7月8日「ジャパンダートダービー」。例えばここに“時計”という物さしがなかったら、「ダート無敗対決」、そのムードも熱気も本物になっただろう。がしかし現実にはユートピアは前走ユニコーンSを驚異のレコードで圧勝し、対してナイキアディライトは前走東京ダービー2分08秒9、過去5年中最も遅い平凡な記録だった。次元が違う、ステージが違う、もちろんそうは思いたくないが、ごく冷静、客観的にはそうなってしまう可能性も否定できない。
ともあれ、この2頭に共通した死角といえば「距離」だろう。アディライトはなるほどダート6戦6勝、1790mの羽田盃まで一昨年トーシンブリザードとほぼ同水準の時計をマークしたが、それが前走ダービー2000mでにわかにトーンダウンした。単に机上でいうなら最後の1ハロン、何と16~17秒も要した計算。2着ナイキゲルマンとは同様の5馬身差だけに、どうにも解せない。相手なり、流れなりということか、あるいはレベルの問題か。いずれにせよスピード血統でピッチ走法。さまざまな経緯もあり、まだ競り合う競馬自体を経験していない。今回は大きな試金石、手探りというほか言葉がない。
対してユートピアの不安とは多分に漠然としたものだ。距離2000mは芝にせよ阪神毎日杯2着ですでに裏付けを作っているし、続くNHKマイルC、ユニコーンSとも記録的な価値がきわめて高い。いわく傑出した絶対能力。が、それでも漠然とした不安を拭えないのは、スピードがありすぎる、軽やかすぎる、少々皮肉な意味で大井コースとイメージが合わないからと思い浮かぶ。加えてユートピアの歩みは、00年アグネスデジタルのそれと酷似している。川崎・2歳優駿を圧勝し、ダート無敵で臨んだはずのこのレースが何と14着の大敗だった。むろんアグネスはその後飛躍的に地力強化。マイルCSを勝ち、天皇賞、フェブラリーS連破、ついに海外遠征・香港Cも制してしまうのだが、3歳春、現在の状況だけとれば今回ユートピアと同じといっても嘘ではない。
ジャパンダートダービー(サラ3歳 定量 統一G1 2000m)
◎ビッグウルフ (56・武豊)
○ユートピア (56・安藤勝)
▲ナイキアディライト (56・石崎隆)
△ブイロッキー (56・松永幹)
△ナイキゲルマン (56・的場文)
△トワノカチドキ (56・蛯名)
△アヅマデフィート (56・桑島)
アルファフォーレス (56・横山典)
コスモベルモット (56・金子)
奇をてらったわけではけっしてないが、思いあぐねるうち、何やら変化球的な予想になった。ただし、ビッグウルフは兵庫CS、名古屋優駿を連破、深いダートの適性に絶対の自信がある。園田ではおよそ絶望的な位置から大外一気、名古屋ではその教訓を生かしたような自力のまくり。絶対的なスピード能力ではユートピアに見劣っても、うってつけの土俵という意味で信頼度が高いとみる。実馬を肉眼で見たのは中山・ヒヤシンスSの1度だけだが、馬体にも走法にもとうてい420キロ台の小兵とは思えないスケールと奥行きを感じた。
○ユートピア、▲ナイキアディライトとしたが、この予想は両馬を疑ってかかったところに出発点があり、馬券はブイロッキー、以下人気薄のJRA馬トワノカチドキ、アルファフォーレスあたりにも流してみたい。ナイキゲルマンは的場文Jともども今度こそ純粋にお気楽な立場にある。自分の競馬に徹し、ここでどれだけ善戦できるか。アヅマデフィート、コスモベルベットにもそれはいえる。
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7月3日、船橋競馬新馬戦。注目の外国産馬2頭、マークオブオナー、ゼレンカはともに3着、初陣を飾れず終わった。マークオブオナーは2番手から伸びひと息、ゼレンカは中団からじわりと差を詰めただけ。しかし前者「今日はともかく、先々必ず走ってくる馬」(石崎駿騎手)、後者「馬が若い。短距離向きじゃないしね」(石崎隆騎手)と、陣営は特にショックをみせていない。ひとまず実戦を叩き、その効果と経験に期待だろう。ゼレンカは次開催、もう一度チャレンジできるJRA認定競走に出走予定。マークオブオナーはいったんひと息入れて立て直しを図る。
デビュー勝ちの3頭は、ニンジャ(牡 父ロイヤルタッチ)、エーピーライデン(牡 父ワカオライデン)、ピーエムドヌール(牡 父トーヨーリファール)。中では1000m1分1秒1、3番手から差し切ったエーピーライデン、同1分1秒3、直線抜け出し後続を9馬身ちぎったピーエムドヌールの勝ちっぷりが目立った。それにしても3頭、いずれも父内国産。評判の外国産馬を退けるあたりが、地方競馬の面白さ、いってみれば味なのだろう。