2012年を締めくくる12月のゲストは、世界を舞台に活躍するクレイグ・ウイリアムズ騎手です。今年が短期免許での来日3年目。1年目から天皇賞・春を勝利し、現在(12/3)までにGI3勝を含む重賞7勝。世界一流ジョッキーの、実力と素顔に迫ります。(通訳:木村孝也氏)
世界で活躍するC.ウイリアムズ騎手
赤見 :お会いできてうれしいです。よろしくお願いします。私、ウイリアムズ騎手と同じ年なんです。セイム エイジ!
ウイリアムズ :Oh〜!
赤見 :日本語はもう、だいぶお分かりになるんですか?
ウイリアムズ :ん〜、チョット(笑)。
赤見 :最初に日本にいらしたのが、2006年のワールドスーパージョッキーズシリーズ(以下、WSJS)でしたが、その時の日本の印象というのはいかがでしたか?
ウイリアムズ :WSJSに呼んでもらったということは、それなりに自分の国で成功をおさめているということで、当然「僕はオーストラリアで良いジョッキーなんだぞ!」って、鼻高々で来たんです。ところが、日本に来てみたら日本もすごく良くて!
日本の競馬は、自分の国の競馬とは全然違います。例えば、ファンがたくさんいる。そのファンの人たちは、みんな馬なりジョッキーなりを愛してくれている。そういうところが、今まで自分が見たことのない部分だったので、非常に驚きました。それが日本の、最初の強い印象でしたね。
赤見 :その後4年連続でWSJSに来られて、2010年に初めて短期免許を取られるわけですが、その経緯を教えていただけますか。
ウイリアムズ :実は、その2年前に日本に来ようと思って、準備もしていたんですが、その時に急遽イギリスに行くことになったんです。それで、2年後に時間が取れるようになったので、日本に来ることにしました。WSJSでの経験が良かったので日本にまた来たいと思いましたし、森(秀行)調教師のからのプッシュがあったのもきっかけですね。
赤見 :実際に短期免許で乗られてみての印象というのは?
ジャガーメイルで制した天皇賞・春
ウイリアムズ :日本はまったくの初めてではなかったので、そういう部分では何の抵抗も問題もなかったです。それに、最初の週のレースが天皇賞・春で、それを勝つことができたというのも、前もって日本の競馬を分かっていたからです。そうじゃなかったら、勝てなかったかもしれないですね。
赤見 :あの時は、来日2日目でのGI制覇で、世界のトップジョッキーの実力に衝撃を受けました。レース前は美浦で追い切りにも騎乗されましたが、ジャガーメイルの印象はどうでしたか?
ウイリアムズ :非常に歩様に特徴のある馬だと思いました。馬が100%の状態じゃないように見えるんですね。だけどもあの天皇賞・春の日は、今でもよく覚えているんですが、たぶん110%の状態だったんじゃないかなと。それくらいすごく良かったです。
赤見 :日本のGI初騎乗でしたが、ファンファーレが鳴って、ファンの手拍子と大歓声があって、そういう独特な雰囲気はどう感じられましたか?
ウイリアムズ :ファンの方の競馬に対する情熱、それがすごいと思いましたね。それも、いきすぎた異常な部分が見えるすごさじゃなくて、本当に競馬を盛り上げるためというイメージで。
赤見 :そういうのは、海外ではあまりないですか?
ウイリアムズ :ないですね。今、マイブームの言葉があるんですけど、まさに“アリエヘン”です!
赤見 :あははは(笑)。短期免許では、だいたい5月6月12月と毎年ほぼ同じサイクルで日本にいらしてますよね。その間、オーストラリアというのはどうなんですか?
ウイリアムズ :オーストラリアの競馬は地域地域に分かれていて、僕はメルボルンにいるんですけど、今年も12月いっぱいまで日本で競馬をして、その後2、3週間のオフがあって、すぐにオーストラリアの競馬が始まります。それが4月末までで、それから6月末まで日本で競馬をして、少しオフがあって、またオーストラリアで競馬があります。それが終わったら12月にまた日本にと、そういうサイクルです。
赤見 :オーストラリア以外にも、香港やイギリスなど、世界中で騎乗されていますが、日本とオーストラリアに限ったら、レースで一番違うところってどこですか?
ウイリアムズ :オーストラリアも、日本と同じスピード競馬なんです。その点ではすごく似ていますね。ヨーロッパとは全然違います。ですが、日本は多いと18頭立て、オーストラリアは12頭立てくらいなんです。それで、小さなトラックなんですね。オーストラリアはそういう競馬場でスピード競馬をする。だけど日本は、東京とか阪神、京都という広いところで頭数も多くスピード競馬をする。そこが違います。コース形態として広いところで、余裕をもってということなんでしょうね。
赤見 :じゃあ、馬群の密集度で言うと?
ウイリアムズ :それは、オーストラリアの方が密集しています。頭数は少ないですが、小さなトラックでバンバン当たりながらの競馬ですから。そういう中で日本は広い競馬場なので、やりやすいですよ。ジョッキーは生死に直面するリスクがあるので、そういう安全性が保たれているところは、日本は世界一だと思います。
赤見 :乗っていて、物足りない部分は感じられますか?
ウイリアムズ :自分はプロのジョッキーとして、行くところ行くところで当然そこのルールに従うべきですし、その国々のやり方に尊敬の念を持って動くべきですので、そこは合わせるべきだと思っています。(料理が運ばれてきて)フォアグラ!!
赤見 :フォアグラがお好きなんですか。ちなみに、日本の食べ物で好みは?
ウイリアムズ :トロ、ソバ、テンプラ…アイ ラブ ジャパニーズ フード!
赤見 :納豆はどうですか?!
ウイリアムズ :……No! それだけはダメ(苦笑)。豆腐は大丈夫なんですけどね。日本のアスパラガスは美味しいですよね。日本の野菜は、季節季節で出てくる。西洋は、レストランの格とかどこのシェフが作るとか、いろんな角度で食べ物を美味しく見せたりするけど、日本には四季があって、特に野菜に関しては旬のものを食べるっていう。それがいいところですね。
赤見 :日本を気に入っていただいてうれしいです。
木村:クレイグ、彼女は元ジョッキーなんだよ。
ウイリアムズ :そうなの!? じゃあ、僕がインタビューしてもいい? なんでジョッキーになったの?
赤見 :ええと、武豊騎手が…。
ウイリアムズ :ああ、好きだったのね!
赤見 :あっ、いや……人気になっているレースで惨敗されたのを見て、びっくりして。あの武豊騎手でも負けることがあるなら、私も勝てるかなと思ったんです。
ジョッキーコンビで意気投合!
ウイリアムズ :あははははっ(爆笑)。グッジョブ!
赤見 :ウイリアムズ騎手は、なんでジョッキーになられたんですか?
ウイリアムズ :父がジョッキーで、そういう家系に生まれたからですね。みんなが犬や猫を飼うように、自分には小さい時から馬がそばにいました。兄弟がふたりいるんですけど、ふたりとも今、オーストラリアで調教師をしています。まあ、僕ももっと前からフォアグラを食べていたら、太ってしまってジョッキーになれなくて、調教師になっていたかもしれないですね(笑)。ジョッキーとして何年乗ったの?
赤見 :7年です。私は地方競馬で乗っていました。
ウイリアムズ :NARだね! NARのレースはとてもタフですよね。川崎に乗りに行った時にダートコースを歩いたんだけど、ズボッズボッって足がはまってしまって。「助けて〜」っていう感じでした。それで、調教師から「逃げろ」っていう指示はなかったんだけど、「このキックバックは無理だ」と思って、前に行きました(笑)。
赤見 :あはは(笑)。日本のいろんなコースに乗られていますが、好きなコースはありますか?
ウイリアムズ :選ぶのはなかなか難しいですけど、一番難しいと思うのは京都の外回り。見た目にタフなのは東京で、京都の外回りは見た目にはタフじゃないのに、実はタフっていうコース。中山が難しいって言われているの? 中山はスピードが必要で、オーストラリアの競馬場に似ているから好きですね。
でも、一番好きなのは、最後の直線に坂があって、あんまり起伏もなくコース形態のきれいな阪神です。新潟は難しい。難しいコースだよ。新潟に乗りに行った時が、開催の後の方だったんです。それで馬場も荒れていたし、あまり良いイメージがないですね。開幕週に行ったらいいんでしょうね。 (Part2へ続く)
◆次回予告
ウィリアムズ騎手インタビューの第2回は、世界の名手のレースぶりに迫ります。レース前に必ず行っているという陰の努力、そして、異国日本での知られざる苦労とは。また、ジャパンCで3着にきたルーラーシップ。あの出遅れの真相にも迫ります。公開は12/10(月)12時、ご期待ください。
◆クレイグ・ウィリアムズ
1977年10月23日生まれ、オーストラリア出身。メルボルン地区を拠点とする騎手。93年見習い騎手としてデビュー。00年、オーストラリアンオークスを制し、GI初勝利。06年リーディングジョッキーに輝く。オーストラリアの他、イギリス、ドバイ、香港でも騎乗。06年にWSJSで初来日、翌07年同シリーズを優勝。10年に短期免許で来日。短期免許2日目に、ジャガーメイルで天皇賞・春を制覇。