2013年の欧州における芝平地シーズンも終盤に突入し、人馬それぞれのリーディング争いが佳境を迎えている。
2頭による僅差の鍔迫り合いとなっているのが、今年の2歳世代が初年度産駒となる新種牡馬たちで争われる、フレッシュマンサイヤーランキングだ。
英国と愛国の数字を合算したランキングでは、ロイヤルアスコットの準重賞ウィンザーキャッスルS(芝5F)勝ち馬エクストーショニスト(牡2)や、ロイヤルアスコットのG2コヴェントリーS(芝6F)2着をはじめ重賞での入着が3度あるパーボ−ルド(牡2)など、15頭の勝ち馬が18勝しているダンディマン(父モーツアルト)が頭ひとつ抜け出しているのだが、欧州全域を対象としたランキングでは、英愛以外の国々で4頭が7勝しているマスタークラフツマン(父デインヒルダンサー)が浮上。首位が収得賞金34万3999ポンドのマスタークラフツマンで、2位が34万2394ポンドでダンディマンと、欧州ランキングではほとんど差のない大接戦となっているのである(9月22日現在)。
今年の2歳が初年度産駒となるフレッシュマンサイヤーと言えば、最も大きな話題となっていたのは、2009年の全欧チャンピオン・シーザスターズ(父ケイプクロス)だった。5月のG1英二千ギニーから10月のG1凱旋門賞まで、月に1度の割合でG1ばかり6戦して6連勝。しかも1マイルから2400mまで、どの距離においても盤石の強さを見せた、完全無欠の名馬だった。
その威光はマーケットにおいても絶大で、初年度産駒の市場デビューとなった11年のゴフス・ノヴェンバーセール当歳セッションで、高額馬の上位4頭までシーザスターズ産駒が独占。続くタタソールズ・ディセンバー当歳セッションでも最高値と3番目の高値がシーザスターズ産駒と、まさしく一大ブームを巻き起こすことになった。
その、シーザスターズの初年度産駒が今年、競走年齢である2歳を迎えたのだ。期待は熱気球のように膨らみ、中空高く舞い上がったことは言うまでもなかった。
それでは、9月22日現在のシーザスターズ産駒の成績は、いかに?!
118頭いる初年度産駒のうち、デビューを果した馬が欧州全域で24頭。このうち6頭が勝ち馬になり、スターズオーヴァーザシー(牡2)という英国調教馬が2勝を挙げて、通算で7勝。欧州フレッシュマンサイヤーランキングで第15位という、「じぇ、じぇ、じぇ」というか「ム、ム、ム」な成績に甘んじている。
シーザスターズ自身、2歳7月のデビュー戦は4着に敗退。G2勝ちはあったもののG1には出走せずという2歳時の成績は、その後の活躍からすればおおいに控えめで、本格化したのは明らかに3歳になってからだった。従って、産駒も動き出しは遅かろうと、多くの関係者が予測はしていたのだが、それにしても、9月22日の段階で重賞勝ち馬どころか重賞入着馬すら1頭も出ていないというのは、いささか想定の範囲を越えた事態である。
シーザスターズの後にも、フランケルという超ド級の新種牡馬が控えているとはいえ、シーザスターズが大コケに終わっては、欧州競馬産業界全体にとっても大打撃だ。せめて、翌年のクラシック候補としてスポットライトを浴びる馬が、1頭でも2頭でも出てきて欲しいという、関係者やファンの切なる願いがようやくかなったのが、9月22日(日曜日)だった。ドイツのケルン競馬場で行われた距離1600mのメイドンで、遂に父シーザスターズの大物がベールを脱いだのである。
このレースを4馬身差で制し、見事にデビュー勝ちを飾ったシーザムーン(牡2、父シーザスターズ)がその馬だ。
グールスドルフ牧場の生産馬で、母の兄弟に、G1独ダービーなど5つのG1を制したスキャッパレリ、G1独ダービーやG1バーデン大賞を制したサムーム、G1独オークス馬サルヴァレジーナらがいて、従兄弟に今年のG1バイエルン大賞勝ち馬サイズモスがいるという、極上の牝系を背景に持つシーザムーン。昨年10月、英国ニューマーケットで開催されたタタソールズ・オクトーバーセールに上場されたものの、23万ギニーで主取りとなって、生産者のグールスドルフ牧場が自ら所有することになった。
管理するマーカス・クルーグ調教師がシーザムーンのデビュー戦に選んだレースには、G1キングジョージ6世&クイーンエリザベスSなど、今季既に3つのG1を制しているノヴェリスト(牡4、父モンスン)の半妹にあたるニンフィア(牝2、父セルカーク)も出走しており、ドイツのみならず世界の競馬ファンが注目する一戦となった。
序盤こそ5番手に位置したシーザムーンだったが、まもなく馬群の先頭に立ちレースをリード。残り3F付近で鞍上のゴーサインが出ると、反応良く後続を突き離し、2着ニンフィアに4馬身を付ける快勝となった。
牝系にダービー馬やオークス馬が目白押しなだけでなく、配合されている種牡馬も母の父がモンスンで祖母の父がオールドヴィックだから、間違いなく距離が伸びて良いはずだ。目指すのは来年のG1独ダービーで、その先にあるのは来年秋のG1凱旋門賞か。シーザムーンの今後に、皆様もぜひご注目いただきたい。