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ラジオNIKKEI賞

  • 2013年07月01日(月) 18時00分
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 ハンデ戦に変った2006年以降、波乱必至の難しいローカル重賞に変化したが、今年はその難解なハンデ戦を象徴するように、勝ったケイアイチョウンから最下位16着のサンブルエミューズまでわずか「0秒9」差。とりわけ難しい結果だった。

 勝ったケイアイチョウサンの小笠倫弘調教師は「典さんのおかげ。まさに名手の騎乗でした」といえば、その横山典弘騎手は「追ったのは一瞬だけ。ステイゴールドの切れ味をたっぷり見せてもらった」とほかに勝因を振り、1番人気で15着に沈んだ内田博幸騎手(この週の福島で5勝の大活躍)は、「とてもこんな馬ではないはずだが…」と首をかしげたレースだった。

 開催日程の変更で、開幕週の1800m。同日の未勝利戦1800mで1分47秒1が記録されたくらいだから、夏の野芝が根を張った走りやすいコンディションは間違いないが、といって極端に時計が速くなるような軽い高速の芝でもない。

 レース全体の流れは前半1000m通過「60秒5」。明らかに緩い流れ。でも、ピッチの上がった後半の時計も「47秒4-35秒2-12秒2」。勝ち時計は平凡な1分47秒9。全体の流れが速くなれば、つれてある程度の速い勝ちタイムは生まれるが、ペースが落ち着いたからといって、高速の上がりを繰り出せる芝コンディションでもないのである。

 ダートの成績も含まれるが、開幕第1週の福島では、内田博幸「5勝」、横山典弘「4勝」、蛯名正義「4勝」、江田照男「2勝」、柴田善臣「2勝」…など、ベテラン騎手の好成績が目立った。

 道中のコース取り、流れに合わせたスパートのタイミング、このコースで持ち味を最大限に生かす脚の使いどころ、芝の特徴を察知する感覚など、小回りの平坦に近いコースに移ってベテラン騎手の体に染み込んでいるテクニックがフルに発揮されたのが第1週であり、そのきわめつけがメインのラジオNIKKEI賞(芝1800m)だったかもしれない。

 ケイアイチョウサン(父ステイゴールド)は、1月の京成杯GIIIで悔いの残る小差3着があるほどだから、ハンデはトップと2キロ差だけの54キロ。同馬のここまでの評価とデキの良さに注目したファンには、横山典弘騎手に乗り代わって8番人気は伏兵以上の評価が可能だったろう。

 ダッシュはつかないから後方3番手前後を追走。レースの流れは前半1000m通過60秒5のあともピッチが上がったわけではなく、1200m通過1分12秒7-1400m通過1分24秒2」では、完全にスロー。残る勝負は300mにも満たない短い直線。3コーナー過ぎでは最後方になったケイアイチョウサンの狙う進路は限られた。まして開幕週。インの芝はいい。スローで大半の馬にまだ脚のある短い直線勝負は前がつまる危険を避けるように自然に横に広がりがち(なことが多い)。インをねらった横山典騎手は、内が詰まれば勝機どころか好走もないのは承知。伏兵ゆえの位置取りから、逆転を狙うイン強襲策だったことはいうまでもないが、まるで約束されていたようにインにはスペースが生じた。「追ったのは一瞬だけ」というゴール寸前には、粘るナンシーシャインと、抜け出しかかったフラムドグロワールとの間に、ちょうど1頭分だけ抜ける隙間が生じているから不思議である。決して読み通りだったとは思えない。また逆に、一か八かの勝負に賭けたわけでもない。しかし、狙ったインは確かにガラッと空いたのである。

 2着のカシノピカチュウ(父スタチューオブリバティ)も、こちらは中団だったが、勝ったケイアイチョウサンと同じようにインにこだわった。4コーナー手前では少し置かれるように苦しくなったが、そのまま外に出さずに内寄りを突っ込んでくると、直線で大きく横に広がった馬群に、いつのまにか前が開くように進路がひらけていた。西田雄一郎騎手にとって大魚を逸した痛恨のクビ差だったが、イン死守作戦は大正解。さらにインを衝いた馬がいただけである。

 うまく流れに乗った3着アドマイヤドバイ(父アドマイヤムーン)、4着フラムドグロワール(父ダイワメジャー)は、このスローにも近い流れだから最高のレースを展開したと思えるが、アドマイヤドバイは追い比べになっての鋭さもう一歩。フラムドグロワールは3着だったNHKマイルC(1分32秒8)を考えると案外だったが、NHKマイルC→日本ダービーと進んだあとだけに、デキは落ちてはいないものの、プラスはなかったということか。

 よく分からないのは、人気の中心だったガイヤースヴェルト(父ダイワメジャー)。ハンデ戦になった近年のラジオNIKKEI賞は、春のGIで激走を重ねた馬の信頼性が乏しいのは知られているが、ガイヤースヴェルトはNHKマイルCを1分33秒0の5着だから、別に激走したというほどのことはない。内田博幸騎手を含めた陣営も、好勝負を疑っていなかったが、スタートしてさっと好位におさまるはずが案外の行き脚で7~8番手の外。まくって行くはずの3コーナー過ぎからは、もっと後方にいた伏兵に外から抜かれ、見せ場らしいシーンはまったく見いだせなかった。

 ここまでまだ4戦だけの3歳馬。実際のレースが期待通りに、考えた通りにいくものではないからこういう凡走は必ずある。もしかすると、初の福島コースがまるで合わなかったのかもしれない。かつて、福島を代表するハンデ重賞の「七夕賞」は、東北記念当時を含め、1番人気馬が26連敗をつづけた大変な記録をもっているが、ラジオNIKKEI賞はその伝統をうけつぐハンデ戦に育って不思議ない。古馬と異なり、この時点で福島巧者はいないのだから…。

 失速してしまったインプロヴァイズ(父ウォーエンブレム)も、楽勝だった前回の1800mの内容から10着に後退する馬とは思えなかったが、こちらは外に回った向う正面でかかってしまったのが敗因。ウォーエンブレム産駒の好調期間とリズムを合わせるのは難儀なこととされるが、やっぱり難しい馬だった。「しかし、なぁ…」。「それにしても…」。夏のローカル戦のスタートは、いきなり長くつづく暑い夏を予感させた。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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