3冠牝馬ジェンティルドンナに、昨年の覇者エイシンフラッシュ、ダノンバラードなど、GI実績馬が一堂に会する天皇賞(秋)。しかし、勢いならこの馬が一番だろう。鳴尾記念から目下3連勝、武豊を背に盾の頂に臨むトウケイヘイローだ。管理するのは、開業5年目の新鋭トレーナー・清水久詞。自身のスタイルを確立し、快進撃を続ける愛馬について、ここに至るまでの道のりと大一番に向けての抱負を語ってくれた。(取材・文/不破由妃子)
◆「なかなか個性的な馬です」 10月某日、栗東トレーニングセンター。清水久詞厩舎には、ひっきりなしに記者が訪れていた。その取材目的は、もちろん天皇賞(秋)の出走を控えたトウケイヘイロー。“ツーショット”での撮影を申し出る記者たちの声に応え、清水が馬房の前に立ち、鼻づらを引き寄せようとした次の瞬間──
「ダメなんですよ。こうやって噛みにくるから(笑)」
それでも我々も含め、記者たちは粘り強くその瞬間を狙ったが、トウケイヘイローはまるでそんな我々の気持ちを弄ぶかのように、一向におとなしくカメラに収まる気配を見せない。この気性の荒さが、逃げ馬たる所以なのか。
「いえいえ、厩の前で話しているときだけ、こうやってガッとくるんです。僕も2〜3回、噛まれたことがあります。ちょっと出世したもんだから、“俺の前に立つな”くらいに思っているのかもしれませんね(笑)。厩の外では、まったく扱いづらいところはないんですよ。ほかの馬に対してもうるさいところは見せませんし、どちらかというとボケーっとして歩いているほうです。ただ、厩の前だけ、ちょっと目を離すと噛み付きにくるんですよね(苦笑)」
ベストショットをあきらめた我々を尻目に、今度はトウケイヘイロー、欠伸を連発しはじめた。ほんの1、2分の間に10回以上である。それでも寝るそぶりは見せず、厩から顔を出してくれている。
「そんなに(欠伸を)しなくてもええやん(笑)。頑張って顔を出してないで、そんなに眠いなら寝たらいいのにねぇ。いつもこうなんですよ。なかなか個性的な馬です」