酒井騎手×高倉騎手の『ご指名対談』もいよいよ最終回。昨秋のJCダートでは、ニホンピロアワーズを見事にトップゴールに導いた酒井騎手ですが、そのきっかけとなった1勝が、2006年にありました。高倉騎手が、ついに復活劇の全貌に迫ります!
■大切なのは、感謝の気持ちを持ち続けること
──2006年の年間1勝から、フリーになった2007年には年間8勝。そのころから徐々にリズムを取り戻していきましたよね?
酒井「危機感は常に持っていた」
高倉「右肩上がりのきっかけは?」
酒井 そうですね。でも、いつ逆戻りしてしまうのかという危機感は常に持っていました。フリーになって、一人でやっていける自信なんて、まったくなかったので。
高倉 でもその後は、学さんの言うように、右肩上がりで。やはり、なにかきっかけがあったのですか?
酒井 今思えば、2006年に唯一勝ったレースかな。それが、ニホンピロコナユキという馬でね。管理されていた服部先生には、それ以前からお世話になっていたんだけど、当時、服部厩舎にいた助手さんが、「調教だけでもいいから、乗っておけよ」って言ってくれてね。そのなかで、1頭2頭、競馬でも乗せていただいていたんだけど、そのうちの1頭がコナユキで。それで、次の年の北九州記念だったかな。大橋厩舎のニホンピロブリュレに49キロで乗って、4着(16番人気)に好走したりして。で、その年の暮れに、ニホンピロレガーロに出会ったんだよね。ニホンピロさんの馬でうまく結果を出すことができた時期だったから、いい印象を持ってくださったんだと思う。当時、ニホンピロさんの現場担当の方で、大山さんっていう方がいてね。その方が、ものすごくバックアップしてくださって。
高倉 やっぱり、人と人とのつながりなんですね。
酒井 そうなんだよね。その大山さんが、俺の熱い部分を気に入ってくださって、いろんな厩舎に売り込んでくれたんだよね。それで乗せていただけるようになった厩舎もけっこうあるよ。
高倉 そのニホンピロさんの馬でGIを勝つなんて、なんか運命的なものを感じますよね。
酒井 コナユキがいなかったら、小林オーナーや大山さんと出会っていなかったかもしれない。そして…。今思えば、ホントに2006年のあの1勝が、大きなターニングポイントだったんだな。
高倉 学さんの人柄があってこそだと思います。誰かに認めてもらうって、大変なことだと思いますから。
酒井 今思えばだけど、俺自身、腐らなかったのが一番だと思う。競馬に乗れなくて、ふて腐れている姿を見て、誰が手を差し伸べようと思うんだって、自分で思ったから。どうしたら人とうまくコミュニケーションが取れるんだろうって、すごく考えた。
高倉 同じ状況になったら、僕は腐らない自信がありません…。けっこうネガティヴなんで。去年、4カ月くらい勝てなかった時期があったんですよ。今思うと、ちょっと危なかったです。学さんからすれば、“たったの4カ月”でしょうけど。
酒井 そんなふうには思わないよ。俺とは状況が違うし、そこは落ち込んで当然だよ。俺の場合は、ほとんど調教要員で、ジョッキーとして成り立ってなかったからね。俺だって、一時は腐ったよ。結局、新聞記者にしても雑誌にしても、上位のジョッキーばかりをちやほやして、本当に苦労しているジョッキーがいることをわかってない! とか、思っていた時期もあった。でも、わかってほしかったら、自分から伝えていかなければいけない、そういう姿勢を仕事で見せるしかないんだと思うようになって。それからは、調教も1頭1頭真剣に乗るようになった。たとえ競馬に乗れなくても、ジョッキーとして財産になるものがあるはずだから、なにかを感じよう、なにかを感じようってね。そういう気持ちの変化も、今につながってるのかなぁって思う。
高倉 人と人とのつながりだったり、そのなかで生まれた気持ちの変化だったり。今の学さんがある要因は、ひとつではないということですね。
酒井 そうだね。でもやっぱり、支えてくれた人たちのおかげだと思う。
高倉 そんななかで、ニホンピロアワーズに出会って。
JCダート勝利インタビュー
酒井 初めて跨ったときに、この馬は絶対に大きいところを獲れると思った。格が違うなって。最初は幸先輩の代打だったんだけどね。小倉で勝つことができて、そのときにオーナーが「学、次もちゃんと乗れよ」って言ってくださって。あのタイミングで出会っていなかったから、GIを勝つこともなかったんだなぁと思うと、なんか怖くなってくるよ。
高倉 そういう馬に出会えることって、すごく大事ですよね。
酒井 めったに出会えないとは思うけど、逆に、いつそういう出会いがあるかもわからない。稜はまだまだ4年目だから、これからたくさんの出会いがあるよ。
高倉 ジャパンCダートは中京で観ていたんですけど、みんなめっちゃ盛り上がってましたよ。直線に向いたとき、学さんがいい位置にいたから、「学さん!」って一瞬叫んだんですけど、手応えが良すぎて叫ぶ必要がなくなりました(笑)。あまりにも強い勝ち方だったから、鳥肌が立ちました!。
酒井 そういう話を聞くと、やっぱり嬉しいね。ゴールした後、流しているときに、四位さんとか浜ちゃん(浜中騎手)とか、みんなが「やったなぁ!」「学さん、おめでとうございます!」とか、声をかけてくれて。ああいうのは、やっぱりGIでしか味わえないよね。
高倉 やっぱり込み上げてくるものがありましたか?
酒井 それがねぇ、なかったんだよね。絶対に泣くだろうなと思ってたのに。嬉しすぎたんだろうね。いや、テンパって、わけわからなくなってたのかも(笑)。
──高倉くん、酒井さんにもっと聞いておきたいことはありますか?
高倉 ジョッキーとして、ずっと持ち続けているポリシーのようなものはありますか?
酒井 ん〜、デビューしたころと今では別人だからねぇ。今の俺が当時の俺の先輩だったら、ボコボコにしてるよ(笑)。今思っているのは、調教でもレースでも、どんな馬でも一生懸命に乗ること。馬券を買っているお客さんは、後ろのほうの馬なんて見ていないかもしれないけど、その馬に携わっている関係者はそうじゃない。そういう方たちの気持ちをつねに汲んで、乗りたいと思ってる。
──では最後に、今回ご指名を受けた先輩ジョッキーとして、今後の高倉くんにアドバイスを。
とっても仲良しの先輩後輩
高倉 お願いします!
酒井 今の稜の気持ちを忘れないでやっていけばいいと思うよ。あとはそうだやな、感謝の気持ちを持ち続けることかな。周りの人たちに対して感謝の気持ちを持ち続けていれば、おのずと頑張らなくちゃ! と思うはずだから。あとは、後輩の見本になるような、そんなジョッキーになってほしいな。
高倉 今日は本当に勉強になりました。学さんがデビューしてから今に至るまでが、頭のなかに映像で浮かぶくらい、いろいろとお話いただいて。本当にありがとうございました。
【次回のキシュトーーク!は?】
「ご指名対談」第2弾のホストは川須騎手。川須騎手が、ぜひ対談してみたい! と切望したのは、2012年のリーディングジョッキー・浜中騎手です。同じ九州出身で、デビュー2年目に大きな飛躍を遂げたという共通点を持つふたり。悩める川須騎手に、浜中騎手が熱く答えます!