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八戸“歩”市場

  • 2013年07月03日(水) 18時00分
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 昨年より一カ月ほど早く八戸市場が、7月2日に八戸家畜市場(三戸郡南部町)にて開催された。

市場内の風景

市場内の風景

 酷暑に見舞われた昨年とは異なり、今年はさぞ涼しい中で市場が行われるものと期待して現地入りしたが、生温かい南風が湿った空気を運んできて、思いの他気温が高かった。やはり本州最北端とはいえ、青森は日高から見れば紛れもなく“内地”である。

 今年の八戸市場は、「歩」がテーマ。「一歩ずつ前へ」という意味だ。毎年、八戸市場は真ん中に漢字一文字が入り昨年は「駒」(この駒と明日を駈ける)、一昨年は「祭」などというように毎年変わるのである。これはなかなかしゃれている。

 市場には今年、72頭の上場申し込みがあったが、当日2頭が欠場し、最終的に70頭が顔を揃えた。

 昨年も一昨年もそうだったが、青森は今や北海道などからの遠征組がいなければ市場が成り立たないレベルまで生産頭数が減ってきている。今年も北海道から36頭もの申し込みが寄せられ、地元の青森産馬(宮城や千葉などを含めての話だが)と半々にまで拮抗してきた。

 午前9時半より市場横の広場にて比較展示が開始された。70頭を4グループに分かち、それぞれ20分程度の展示を行う。概ね1グループあたり17頭~18頭である。展示の最後には、各馬が大きく輪になって時計回りに1~1.5周し、1頭ずつ速歩を披露する。

待機厩舎から上場馬が上がって来る様子

待機厩舎から上場馬が上がって来る様子

挨拶をする山内正孝組合長

挨拶をする山内正孝組合長

 地元の生産者は年々高齢化が進んでおり、また慢性的な人手不足でもあることから、繰り返し出てきて馬を引く人が何人もいた。待機厩舎は、坂を下った場所に順に並んで建てられており、最も遠い厩舎からだと100m以上も“坂路”を上がってこなければならない。炎天下、これだけでも難行であった。

 たっぷり時間をかけて展示が終了すると昼食タイムとなる。今年も場内の一角にテントが設けられ、そこで蕎麦やカレーライス、地元の名産である「せんべい汁」などが配布された。購買者ではないが私も列に並んでそれらを受け取った。

 12時45分よりセリが始まった。

 開会に先立ち、主催者を代表して青森県軽種馬生産農協・山内正孝組合長が「今年は購買者の方々が70人ほど登録して頂いております。お1人1頭ずつご購買頂ければ完売になります。どうぞ活発な競り合いをお願い申し上げます」と挨拶した。

 しかし、セリの前半は、まことに厳しい雰囲気で終始した。上場番号30番までの間に、一声でもかかって落札されたのはわずか5頭のみ。主取りが続出し、市場の空気が重くなった。

 70頭では、比較展示の段階から購買者の目を引く馬が限定される。見ているとだいたいこの馬とあの馬というように、競り合いになりそうな馬が予想できる。

 今年はそうした素材が中ほどから後半に集中していたようで、30番台になってからは一転してセリらしい雰囲気に変わってきた。

最高価格馬のウィギングの2012

最高価格馬のウィギングの2012

最高価格馬のニシノアリスの2012

最高価格馬のニシノアリスの2012

牝馬最高価格のエリザベススイート24

牝馬最高価格のエリザベススイート24

 JRAも積極的に購買し、昨年を1頭上回る5頭を落札した。終わってみれば、上場頭数70頭(牡40頭、牝30頭)のうち、26頭(牡19頭、牝7頭)が落札され、総額7087万5千円の売り上げであった。昨年よりも252万万円の減となったが、平均価格は43万円2368円増の272万5961円。一部の上場馬に人気が集中し、予想以上に競り上がる傾向がより顕著に出た。ただし、売却率は残念ながら昨年より10.7ポイント下落して37.1%に終わった。

 最高価格馬は44番「ウィギングの2012」(父キンシャサノキセキ、母ウィギング、母の父ウォーニング、牡青鹿毛)と67番「ニシノアリスの2012」(父チーフベアハート、母ニシノアリス、母の父サクラバクシンオー、牡鹿毛)の693万円(税込)。ともにJRAが活発な競り合いを制して落札した。

 ウィギングの2012は(株)タイヘイ牧場の所有馬で、ここ数年来、八戸市場では高額馬を輩出し続けている。またニシノアリスの2012は浦河の櫛桁牧場生産馬。飼養管理者は藤春修二氏。

 牝馬の最高価格馬は60番「エリザベススイート24」(父デュランダル、母エリザベススイート、母の父ティンバーカントリー、栗毛)の598万5千円。日高町・白瀬盛雄牧場生産、飼養管理者は(株)門別牧場。購買者は(株)レックス。

 地元産馬と北海道からの遠征組はほぼ半々の上場頭数であったが、価格を別にすれば、今年は地元組の健闘が目立った。宮城や千葉を含む地元(とは厳密には言えないのだが)産馬が16頭落札されたのに対し、北海道組は10頭にとどまった。

 市場終了後、山内組合長は「正直なところ、もう少し上場頭数が欲しいですね。それと目玉商品も。開催時期(昨年より1か月早い)もこれで良いのかどうか検討する余地があります。何とかして県内唯一の1歳馬市場である八戸市場を存続させて行かなければならないと考えております」と振り返った。

 青森県内の多くの生産者にとってはこの市場が唯一の販売機会である。年々、県内の生産頭数(そして戸数も)は減少の一途だが、青森の生産の灯を絶やさぬためにも、何とか続いて欲しいと、ここを訪れる度に強く感じる。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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