スマートフォン版へ

「牧場のパフォーマンス」とは?(須田鷹雄)

  • 2012年11月09日(金) 18時00分
 POG的には中途半端な時期なので、寝かせておいたネタというか、どちらかというと本物馬主向きの話をしてみようと思う。

 セレクトセールで社台ファームやノーザンファームの馬を買うという場合、牧場の付加価値というのは誰にも分かりやすい。あとはセリ値がどうなるかだけの話である。

 一方で、日高のセリで日高の牧場の生産馬を買う場合、訪問したこともなければ面識もない牧場の馬を、比較展示+αくらいの時間で判断して買わねばならないこともある。POGの場合は後期育成ベースで候補馬を選ぶことが多いので生産者まで気にしない人も多いかもしれないが、仮に気にしたところでファンが良く知らない生産牧場の馬を指名しなければならないという問題は、やはり発生する。

 ならばどうすればいいか。フィールドワーク的に各牧場を取材することができれば一番だが、それは現実的ではない。やはり、入手できる資料から推測するしかない。

 ちょうど今年のセレクションセールの折、わけあって生産牧場の指標を出さねばならない用事があり、過去10世代の成績を集計してみた。そうすると、やはり牧場ごとのギャップというのはかなりのものだとということが見えてくるのである。

 当時私が集計したのは、

1.生産馬のうち中央に馬名登録された頭数
2.そのうちデビューした数と未出走抹消された数
3.勝馬率
4.1走あたり賞金
5.1頭あたり賞金
6.セリで購買された生産馬の勝馬率
7.セリで購買された生産馬の1走あたり賞金
8.セリで購買された生産馬の1頭あたり賞金
9.購買された馬の価格中間値

以上の項目である。6〜9は3〜5と比較することで、「セリに良い馬を出しているかどうか」の判断材料にもなる。本当は主取馬まで含めて集計したいが、今回は購買された馬だけが対象になっている。

 以下、数値はすべて現3〜12歳世代を対象とし、セレクションセール直前の時点のものという前提でお読みいただきたい。

 今年のセレクションセールに上場馬がいなかった牧場も含めて、社台グループ以外の生産者の全体成績を集計すると、勝馬率=28.6%・1走=107万・1頭=980万・セリ馬勝馬率=31.3%・セリ馬1走=106万・セリ馬1頭=1000万・価格中間値=630万円(税込)。これがひとつの基準となる。

 大きい牧場ほど、成績指標は平均を上回るが、価格はもっと大きく上回ってしまうことが多い。本物の馬主さんが安くて走る馬を狙うならば、価格がさほど伸びず、成績は上回っている牧場を探すということになる。

 そんないい話があるかというと、中にはある。具体名は書かないが、例えば中央に行く馬が年間2〜3頭のX牧場は勝馬率=44.0%・1走=194万・1頭=1964万・セリ勝馬率=53.3%・セリ1走=249万・セリ1頭=3131万・価格中間値=850万円

 小さい牧場なのでサンプルは少ないが、勝馬率や1走あたり賞金は1頭の重賞級で大きく動かせるものではないので、それなりに信用できるデータだと思う。似た規模のY牧場も
勝馬率=50.0%・1走=244万・1頭=3386万・セリ勝馬率=69.2%・セリ1走=367万・セリ1頭=5404万・価格中間値=997万円

とかなりの好成績。この牧場の方とはこの数値について少しお話したのだが、「えっ、うちそんなに成績いいの!?」みたいなリアクションだった。考えてみると、日高で牧場相互が成績指標を意識するということはあまりないかもしれない。意識されるのは、大当たり級の馬が出た・出ないの話だろう。

 もちろん、指標が残念というケースもある。Z牧場は勝馬率=10.8%・1走=60万・1頭=343万・セリ勝馬率=12.5%・セリ1走=62万・セリ1頭=348万・価格中間値=1102万円と、売れた馬の値段が高いわりに成績が出ていない。

 価格が高くなっているのはJRAがこの牧場の馬を何頭か買っている(そしてそのとき競り合いになっている)影響もある。反対に言うと、購買を生業とするJRAの購買官も「牧場のパフォーマンス」は手がかりにしておらず、馬+血統メインの購買をしているということだろう。一般のバイヤーはJRAとカチ合わないほうがよいわけで、その意味でも牧場ありきで候補馬を絞る戦略には面白い面がありそうだ。

 牧場のパフォーマンスは繁殖牝馬が入れ替わることで変化していく可能性もあるが、放牧地の広さや土壌の良さなど、長年にわたって生産馬に影響を与えるファクターもある。現在のセリ市場でバイヤーを動かしているのは圧倒的に「馬のデキ」と「血統」だが、曖昧な概念である「馬のデキ」に比べて今回書いたような数字で割り切れる指標はちょっと軽視されすぎのようにも思う。

須田鷹雄+取材班が赤本紹介馬の近況や有力馬の最新情報、取材こぼれ話などを披露します!

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング