5月28日「大井記念」。主催者側のキャッチコピーは、「日本ダート最長距離重賞」「帝王賞へのステップ」である。なるほどダート2600mは今や日本最長。そもそも本格的な長距離戦が、地方JRA問わず、近年めっきり少なくなった。大井「東京記念=2400m」、笠松「オグリキャップ記念=2500m」、北海道「ブリーダーズGC=2300m」が、かすかに存在感を保つ程度。そしてもう一つ、「帝王賞へのステップ」も、平成9年アブクマポーロの出世レースになったのだから嘘ではない。ただしかし、現実には6月4日船橋「かしわ記念=1600m」との兼ね合いで、ひと息迫力を欠く顔ぶれになってしまった。
長距離走者の孤独--。何度か書いたことだが、地方中央、芝ダートに限らず、昨今とにかくステイヤーが冷遇されている。海外も含め2000mを選手権距離とする競馬趨勢、より速い馬、スピードを求める血統の変遷。確かに一面、当然でもあるのだろう。しかし、では大井記念=2600mが無意味だったのかどうか。古くはテツノカチドキ、チャンピオンスター、ダイコウガルダン、当代の一流馬が堂々と制してきた大井記念である。「パワーはスピードを凌駕する」。少なくとも当時はそんな言葉が浮かんだ。例えばかつての帝王賞は2800mであり、東京大賞典は3000mであった。そしてそこを勝ったロッキータイガーが、イナリワンが、全国区で息をのむような強さをみせた。厳しいダート長距離で培われたパワーと逞しさは、芝に舞台が変わっても十分輝いてきた事実がある。
ステイヤーの復権--。私見、持論と断って書く。「東京大賞典」は長距離に戻し、「大井記念」をそのTRに定着させたい。平成7~9年、わずか3年間だが、2800mの大賞典はやや異彩という感じで面白かった。アドマイヤボサツ、キソジゴールド、キョウトシチー、さらにトーヨーシアトル。同じダート巧者でも活躍馬の個性が違った。平成9年、王者アブクマポーロがトーヨーシアトル、キョウトシチーの後塵を浴び、レース後石崎隆之Jの悔しそうな表情も印象深い。「距離は乗り方ひとつでこなせる馬。今日は失敗。来年は勝たせるよ…」。確かに公約通り翌年勝った。しかし距離2000mに短縮。ポーロを真のチャンピオンにしたかった彼としては、たぶんかすかな欲求不満も残っている。
ごく素朴には、大井2000m、同じ舞台、同じ距離で1年に2度、最強馬決定戦を施行すること自体、まずナンセンスではないかと思う。長距離にするといいメンバー(人気馬)が集まらないという主催者の懸念。しかし実際、大井2800mならおそらくゴールドアリュールがローテーションしだいで出走する。少なくともカネツフルーヴ、リージェントブラフ。長距離に尻ごみする地方馬もありそうだが、そうなれば逆に現在下級馬でも出走のチャンスが出る。帝王賞2000m、大賞典3000m、同年で制した馬に「ボーナス」を考えてもいいだろう。交流開始後、この2レースを連破した馬は、平成10年アブクマポーロ、同12年ファストフレンド。しかし2000m→3000mを克服したとなれば、その重みと価値はまるで別次元、絶大なものとなる。
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大井記念(5月28日、サラ4歳上、別定、南関東G2、2600m)
◎ジーナフォンテン (56・佐藤隆)
○ネームヴァリュー (56・石崎隆)
▲スプリングシオン (56・左海)
△バンケーティング (56・的場文)
△ミラーズライト (54・柏木)
△シルクセレクション (54・森下)
△ウエノマルクン (52・鈴木啓)
ジーナフォンテン、ネームヴァリュー、牝馬2頭の能力を素直に買う。トレード後あっという間に重賞3勝、02NAR最優秀牝馬のタイトルを得たネームヴァリューに対し、ジーナフォンテンはいったん陰に隠れた形。しかし前々走エンプレス杯を豪快な大外一気、続くマリーンCでも先着(2着)し、堂々互角の力関係に持ち込んだ。上山デビュー以来、ダート[11-3-3-1]。まだ掲示板を外していない。何より特筆すべきは実戦向きの燃える気性で、前走マリーンCも体調ひと息を伝えられながら、3~4コーナー、自らまくり気味に動いていった。ややスムーズさを欠くという右回りだが、ゆったり流れる長丁場なら致命的なマイナスにはならないだろう。向正面あたり、道中ほぼ同じ位置からスパートしそうなネームヴァリューに食い下がってパワー勝負。今のデキ、リズムからははっきりジーナに分がある。張田騎手の負傷などで微妙な鞍上配置となったが、元より佐藤隆Jは勝負勘が素晴らしい。
昨秋2400m東京記念を2着したスプリングシオンに条件がそろった一戦。ネックはジリ脚だが、前2走船橋記念3着、テレビ埼玉杯5着、パドックから素晴らしい馬体と気合で、いかにもここに照準を当てたムードがある。バンケーティングは南関転入3戦目。確かに近況は物足りないが、ようやく馬体が絞れる時季になり、追い切りも抜群の動きをみせた。昨秋岩手で、北上川大賞典2400mをレコード勝ちの記録がある。今回は当日ブリンカーを外して臨む。長距離向きミラーズライト、勢いのあるシルクパイロット、ウエノマルクンが連穴。ただし実績上位馬上位の別定戦で、そう大きな狂いは考えにくい。