フランスのドーヴィルでせり市場を開催しているアルカナ社から、今年8月に行われる恒例のイヤリングセールにおける、若干のフォーマット変更が発表になった。
ここ10年ほど、4日間開催が定番となっていた「ドーヴィル・オーガスト・イヤリングセ−ル」だが、2013年はこれが3日間開催に短縮される。具体的には、8月17日(土曜日)、18日(日曜日)がセレクトセッションとして開催され、両日ともに100頭前後、合計で200頭ほどの上場を見込んでいる。続く19日(月曜日)が、180〜200頭の上場を見込んでいるオープンセッションとなり、今年の「オーガスト・イヤリング・セール」はこの3日目のセッションをもって終了となる。
前年と比較すると、12年は8月18日(土曜日)と19日(日曜日)の2日間がセレクトセッションとして開催され、両日とも93頭ずつの合計186頭がカタログに記載されたから、セレクトセッションの有り様としては昨年と今年の間にさほど大きな違いはない。
一方、12年は20日(月曜日)、21日(火曜日)の2日間にわたってオープンセッションが開催され、合計で285頭がカタログに記載されたから、オープンセッションは大幅な縮小となり、オーガストセール全体としても、前年に比べて上場頭数が70頭から90頭少なくなることになる。
この背景にあるのは、生産頭数の減少だ。金融危機が表面化して以降、ヨーロッパ各国の生産界も産業規模の縮小を余儀なくされており、経済的には比較的安定していると言わ
れるフランスも例外ではなかった。
具体的には、09年には5524頭だった国内サラブレッド生産頭数が、10年には5470頭になり、11年には5千頭の大台を割る4984頭まで落ち込んでいる(12年の数字は未発表)。すなわち、わずか2年の間に1割も生産頭数が減っているのだ。
アルカナのドーヴィルセールは、フランス産馬だけではなく広くヨーロッパ各国から上場馬が集う市場ではあるが、イギリスやアイルランドではフランスよりさらに大幅な生産頭数の減少が見られているから、ドーヴィルの市場も規模が小さくなるのも道理なのである。
オーガストセールを短縮する代わりに、という意図があるかどうかはわからないが、アルカナ社は8月のドーヴィルを舞台に新たなセールの開催を決めた。今回発表されたフォーマット変更で、実は関係者の間でオーガストセールの短縮以上に大きな注目を集めているのが、こちらのニューセールの方だ。
「V2セール」と名付けられたこのセール。開催されるのは、オーガストセールから中1日置いた8月23日(水曜日)で、上場されるのは1歳馬だから、オーガストセールの「Version 2=V2」といった意味合いがあるようだ。
それでは、昨年までのオープンセッション4日目が、1日ダークデイを挟む形で水曜日に行われるのかと言えば、そうではない。オーガストセールとは異なる観点でセレクトした100頭から120頭を集めて開催しようというのが、V2セールなのだ。
具体的には、馬体の出来のいい馬、中でも、「仕上がりが早そうで、デビューも早そうな馬」を集めて開催しようという1歳馬市場が、V2セールなのである。
そもそも購買者が、仕上がりが早くてデビューも早そうな馬、という観点を旨に臨むのは、2歳馬市場である。その視点を1歳馬市場に持ち込もうというのは、試みとして実にユニークなものと言えよう。
しかも一般的には、北米産馬に比べるとゆっくり成長すると言われているのが欧州産馬である。そういう中から、早めに動けそうな個体を集めるという市場がどんな品揃えになるのか、これに対して欧州の購買者はどんなリアクションを見せるのか、という点に、関係者の大きな関心が寄せられているのである。
さらにアルカナ社は、競馬統括団体であるフランスギャロの協力を得て、2歳戦にポイントシステムを導入し、最多ポイント獲得馬の馬主にボーナスを支給する「V2チャレンジ」の創設を計画中だ。
対象競走の詳細やボ−ナスの額などは後日発表になるとのことだが、アルカナ社はすでに、主催する2歳トレーニングセール出身馬を対象とした「ブリーズアップ・ジャックポット」というボーナスシリーズの施行を発表しているから、これとリンクしたものになるとの見方が一般的だ。
いずれにしても、「V2チャレンジ」は「V2セール」における購買を後押しする、有効なインセンティヴになることだろう。フランスにおけるユニークな試みが、果して市場活性化につながるか。その行く末を追い掛けてみたいと思う。