菊候補NO.1エピファネイア(父シンボリクリスエス)が、後続を寄せつけない素晴らしいレース内容で完勝。10月20日の「菊花賞」に王手をかけた。春の皐月賞、日本ダービーをともに2着にとどまったあと、秋になって神戸新聞杯を制したのは、史上、1965年ダイコーター(父ヒンドスタン)、1993年ビワハヤヒデ(父シャルード)の2頭のみ。この2頭はともに菊花賞を勝っている。エピファネイアにはこのうえなく心強い記録だ。
ビワハヤヒデはだいぶ以前の菊花賞馬のように思えるが、いま凱旋門賞の有力馬になったキズナとは、歳の離れたイトコ同士である。一方、ダイコーターなどというとさらに古いが、いよいよ凱旋門賞制覇が実現しそうなこの秋、凱旋門賞に最初に挑戦したのはスピードシンボリ(その父ロイヤルチャレンジャーは、いま全盛の根幹種牡馬ターントゥと同じく1951年生まれのロイヤルチャージャー直仔)であることは知られる。同馬が生まれたのはちょうど50年前の1963年であり、ダイコーター(1962年生まれ)と同じ時代である。
アカネテンリュウ、ミナガワマンナなどというとあまりに古いが、近年では2002年ヒシミラクルの菊花賞で息を吹き返し、2011年の菊花賞馬オルフェーヴルでよみがえったのは「ヒンドスタン伝説」。オルフェーヴルには母の父メジロマックィーンを通してヒンドスタンの血が流れている。エピファネイアにも母の父スペシャルウィークを通し、確かにヒンドスタン(シンザンなどの父)の血が生きているのである。
前が飛ばしたので、エピファネイアの位置取りとはあまり関係しないが、レース全体のバランスは「1分12秒3-1分12秒5」=2分24秒8。全体時計も速く、紛れの生じにくい2400mだった。最初から中位の10番手あたりに構えたエピファネイアは、ムキになって行きたがるような場面はほとんどなかった。パドック、馬場入りしてからも、休み明けとは思えないほど自信満々に落ち着き払っていた。夏を経て心身両面で明らかに成長したのである。
今回は追い切りで舌を縛るなど、行きたがる若さ解消が大きなテーマ。実際のレースでもこの点が最大の課題だったが、中団の外につけて前にカベを作ったわけでもないのに行きたがるところはなく、また3コーナー手前で「13秒0-13秒0」とペースの緩んだ地点でも折り合いは十分だった。残り800mあたりから自分でスパート。直線に向くと早々に先頭に立ち、菊候補NO.1らしい正攻法で後続を完封した自信は大きい。
3000mの菊花賞や、3200mの天皇賞・春では、よほどのスローペースにならない限り、直線勝負型はそう切れる脚は使えない。人気の中心馬が最後の直線の勝負に頼るのは賢明ではなく、歴代の勝ち馬の大半は、菊花賞では自分から早めに動いている。トライアルで4コーナー先頭の形が取れたのは、折り合い難をみせなかったことと並んで、ぬかりなく本番の予行演習ができた最高のステップレースとしていいだろう。
大きなストライドは、父シンボリクリスエスというより、これはもう明らかに母シーザリオ(その父スペシャルウィーク)に良く似ている。京都の3000mなら瞬時の鋭い反応や、器用な一瞬の脚は求められない。この楽勝で断然の菊花賞候補になった。
ただ、突っ込んで2着したマジェスティハーツ(父ハーツクライ)は、本番でも流れしだいで、脚の使いどころひとつで、軽視できない怖さがある。4コーナーでエピファネイアがもう先頭に立とうかという地点で、まだ最後方18番手。そこから外に回り、レースの上がり3ハロン34秒4を約1秒も上回る「33秒6」で一気に2着まで突っ込んできた。直線だけだった。
父ハーツクライ、母の父ボストンハーバー(その父カポウテイ)。血統面では、今春の日経新春杯を勝ったちょっとムラなカポーティスター(父ハーツクライ。母の父カポウテイ)を連想させるが、マジェスティハーツのファミリーは名門。日本ではオークス馬シルクプリマドンナ、天皇賞・秋のヘヴンリーロマンス、種牡馬サウスアトランティックなどを送る牝系として知られ、マジェスティハーツの5代母にあたるナターシュカ(父ナスルーラ)は、ヘヴンリーロマンスの3代母にあたり、シルクプリマドンナの3代母でもある。
最初にヒンドスタン伝説や、ビワハヤヒデを持ちだしたように、菊花賞では表面に出てくる血統うんぬんではなく、牝系のもつ活力や底力が侮れない決め手となることが珍しくない。ハーツクライ産駒でも、母の父ボストンハーバーとなると距離不安をささやかれそうだが、祖母の父は今年の日本で大ブレーク中のストームキャット。そして活躍馬を送りつづけるファミリー出身とあれば、本番でも侮れない上がり馬だろう。直線だけの競馬に徹したとはいえ、2400mでただ1頭だけ上がり33秒台。猛然と伸びていた。本番では森一馬騎手はまだ乗れないから、武豊騎手に乗り替わる予定がある。
3着サトノノブレス(父ディープインパクト。4代母アンティックヴァリュー)は、ちょっとゴール前の詰めを欠く形で3着にとどまったが、条件賞金900万の同馬の今回の最大のテーマは3着以内に入って本番の出走権を確保すること。うまくインでタメながら大事に乗った印象があり、エピファネイア逆転はともかく、狙い通りに出走権を得た。本番での上昇はある。
ゴール寸前に止まってしまった4着アクションスター(父アグネスタキオン)以下は、賞金は足りてもこと菊花賞快走はかなり苦しいと思える。
直後の「オールカマー」を猛然と伸びて勝ったのはやっと本物になってきた5歳牡馬ヴェルデグリーン(父はダービー馬ジャングルポケット。母の父はダービー馬スペシャルウィーク。祖母はオークス馬ウメノファイバー)だった。
エピファネイア(父シンボリクリスエス)の母の父はスペシャルウィーク。最大のライバルになるだろうセントライト記念の勝ち馬ユールシンギング(父シンボリクリスエス)の母の父もやっぱりスペシャルウィーク。
種牡馬シンボリクリスエスがそろそろクラシック馬を送りそうであると同時に、種牡馬ランキングはこのところ下がっているが、母の父として巻き返しつつあるスペシャルウィークが今秋のカギになる種牡馬かもしれない。