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円熟のスプリンター

  • 2003年09月01日(月) 13時07分
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 8月27日、大井「アフター5スター賞」。ハタノアドニスが期待通りの速さ、強さをみせつけた。絶好の2番枠、いつもほどのロケットスタートではなかったが、インからすぐ巻き返して主導権。終始フジノテンビーに並ばれながら、折り合いはついている。「ぴったり馬体を併せるとカカる気性。3~4コーナーで相手を頭半分くらい先に行かせた」と内田博騎手。直線入口、およそ短距離戦とは思えない余裕の手綱で、あと1ハロン、初めて軽くGOサインを出した。一瞬のうちに後ろがちぎれ、最後は独走の5馬身差。エンジンの違いとしかいいようがない。いよいよ短距離王の風格が漂ってきた。

アフター5スター賞(サラ3歳上 別定 南関東G3 1190m 不良)

 ◎(1)ハタノアドニス   57内田博 1分10秒8
 ○(2)ラヴァリーフリッグ 55石崎隆 5
 △(3)フジノテンビー   57佐藤太 首
 ▲(4)オーミヤボレロ   55張田  首
 △(5)スピーディドゥ   57納谷  2.1/2

単150円 馬複190円 馬単300円
3連複550円 3連単1270円  
  
 ひと昔前、当時の競馬セオリーには、「スピード(短距離)は若さ…」、そんな一項があったと記憶する。天性によるところが大きいスプリント能力は、3~4歳時頂点に達し、そのテリトリーでは歴戦の古馬と互角以上に戦える、そういう定説。しかし現在の競馬はどうやら違ってきたようだ。ハタノアドニスはすでに7歳、昔でいう8歳馬。それが今季衰えどころかますますスピードに磨きがかかり、同時に持久力も増している。父アジュディケーティング、母の父ヴァイスリーガル。大井のみならず、地方競馬全体にスプリンターを一つの主役とする流れができた点が、何よりアドニスには追い風だった。自らの個性、適性でレースを選べる。年頭、東京シティ盃が重賞初制覇、以後文字通り順風満帆のタイトル4つ。この日7キロ増も、結果が出てみれば今後へ向けプラスアルファが大きいだろう。続く東京盃→JBCスプリント。サウスヴィグラス、ディバインシルバー、あるいはスターリングローズ相手でも、今のデキを前提に好勝負がイメージできる。

 ラヴァリーフリッグは混戦の2着争い、インから強烈に伸びて地力を示した。デビューから丸2年、ひと息も入れず力走を続け、それでいてまったくテンションが下がらない逞しさ。好敵手のネームヴァリュー、ジーナフォンテンと較べても、その基礎体力には大きく胸が張れるだろう。ただし対ハタノアドニスの短距離戦となると、今回はっきり勝負がついた。「中間外傷で一頓挫あって、一本追い切りが足りなかった(5キロ増)。それでも負けは負け。この馬はマイルくらいが一番いい」(石崎隆騎手)。南関東牝馬重賞はすでにほぼ勝ち尽くし、再びそこを使うとなると今度は斤量面で不利になる。それなら再びJRA芝挑戦。外野の見方とすればいい潮時とも思えるのだが。

 フジノテンビーはアドニスを凌ぐ好スタートとダッシュ力。強引に行っていれば…との見方も出るが、最後1ハロンの脚いろなど、やはり絶対的な能力差がある。使い込んでよくなるタイプではなく、今後の狙い目は正直薄い。オーミヤボレロは道中絶好の3番手、テンビーを射程圏に置きながら、結局捕え切れなかった。短~マイルベストとしても、爆発力、決め脚の点で、オープン級に入るとどうやら壁か。外枠で追走に苦労したスピーディドゥも、この状況では迫力不足。カイジンクン(6着)はむしろ中距離に適性がありそうで、ハセノガルチ(9着)も1190mは忙しすぎた。

 ☆     ☆     ☆

戸塚記念(9月3日川崎 サラ3歳 ハンデ 南関東G3 2000m)

◎ティーケーツヨシ  (54・野崎)
○ステルステクニック (55石崎隆)
▲ハギオモン     (54・桑島)
△イシノファミリー  (56・森下)
△スギノワンダー   (52・今野)
△チョウサンタイガー (54・酒井)

 実績上位、そして人気になりそうなのは、船橋若潮盃ワンツーのイシノファミリー、ステルステクニックだが、どうもこの2頭、力の競馬になって甘さが目立つ。前走黒潮盃の内容を信頼してティーケーツヨシ。末一手の不器用さでまだ1勝馬。それでも黒潮3着は先行有利の道悪を上がり37秒9で伸びてきた。SS系ながら長めの中距離に適性があるタヤスツヨシ産駒。3走前、挑戦したJRA府中芝二千でコンマ1秒差3着も、ここでは貴重な経験といえるだろう。かつてロジータとのコンビで鳴らしたベテラン・野崎武騎手。地味ながら馬の能力はきっちり引き出す。

 デビュー当初から大物とみていたハギオモンが二千向きでダークホース。以下、逃げて大駆けがあるスギノワンダー、デビューから7戦4勝、まだ底をみせていないチョウサンタイガー。デキと勢いを重視して穴を狙う。

 ☆     ☆     ☆

 先週、8月24日は新潟競馬に遠征した。べつだんこれといったお目当てもなく、単に旅行気分で出かけたのだが、結果的にはツイていた。その日メインの「アイビスサマーダッシュ」を左海誠二騎手・イルバチオが優勝、嬉しいシーンに遭遇した。直線だけ1000mの電撃戦。「後半3Fに勝負を絞って追い出しました」という見事な差し切り。彼にとっては、一昨年ニシノハナグルマ、昨年ヒミツヘイキに続くJRA重賞3勝目になる。ウィナーズサークル、インタビューに答える爽やかな笑顔を見て、何かわがことのように高揚した気分になった。ひいきだけで買った11.4倍の単勝馬券。まあそのせいもあるのだが。

 3年前から始まった「JRA認定競走」、それに伴う人と馬のスクランブル。むろん騎手免許問題の根底に関していえば、さまざま不合理、不透明な部分を残すが、ともあれ地方所属ジョッキーに、チャンスと可能性が広がったのは事実である。安藤勝己、小牧太、岩田康成、吉田稔…、JRA移籍を目標、前提とした騎手だけでなく、所属、身分はともかく、一過性でもいい、培ってきた自らの腕を純粋にアピールしたいというジョッキーにも、光が当たってきたということだ。

 左海騎手がこの日イルバチオに騎乗できたのは、最終レース、500万下「サスケ」の存在があったから。18頭立て、12番人気で12着。これを制度の矛盾、構造の歪みというべきかどうかはわからない。いずれにせよ「騎手」はプロのアスリート、それが前提ということだろう。極論を承知で書くなら、およそ勝負になりそうもないサスケをわざわざ新潟まで遠征させ、それでも「左海・イルバチオ」を成立させたい、陣営の思惑と期待があった。JRA側からみれば、思わぬところから壁が崩された、あるいは誤算といえなくもない。再び闇の中に入ってしまったような「騎手免許一本化」。この問題はいつ真正面から取り上げられ、真摯な解決が図られるのだろう。

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日刊競馬地方版デスク、スカイパーフェクТV解説者、「ハロン」などで活躍。 恥を恐れぬ勇気、偶然を愛する心…を予想のモットーにする。

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