酒井学騎手をゲストに迎えた『ご指名対談』第3回。二分厩舎が解散した数か月後から、2007年まで所属した西園厩舎。今回は、西園師との感動秘話から、憧れのあのジョッキーにキレられた(?)若き日の失敗談まで、後輩・高倉騎手が復活までの道のりに迫ります!
■ダメな俺を見放さないでいてくれた西園先生
高倉 学さんがアンちゃんのころからということは、西園先生とはずいぶん長いお付き合いなんですね。そんな西園厩舎から2007年にフリーになったわけですが、なにかきっかけがあったんですか?
「西園先生には感謝しかない」酒井騎手
酒井 おそらく親心だったんだと思うけど、先生がある日「お前、ちょっと外でやってみろ」って。「半年、1年フリーでやってみて、どうしてもやっていけへんようだったら、またうちに戻ってくればいいから。いつでも戻ってこられるように、お前の枠は取っておくから」とまで言ってくださってね。結果的に、そこから右肩上がりになって、いい方向に進んでいけたんだよ。
高倉 そうだったんですね。○○厩舎にも下の子が入ってきているので、僕も近い将来、フリーになることを現実的に考えなくてはいけないんですが、フリーになるにあたって、なにか心構えのようなものはありますか?
酒井 いや、稜はもう大丈夫だと思うよ。所属以外の厩舎にも、たくさん乗ってるしね。エージェントさんが付いていても、各厩舎の先生やスタッフとのコミュニケーションを大事にするかしないかは自分次第だから、そのあたり、稜自身が心がけていけば。あとは、フリーになっても崎山先生が師匠であることには変わりはない。だから、崎山厩舎は大事にしなくちゃダメだよ。俺も西園厩舎の馬は、今でも朝一番にできるだけ乗るようにしてるよ。
高倉 西園厩舎とは、すごくいい関係を築いていらっしゃるんですね。
酒井 少なくとも、俺はそう思ってる。西園厩舎もどんどん成績が上がってきているし、俺自身もおかげさまで、ここまで這い上がることができた。そうやって余裕が出てきてたなかで、改めて見えてきたこともあるし、俺が言うことではないかもしれないけど、分かり合えてきたところもあると思っている。
高倉 ということは、学さん自身がなかなかうまくいかなかった時期は、先生との関係も、また違っていたということですか?
酒井 そうだね。もちろん、直接口にはしていないけど、自分がうまくいかない苛立ちを、先生や周りに向けてしまった時期もあった。でも、これはあとからスタッフに聞いた話なんだけど、結果を出していないジョッキーをなかなか馬主さんに強く推せないなかで、「最低年間60鞍は、学を乗せようと思ってる」って、スタッフに言ってくださっていたみたいで。俺はあとから「先生、そうやって言ってくれてるよ」って聞いて。それも目覚めたきっかけのひとつかな。
高倉 いいお話ですね。
酒井 若いころは、よく出遅れ(朝寝坊)をやらかして、当時はよく「お前、ホントにやる気あるのか!」って怒られてたよ。今思うと、ホントに情けないけど、仕事より若さゆえの遊びたい気持ちが勝ってしまっていた時期があったんだよね。それでも見放さないでいてくれたのが西園先生。先生も器がデカいけど、スタッフの方たちも器がデカいと思う。当時も、上からガーッと言われたことってなかったもん。
高倉 言われないぶん、逆に自分で考えなければいけなかったと。
酒井 そうそう。だから、自分で自分が情けなかったよ。稜は出遅れはないよな?
高倉 正直、1年に1回くらい…。お酒を飲まないぶん、そういう失敗は少ないかもしれませんね。なにせ、飲み屋に行っても、注文するのはコーラですから(笑)。それ以前に、遊びに行っても12時過ぎると眠くなっちゃって。
酒井 お前はおじいちゃんか(笑)。
「早寝早起きです」高倉
高倉 普段は、10時くらいには寝てますからね。
酒井 ああ、酒を飲まへんやつはそうかもな。俺なんて、普段家にいても12時を過ぎないと眠れない。
高倉 当時は、どれくらい遊んでたんですか? 武勇伝がたくさんありそうですが(笑)。
酒井 デビュー当時から同期の竹之下と…(笑)。ここでは言えないほど遊んでたわ。俺からすると、今の若い子はおとなしいなぁと思うよ。
高倉 そうでしょうねぇ。
──そんななかでも、高倉、川須コンビは、プライベートを満喫しているように見えますが(笑)。
高倉 いえいえ、学さんの時代とは、比べものにならないと思いますよ。さっきも言いましたけど、お酒をあまり飲まないので。ちなみに学さんは、最近はどなたと飲みに行ってらっしゃるんですか?
酒井 この前は、四位さんと飲みに行ったな。デビュー当時から四位さんは憧れの存在だったんだけど、そのころの四位さんは、話したくても話しかけられない存在だった。(池添)謙一が四位さんと仲良くしているのを見て、すごくうらやましかった。で、ある夜、飲みに行ったら、たまたま同じ店に四位さんがいてね。酔っ払った勢いで話しかけたら、めっちゃキレられて(笑)。
高倉 えっ? 学さん、何をしでかしたんですか!?
酒井 今思えば、四位さんがキレたのは当然なんだよ。だって俺、完全にろれつが回ってなかったもん。「すみません」って言おうにも、言えないくらい酔っ払っていて、今思うと失礼極まりないよな。四位さんからしたら、泥酔した後輩に、突然絡まれたようなものだから、そりゃあキレるって。でも、今ではいろんな話を聞いてもらったりして、仲良くしてもらってる。
──四位さん、酒井さんのこと、すごく褒めていらっしゃいましたよ。
酒井 ホンマですか!?
──バレットさんをつけていらっしゃらなかった時代に、誰よりも遅くまで残って、ご自分の馬具の手入れをされていたそうですね。「若手にも見習ってほしい」と、四位さんがおっしゃっていました。
酒井 ああ、乗り鞍が少なかった時期は、自分で手入れをしていましたね。今は自分一人では回せないので、バレットさんにお願いしているんですけど、当時はたしかに人一倍時間をかけて、やっていたかもしれません。そういう細かいところを見てくださっていたのは、なんだかうれしいですね。
高倉 道具を大切にするということは、僕も大切なことだと思っています。
酒井 自分の命を預けるものだからね。稜にとっては、バレットさんがいるのが当たり前だもんな。
高倉 そうですね。スミマセン、ゆとり世代なんです(笑)。
酒井 自分で言うか(笑)。でも、道具を大事だと思う気持ちは、これかも持ち続けてほしいな。
【次回のキシュトーーク!は?】
酒井騎手×高倉騎手の『ご指名対談』最終回。昨秋のJCダートでは、お手馬ニホンピロアワーズを見事にトップゴールに導いた酒井騎手。2006年、結果的に復活へのきっかけとなった1勝も、やはりニホンピロの馬だった…!? 次回、ついに復活劇の全貌が明らかに!