昨年のNHKマイルCでの落馬負傷以来、1年半ぶりに復帰を果たした後藤浩輝騎手。復帰後初の重賞タイトルとなったのが、エスポワールシチーでの南部杯だった。エスポとのコンビで続くJBCスプリントも勝利し、ラストラン・JCダートへ。長期休養中の、かつての主戦・佐藤哲三騎手から託された大事な手綱。大仕事を前に後藤騎手の決意に迫る。(取材・文:花岡貴子)
◆馬と性格的な波長を合わせること 後藤騎手は南部杯の騎乗依頼を受ける前から、エスポワールシチーという馬は“難しい馬”と感じていた。
「我が強くて難しい馬だという話は聞いていたし、レースを見ても哲三さんは一見カンタンそうに乗っているけど、そのカンタンそうに“見える”競馬をするのがどれだけ大変だろう、と思っていましたから。依頼を受けた直後は、嬉しい気持ちよりどうやって自分が乗りこなすかという不安のほうが大きかった。まして、復帰直後の自分にそんな難しい馬を乗りこなせるのかと」
その不安が大きく取り払われたのは、南部杯の追い切りで初めて調教にまたがったときだという。
「こいつとならやっていける。理解しあえるかも、と。自分と性格的な波長が合わせられると感じました。まずは、ひと安心でしたね。エスポワールシチーは今年8歳。これだけ年をとっている分、変えられないものがある。一言でいえば、頑固。自分の中の動きのルールを持っていて、それをこっちが受け入れてあげないと向こうも心を開いてくれなくなる。老舗の職人さんのところに初めて行く新人レポーターのような気持ちというか(笑)。
しかも、こっちは病み上がり。お伺いを立て、おだて、なかなか開いてくれない口を開かせる、みたいな気持ちで挑んでいったという感じ。持ち上げすぎてもダメだし、どこかのタイミングで自分の気持ちをぶつけなければいけない。そんな“合いの手”みたいなタイミングを計るのに意識を集中していましたね