなく、大井(南関東)のレース自体は、18年前とは比較にならないほど密度が濃く白熱している。他地区からの転入馬がおびただしく増え、勝負が厳しくなっていること。御神本騎手筆頭に廃止競馬場から優秀なジョッキーが移籍してきたこと。競馬と馬券に関していえば、18年前より間違いなく面白い。だがしかし…。
ファンを競馬場に引きつける、呼び戻す手段はいったい何か。大人の遊び場所として新たな“付加価値”が必要なのか、あるいは競馬そのものがもう人心をつかめないのか。難しい。この問題はいつもそこで詰まってしまう。深刻なジレンマ。記者などは、馬を見て馬券を買う、レースが終わる、一日があわただしく過ぎ、最後はフッとため息をつく。18年来それで十分満足してきた。しかしこの時代、どうやらそうもいかないらしい。
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マイルグランプリ(24日大井、サラ4歳上、定量、南関東G1、1590m良)
△(1)ベルモントアクター (57・石崎隆)1分38秒7
△(2)ハタノアドニス (57・桑島) 首
◎(3)コアレスハンター (57・内田博) 9
(4)タイキアーサー (57・納谷) 鼻
▲(5)バンケーティング (57・的場文) 2
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△(6)クールアイバー (57・早田)
○(8)フジノテンビー (57・佐藤隆)
単510円 馬複2430円 馬単4430円 3連複1200円 3連単14460円
ベルモントアクターが力強い末脚で重賞3勝目を飾った。1000m通過60.7秒、よどみない流れを3~4コーナー外から進出。粘るハタノアドニスをゴールぎわ豪快にねじ伏せた。
1590m、1分38秒7は、昨年フレアリングマズルのレコード(参考タイム)をコンマ1秒更新。ほぼ満点といえる内容だろう。毎度結果論で恐縮だが、前2走、金盃、ダイオライト記念とはデキが違ったということ。マイナス8キロながら馬体を大きく見せ、パドック、返し馬とも素晴らしい活気があった。「体調が戻っていたので今日は動けそうなところで動いてみた。相手(ハタノアドニス)もしぶといが、こっちもずっと伸びていたからね。久しぶりにいい勝ち方ができました」と石崎隆騎手。「ようやく満足のいく仕上げができた。胸のつかえがとれた思い。これからもう一度挑戦者としてスタートしたい」。出川克己調教師のコメントにも安堵、そして新たな希望がみてとれる。6月に控える統一G「かしわ記念」「帝王賞」。「マイルが得意なのは確かだが、まあ万能型じゃないかな」(石崎騎手)。昨秋まで17戦不敗、一つの“神話”を作った馬だ。今日のデキが維持できれば、大舞台でも伏兵以上の期待が浮かぶ。
ハタノアドニスは外枠も何のその、終始快調に逃げまくり完全燃焼の2着だった。「いいペースだったんだけどね…。負けは負け」。珍しく悔しそうな表情で引き上げた桑島騎手。それでも守備範囲を超える1590mでアクターにわずか首差、自身38秒8で走れば大健闘だろう。前2走同様、張り詰めた馬体とみなぎる気合。昨年はさきたま杯、東京盃、JBCスプリントいずれも5着。こちらももう一度大きな舞台に昇ってほしい。
コアレスハンターは道中離れた4番手で折り合ったが、アクターが仕掛けた3~4コーナーで思うように動けなかった。直線闘志を振り絞って何とか3着。「ペースが速くてついていけない。ただ最後砂をかぶっても我慢したあたり収穫は感じた」と内田博騎手。年齢的なものも含め今は2000m前後がベストか。金盃の強さはむろん忘れられず、強敵相手でも帝王賞で見直したい。バンケーティングは今回ブリンカーを着用したが、道中首が高く折り合いひと息。パドックでもイレ込みが目立っていた。「難しい馬。能力はあると思うが…」(的場文騎手)。南部杯2着の豪脚復活には少し時間がかかりそうな懸念もある。