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◆血統背景にあった壮絶なドラマ

　道営競馬史上牝馬として初めて、三冠馬(北斗盃・北海優駿・王冠賞)に輝いたクラキンコが、惜しまれつつ引退しました。父クラキングオー、母クラシャトルともに、道営のダービーである北海優駿を制している血統。父・母・娘によるダービー制覇を成し遂げただけではなく、その血統背景には、壮絶なドラマがあったのです。クラキンコ引退にあたり、オーナーブリーダーである倉見利弘さんにお話を伺いました。

赤見：クラキンコといえば、なんといっても父・母・娘のダービー制覇ですね。

倉見：いやぁ、本当によく頑張ってくれましたよね。活躍している血統馬たちの中で、レアというか、かなりマイナーな血統の馬が勝ってくれたんですから。オーナーブリーダーとして長年競馬に携わってますけど、馬ってそんな簡単じゃないじゃないですか。まさかこんなに上手くいくとは思ってなかったです。ファンの方々もとても喜んでくれたし、馬たちに感謝ですね。


赤見：お父さんのクラキングオーは、重賞5勝の活躍を見せてくれましたが、札幌競馬場でレース中に骨折、競走中止になったんですよね。

倉見：そうです。かなり重症で、予後不良っていうことだったんですけど、堂山芳則調教師と相談して、『まずは連れて帰って、もう一度判断しましょう』ということになって。たくさん重賞を勝ってくれた馬だし、なんとか命だけは助けたいと。牧場に連れて帰ってから、色んな獣医さんや装蹄師さんに相談しながら治療しました。走るのは無理だけど、なんとか生活出来るようにはなれそうだということでね。あの頃はものすごく脚が腫れて、メロン1つくっついてるくらい腫れてましたから。馬もよく頑張ってくれました。

赤見：いつか種牡馬にしようと？

倉見：それはねぇ、本当に全く考えてなかったんですよ。脚が良くなるまで何年もかかりましたし、とにかく命があればっていう気持ちだったので。そこから、だんだん脚が良くなって来て、近くの牧場の仲間たちと、せっかくだから種付けしてみようかって話になって。繁殖もいるしって感じでね、クラシャトルだったらどっちもダービーを勝っているから、その仔がダービー勝ったらすごいよねなんて、冗談言ってたんです。


赤見：では、クラキンコがお父さんにとっては初仔なんですか？

倉見：そうです。キングオーの仔は3頭しかいないんですけど、その中でもキンコは最初の仔です。その仔が三冠獲って、古馬になってからも活躍してくれたんでねぇ。本当にドラマみたいですよね。

キングオーのケガの話はけっこうあちこちでしているんですけど、実は母方にも同じようなことがあって。クラシャトルの母クラネバダンサーも、笠松競馬場でレース中に骨折したんです。もうダメだって言われたんですけど、うちの父が『どうしても北海道へ運んでくれ』って言って。普通、馬に携わっている人だったら諦めますよ。大きな骨折をしている上に、馬運車で笠松から北海道まで運べっていうんだから。でもうちの父は馬に関して素人でね。水産会社をやってて、馬主になって、好きが高じて牧場まで買った人で。だから、とにかく死なせたくないっていう気持ちだけだったんです。ネバダンサーが牧場に着いた時には動けない状態でした。起き上がることも出来ないし、床ずれも出来て…。だいぶ手はかかりましたけど、2年くらいで元気になってくれたんです。やっぱり、生命力が強いんですかねぇ。

赤見：そして、繁殖になってクラシャトルを生んだと。

倉見：ええ。ネバダンサーは笠松の荒川友司厩舎に居たんですけど、同じ頃にワカオライデンもいてね。それで、種付けするならワカオライデンがいいだろうってことで、クラシャトルが生まれたんです。まぁ、気の強い馬でねぇ。2歳の頃からパドックで立ち上がったりして、気性がキツイって有名でした。それに比べるとクラキンコの方がまだマシだって言われます(笑)。


赤見：クラキンコは、お父さんとお母さん、どちらに似てますか？

倉見：お母さんです。体型も気性もお母さんですね。先日引退して牧場に帰って来たんですけど、もう少し落ち着いたらお母さんと一緒の放牧場に放すと思います。すごく似ているんでね、母娘で並んで草を食んでる姿なんか思い浮かべると…今から楽しみですね。

赤見：初年度のお相手は決まっているんですか？

倉見：キンコは自分で権利を獲って来てくれたんですよ！ほら重賞勝つと、副賞で種付け権利がもらえるレースがあるでしょう。今年ノースクイーンカップを勝ってるんで、その時の権利がキングズベストだから。自分自身で種付け権利を獲って来る馬っていうのもすごいですよね。これもまた縁だと思います。

赤見：では、今後の目標を教えて下さい。

倉見：いつかキンコの仔でダービー制覇するのが夢です。父・母・娘・孫でね。地元の門別で、頑張って欲しいですね。それから、キンコの全弟のクラグオーが現役で頑張っているので。24日のダービーグランプリ(水沢)に出る予定なんですけど、このレースも父母ともに出走して負けているんで、リベンジしてくれたら嬉しいです。クラグオーはキンコと違って父親似なので、晩成型だと思うんです。ダービーは勝てなかったけど、これからの成長が楽しみですよ。


倉見：それから、こうやって自分の育てた血統を繋いで行きたいです。先代のように一頭一頭馬を大切にして、これからも育てて行きたいですね。それが一番の目標です。