スマートフォン版へ

常に勝っていなければいけないという思いにかられて…〜松山弘平騎手編(3)

  • 2013年07月17日(水) 18時00分
この春から完全に主戦場を中央に移し、オークスやダービーにも騎乗。勝ち星でも関西6位と、一見順調に見える松山騎手ですが、どうやら気持ちの面で壁にぶち当たっている様子…。そこには、昨年から一気に成績を伸ばしたことに起因する葛藤がありました。今回は、そんな松山騎手のリアルな胸の内に迫ります。
(取材・文/不破由妃子)

■あのころに戻ってしまったらどうしよう…

──今朝の調教でも、スタッフの方に「元気がない」といわれたということですが、先週(函館スプリントS)勝てなかったことも含め、自分自身に求めることのレベルが上がっているのではないですか? 

松山 ああ、そうかもしれませんね。だって…勝ちたいんですもん(笑)。

──さきほど、「1番人気でなかなか勝てない」とおっしゃってましたが、1番人気といえど、勝率が2割あればいいほうだと思います。でも、今の松山くんは“全部勝ちたい!”という気持ちが強いから、自分自身に苛立ってしまうとか。

松山 確かにそうかもしれません。1番人気に乗ったら、とにかく“全部勝たなくては!”と思いますから。でも実際は、先週の函館スプリントSもそうでしたけど、ホント、1番人気に乗ったら飛ぶなぁって(苦笑)。

──周りの印象はそうではないと思いますよ。今、モチベーションがものすごく高いんでしょうね。だから、周りから見れば十分結果を出しているのに、自分では満足できない。

松山 うん、そうかもしれません。考えすぎかな。

──自信がついてきた証かもしれませんね。

ちょっと…求めすぎているのかもしれませんね

ちょっと…求めすぎているのかもしれませんね

松山 なるほど…。そういっていただけて、ちょっと気持ちが楽になったような気がします。なんでもかんでも勝てるとはもちろん思っていませんけど、たしかにちょっと…求めすぎているのかもしれませんね。

──でもそういうモチベーションの変化は、今の松山くんにとって当然の流れだと思いますよ。

松山 (自分自身への要求が大きくなるのは)悪いことではないとは思うんですけど。なんていうか、僕自身は昔のままで、いい馬に乗せてもらえるようになったっていう感覚で…。だから、“結果を出さなくちゃ降ろされる、結果を出さなくちゃ次がない!”っていう思いが強くて。

──新人賞を獲ったあと、落馬が続いて、乗り馬がほとんどいなくなって…。短い間にいろいろな思いを味わいましたものね。

松山 もっと大変な思いをしている方もたくさんいらっしゃると思いますが、いつ乗り馬がいなくなるかわからない…っていう不安が、いまだにすごくあるんですよね。

──少し前にも「あの時代に戻ってしまったらどうしよう…っていう不安がつねにある」とおっしゃっていましたね。

松山 そうなんです。そういう不安が常にあるんです。だから、常に結果を出し続けなくちゃいけないっていう思いがすごく強くて。騎手としては当然なのかもしれませんが、心が安まるときがないんですよね。

──この『キシュトーーク!』が始まったころ(2011年9月)は、「とにかく乗りたい!」とおっしゃっていて、それが「もっと目立ちたい!」に変わって、今は「結果を出さなくては!」になって。松山くんの変化はよくわかります。

松山 わかりますか? 僕、成長していますか?

──もちろんです。たくさん乗りたい→目立ちたい→もっと勝ちたいという流れは、当然の変化だと思います。なにしろ、その欲求に沿って、結果を出してきたわけですから。

僕、意外と欲深いのかもしれませんね(笑)

僕、意外と欲深いのかもしれませんね(笑)

松山 僕、意外と欲深いのかもしれませんね(笑)。

──いえいえ、騎手として当然の変化だと思いますよ。だから今は、貪欲なまでに勝ちを欲してもいいのかもしれませんね。

松山 勝てないころは勝てないころですごく悩んだんですけど、勝ち始めたら始めたで、常に勝っていなければいけないという思いにかられて…。それはそれで悩みが増えるんですよね。

──必要以上に力が入ってしまうのはマイナスかもしれませんが、自分自身にプレッシャーをかけ続けることは、どんな職業であれ、いいことだと思いますよ。

松山 そうですね。最近は、以前に比べると自信を持って乗れるようになったなって、自分でも感じています。その点では、自分でもちょっと成長できたかなって。

──それは大きな変化ですね。周りの方からも、「変わったな」とかいわれませんか?

松山 顔が変わったっていわれます。どうですか? 変わりました?

──最初にお会いしたときに比べたら、すごく変わりましたよ。表情から緊張感を感じます。以前だったら悩んでいなかったであろうことも、ステージが上がったことで、今は悩みにつながってしまうのかもしれませんね。

松山 そうかもしれません。以前は乗れるだけでも嬉しかったし、勝ちたいより乗りたいっていう気持ちのほうが強かったのに、今は勝ちたいという思いがどんどん強くなって。そんななかでも今は、GIを勝ちたいという思いが強いです。やっぱり、求めることがどんどん高く、大きくなってるんですねぇ。だからついつい考えすぎてしまう…。こうしていろんなお話をさせていただいて、自分の気持ちが少し整理できたような気がします。

【次回のキシュトーーク! は?】
 菱田騎手、中井騎手など、後輩が続々育ってきている昨今。菱田騎手にいたっては、リーディングでも上位を脅かしつつあります。次回は、そんな若手の活躍についてや自身のリーディング順位についての思いなど、引き続き、松山騎手の本音に迫ります。

元祖「キシュトーーク」のレギュラー陣、国分恭介、国分優作、松山弘平、川須栄彦、高倉稜を中心に、栗東・美浦・地方からも幅広く、これからの競馬界を担うU25の若手ジョッキーたちが登場します!

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング