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覚悟の平地免許返上、植野貴也騎手『中途半端なことはできない』

  • 2013年08月27日(火) 18時00分
 全国各地で集中豪雨などの被害が出ていますが、皆さんのお住まいは大丈夫でしょうか? 自然の力の恐さを感じます。

 夏休みも最終…馬とファンの距離が近いローカル競馬ならではの楽しみ方が沢山ありますが、サマーシリーズは楽しまれましたか? 秋競馬が始まる! と思うとワクワクしてきますね。今年は、凱旋門賞にオルフェーヴルとキズナの有力馬が参戦。オルフェーヴルは、一足早くフランスの大地を無事に踏んだと、嬉しいニュースが入ってきました。

 さて今週は、障害騎手シリーズ第6弾、植野貴也騎手です。騎乗技術もさることながら、マジックの腕も抜群なんですよ。時々厩舎の宴会などでも披露しているそうです。藤田騎手が「凄腕マジシャン」と絶賛しているんですね。僕も時々マジックを教えてもらうのですが、すぐにネタバレしてしまうんですよ。馬のマジックもたっぷり話していただきました!

若手期待の難波剛健騎手

障害一本で勝負する植野貴也騎手

常石:先輩で一番印象の残っている馬は、バンブーユージンです。確か特別レースでしたよね。

植野:あー、あれはすごかったね。騎手デビュー初日の3月…確か5日だったかな? ゆきやなぎ賞でバンブーユージンに騎乗して初勝利。3戦目で特別競走の勝利は、JRAの新記録だったようです。初めてのことで何がなんだか分からなかった。僕がまだまだ未熟でへたくそだったから、申し訳なかったくらいでした。厩舎がこんな僕でも勝てる馬を用意してくれていたので感謝しましたね。三浦騎手もやってくれてタイ記録になったので、その時に話題にされることが多かったかな。三浦騎手のおかげでちょっと有名になったよ(笑)。

常石:障害レースでも重賞初騎乗初勝利されていますよね。小倉サマージャンプ、ロングイカロスでしたね。アーッちょうど今頃ですね。

植野:あれも人気無かったんだよね。凄い配当ついたよね。ファンの皆さんに少し恩返しができたかな。

常石:障害レースと平地レースとの違いを感じていますか?

植野:距離の短いレースは馬の力がほとんどなので、騎手の腕はそこまで関係ないと思うけど、障害レースは距離が長いので まずは馬に負担をかけない乗り方、抜き方。推進力を上手く使って飛びをする。1回止まってしまうと止まる癖がつき、何回も止まってしまうからね。

僕は、500万や未勝利馬に乗ることが多いので 飛びをいろいろ考えている。飛びがうまい馬は、障害レースでは面白いですよ。距離が長いので出すか出さないかで完歩も変わってきて、いろんな可能性もでる。

常石:馬で言うと障害馬のほうがレースが上手いなと思うんですが。

植野:元々自然の中を飛び跳ねていた馬なんだから、上手いよね。そう信じて乗らないと乗れないでしょう。いろんな可能性を持ってるから障害レースは面白い。だから障害レース専門で乗ろうと思って2011年に平地免許を返上しました。ファンの方も体験できると、面白さが伝わるでしょうね。

常石:平地競走には未練は無かったですか?

植野:未練がないというと嘘になるかもしれないけど、迷うと良い競馬ができないと思うから、集中して障害レースに乗っていたいと思う。奥が深いので、もっともっとやらないといけないことがいっぱいあるでしょう。特に障害は、障害馬としての馬を自分で作っていかないといけないから、中途半端なことができないでしょう。

2012年京都ジャンプS(マサノブルース)

2012年京都ジャンプS(マサノブルース)

自身3つ目の重賞タイトルに笑顔

自身3つ目の重賞タイトルに笑顔

常石:そうですよね。教えた分だけ覚えてくれると嬉しいですよね。飛びを上手くするこつや障害馬にするこだわりは、どんなところですか?

植野:しゃべれないけどそこがいいんだよね。馬体いっぱいに表現してくれるから、馬とコミュニケーションをいつも取るようにしている。人みたいにしゃべると正直じゃないことっていっぱいあるでしょう。僕みたいにうるさいのもいるからね(笑)。

常石:いえいえ、そんなことは無いですが(笑)、僕も含めて正直ではないことっていっぱいあるような気がします。僕自身も、できないことでもできるとごまかしてしまうことっていっぱいあります。馬を見る眼力が必要ですね。

植野:ほら、目力いっぱいあるでしょう!(目を大きく開く! ちょっと小さくまん丸なのでかわいい目なんですよ)

常石:そこなんですか(爆笑)?

植野:そう、まずは目から。それから馬体に手で触れ、馬の言い分をしっかり聞いてから背中に跨って、歩いて歩様を確かめてと、一つ一つ進めていく。手抜きをするとすぐにばれてしまう。だからいつもマジックで種がばれてしまうんだよね。

常石:えー(驚き)。馬のことじゃないんですか? マジックの話なんですか?

植野:いやいや、どっちも同じということなんですよ(笑)。

常石:さすが先輩ですね。話もマジックです。これも熟練されたテクニックなんですか? 僕も先輩に弟子入りします。

植野:どっちや。馬か? マジックか? 話のテクニックか?

常石:どっちもって言いたいけど…、まずは話のテクニックからお願いします。

―と話していたら、森騎手が調教のことを先輩に聞きに来ました。

植野:距離が長いので、バテないように内々で乗るように工夫する。モタれて持っていかれないように、推進力をしっかり持って乗る。馬が故障したりパンクした時に転ばないように3本足で走り、僕が落馬しないように守ってくれたときは、ありがとう! の言葉しかでなかったな。馬が涙を流してたりするんですよ。偶然なのかもしれないけど、かわいがっていた馬は僕を守ってくれているなと思う時は感動しますよね。厩務員さんみたいに餌をやったりしているわけではないので、コミュニケーションの取り方は難しいんだけどね。

森:緩い時はどうすればいいですか?

植野:緩い馬はどうしようもないんですよね。馬の芯と軸がずれていないか? もともと緩い馬は障害に使って、使っていない筋肉を鍛えてパワーアップしていく。夏は特に夏バテもあるので難しいね。

常石:例えば世界選手権で活躍している水泳選手が「体幹がずれていない」と言うんですが、馬も一緒ですか?

植野:ちょっと違うんですよね。人の芯は真っ直ぐに立てているかどうか。筋肉が柔らかくバネが強い状態で、骨が筋肉を支えている。筋肉が柔らかいと、脳もリラックスしている。武豊さんなんかは、いつもそんな感じですね。だから柔軟に上手く馬を持っていけるんだと思う。脳もリラックスしているから表情も柔らかいでしょう。

幸騎手も筋肉が柔らかく瞬発力があるので、力も凄い。競馬だけではなくゴルフやサッカーも上手いよね。体幹がずれないから肩こりなんかも無いと思うよ。前にさ、つねちゃんをおんぶしたことがあるんだけど「軽い」と思ったときがあった。それって僕の体幹にきっちりはまった時なんだよね。「鞍はまりがいい」って、そんなことを言うと思うよ。

―など、いっぱいアドバイスを森騎手と僕にしてくれました。

常石:最後にファンにメッセージをお願いします。

植野:僕だけに限らず、皆さん同じ思いだと思います。ライブで見て欲しいですね。何処の競馬場でも最高の施設だと思うから、体感してください。よくある騎手の服を着て馬に乗るコーナーとかあればいいね。応援してください。(インタビュー終了)

 植野先輩にアドバイスを聞きに来た森騎手が、新潟ジャンプSで2着と大健闘しました。これからが楽しみな若手騎手です。がんばれ! 植野先輩からマジックのようなお話をいっぱい聞くことができて楽しかったです。つねかつこと常石勝義でした。[取材:常石勝義/栗東]

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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