発表は良馬場でも、多くの騎手が「こういう馬場にしては…」と振り返ったように、また、ダートは終日「稍重」のコンディションだったから、蒸し暑く、前日のスコールの影響が残るタフなコンディションだった。
それを考慮すると、マイネルラクリマ(父チーフベアハート)の記録した1分58秒9のレースレコードの価値は高い。時計が速いという意味ではなく、そのレース運びと勝ちっぷりの与えた印象は、きわめて「強い」馬のそれだった。
前日から上位人気馬の順位が一転二転していたが、最終的にマイネルラクリマが1番人気に浮上したのは納得。パドックに登場した同馬の状態は、あふれる闘志をほどよく前面に出し、馬体の迫力も文句なし。16頭の中できわだって光って見えた。また、不良馬場で行われた春の福島民報杯を圧勝していたから、良馬場発表とはいえ少し時計のかかるコンディションが判明すると、その評価は直前になるほど高くなった。
レースの流れは、外から先手を主張したラッキーバニラに対し、内のケイアイドウソジンも簡単にゆずらない形となり、前半から予想以上に速くなった。2~3ハロン目に連続して10秒台が刻まれるハイペースとなり、レース全体のバランスは、前後半10000m「58秒6-60秒3」=1分58秒9。それでいながら「最後11秒9-12秒1」。マイネルラクリマは少しも鈍っていないからすごい。
1番人気のマイネルラクリマがハイペースを積極的に3~4番手で追走し、なおかつ3コーナー手前から先頭を奪いかねない勢いで進出したから、数字以上に後半は厳しくなった。直線が300mにも満たない福島の重賞で、2馬身半差のレースレコード勝ちは独走に近い圧勝である。
おそらく当初の狙いはサマー2000シリーズのチャンピオンだったと思えるが、柴田大知騎手は「もっと大きいところを狙っていきたい」と、強さあふれる内容を絶賛。賛成である。
そして表彰式。その柴田大知騎手と上原博之調教師に、若い記者から「ちょっと、ちょっと。しつこく握りすぎていないか」「早く手を離せ…」。口惜しい悲鳴が上がっていた。
1年以上の骨折休養から完全に立ち直ったマイネルラクリマは、マイル重賞を1分32秒台で勝ち切るスピード能力があると同時に、今回は2000m1分58秒9で完勝。不良馬場を2分02秒3で完勝したパワーとスタミナもある。
父チーフベアハート(大きく広がるダンチヒ系のチーフズクラウンがその父)といえば、天皇賞.春を制したマイネルキッツ、まったく逆タイプのビービーガルダン(キーンランドC)、そして朝日杯FS1600mのマイネルレコルトなどが代表産駒。さまざまなトップホースがいる。
マイネルラクリマは、母の父サンデーサイレンス。さかのぼるファミリーはスワップス一族として知られるパワーの快速牝系で、4代母サニースワップス(父ハワイ)は、蘇った迫力のダートチャンピオン=トランセンド(父ワイルドラッシュ)の3代母でもある。ちょうど横目で見ていたセレクトセールに、マイネルラクリマの半妹になる「ティアドロップスの2012(父クロフネ)」が出場してきた。タイミングがいいから1500万円で落札されている。秋のビッグレース挑戦になったときのマイネルラクリマに注目したい。
力強いレース運びで2着に押し上げたのは、評価の分かれていた6歳トレイルブレイザー(父ゼンノロブロイ)。この春に遠征したドバイでは、苦しくなると抵抗せずに下がってしまうようなレースを連続させたため今回の評価は難しかったが、厳しい流れで底力が問われた中、58キロのトップハンデで2着にがんばったのはさすがだった。決して完調とはいえない状態だったのが陣営も認める今回なので、もう一度巻き返してくる可能性はある。
3着に突っ込んできた伏兵タガノエルシコ(父マヤノトップガン)は、ずっとインを回って、ラジオNIKKEI賞のケイアイチョウサン、カシノピカチュウと同じようなレース運び。自分から動いて出て勝ち負けに持ち込める力関係ではないから、これは田辺裕信騎手の隠れたファインプレーだろう。8歳馬の渋いレース巧者ぶりを100%出し切っている。
軽快なスピードや、鋭い切れが生きるハンデ重賞ではなく、底力が問われる流れになってしまったから、入着にとどまったグループは仕方がない面があると同時に、やっぱり物足りなかった。
2番人気のダコール(父ディープインパクト)は、詰めの甘さがカバーできる小回りコースのハンデ戦はぴったりかと思えたが、詰めの甘さは同じで、逆に底力のなさを露呈したか。
3番人気のエクスペディション(父ステイゴールド)は、ひとたたきして狙いを定めた今年は8着にとどまった昨年とは違うと思えたが、なんと昨年と同様の着順。勝ち馬との差は昨年と同じ「0秒7」だった。やけにカリカリして入れ込みにも近い状態で、体も細くなっていた。この厩舎、坂路の密集時間に追うことが多い。他馬の進路を避けるように内ラチを通って首を曲げていたエクスペディションの最終調整にやや「?」があったが、鳴尾記念をひとたたきしたものの、良化したというより反動が出てしまったのかもしれない。このあと小倉記念での評価が難しい。
ユニバーサルバンク(父ネオユニヴァース)は、追い切りは珍しく良くみえたが、いざ当日は覇気に乏しく、また騙されてしまった印象がぬぐいきれない14着。分からない馬である。
4着マックスドリーム(父アドマイヤマックス)は、開幕したばかりのこの2週、大外をまくって進出して好走した馬などいないことを考えると、あれで0秒6差は、このあと侮れない。
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