この春はローカルから中央に主戦場をシフトし、西へ東へ大忙しだった松山騎手。ドリームバレンチノとのコンビでは、高松宮記念、函館スプリントSと、悔しい思いも味わいました。はたして松山騎手にとって、「2013年の春」とはどんなシーズンだったのでしょうか。騎手・松山弘平の“今”に迫ります!
■レース直後は涙をグッとこらえました──前回、お話を伺ったのは、ちょうど高松宮記念の直前でしたよね。藤岡佑介さんと対談していただいて。今日はその高松宮記念も含め、春競馬を振り返っていただきたいんですが、まずはその高松宮記念のお話を。「とにかく勝ちたい! でも勝てなかったらどうしよう…っていう不安でいっぱいなんです」とおっしゃっていたのが印象的です。
レース直後は涙をグッとこらえました
松山 ああ、そうでしたね。すごく楽しみな半面、僕自身にすごく不安がありました。人気するのはわかっていましたし、自分のなかでは“イケる!”という思いがあったので余計に。
──でも、対談のときに佑介さんが「相手(ロードカナロア)は勝って当然の立場。だから、弘平ちゃんは思い切って乗ればいいんだよ」っておっしゃって。
松山 そう言っていただいて、少し気持ちが軽くなった覚えがあります。実際、馬の力を信じて思い切って乗れました。でも結果は2着…。すごく悔しかったです。
──人気馬でGIに挑むのは初めての経験でしたが、当日はどんな気持ちでレースを迎えられました?
松山 失敗したらどうしよう…っていう気持ちはなかったんですけど、やっぱり勝てるんじゃないかっていう気持ちがあったので、すごく緊張しました。どうしたらカナロアに勝てるのかって、そればかり考えて。
──「作戦は枠順次第」とおっしゃっていましたが、同じ6枠に入って。
あの枠で良かったんじゃないかな
松山 あの枠で良かったんじゃないかなと思います。馬場状態を考えても、内のほうは嫌でしたし。正直、カナロアが1番枠とかだったらチャンスが広がるなっていう思いはありましたけどね(笑)。同じ枠ということで、本当に力比べというか、小細工が利かない展開になりました。ただでさえ、中京は馬の能力がはっきりと出る競馬場ですからね。逆に、スプリンターズSのほうが逆転は可能なんじゃないかなと思ってます。
──それはまた、秋に向けて頼もしいお言葉。手応えを感じていらっしゃる。
松山 高松宮記念も“勝てる!”って思ってたんですけどね(笑)。GIは甘くないなぁって痛感しました。そういえば、レース前日、岩田さんと一緒に中京に移動したんですよ。
──そうだったんですか。やはりレースの話になりましたか?
松山 はい。「緊張しますね…」って僕が言ったら、岩田さんも「胃が痛い…」って(笑)。「ロードカナロア、ジェンティルドンナ(ドバイ)って続くからなぁ」っておっしゃってました。それにしても、カナロアは強かったですねぇ。
──たしかに。でも、そのカナロアに1馬身ちょっとまで迫ったわけですから。
松山 スタートで不利がありながら、よく2着まで追い上げてくれたと思います。本当によく頑張ってくれました。でも、終わった後は本当に悔しくて、涙が出そうだったんです。
──そうでしたか。それはやっぱりレース直後ですか?
松山 そうです。記者の方たちに囲まれて「残念だったね」って言われたときに、いろんな思いが込み上げてきて…。本当にいろんな方たちが応援してくださって、だから自分の気持ちだけではなく、そういう方たちの気持ちも背負って戦った一戦でしたから。ホントに泣きそうでした。でも、負けたときではなく、勝ったときまで涙はとっておこうと思って必死にこらえたんです。
──ご両親も応援にいらしていたそうですね。
松山 はい。両親だけではなく、地元(兵庫)の友達も競馬場まできてくれていたんです。「頑張れ!」っていうメールも、ホントにたくさんの方からいただいて。
──改めて、ご自分の騎乗についてはどう評価されますか?
松山 カナロアの前で競馬ができたら良かったなぁとか、いろいろ思うところはあります。スタートでも挟まれてしまいましたしね。でも今は、そういうこともすべて、今後に生かせればいいなと思っています。あ、僕の騎乗でいえば、直線で追っているときのフォームが、もう必死すぎて…。あとでVTRを観たら、すごく変でした(笑)。
──あの場面では、誰だって必死になりますよ。
松山 競馬場に来てくれていた友達は、僕の最後の直線での必死な姿を見て、「ちょっと泣きそうになった」って言ってました。それくらい、いつもと何かが違ったんでしょうね。
【次回のキシュトーーク!は?】
この春は、高松宮記念以外にも、ヴィクトリアマイル、オークス、ダービーに騎乗するなど、騎手として着実にステップアップしている松山騎手。次回は初めてのダービーで感じたこと、中央場所で戦っていくことへの手応えや不安など、リアルな胸の内を明かします。