◆ダイユウサクとふたりっきりの乾杯 内藤にとっては、まさにしてやったりの一戦だったに違いないが、いっぽうで、弟子の完璧な騎乗を目の当たりにして、岡部を起用しようとした自分を恥じ入る気持ちもあったのではないかと想像する。しかし、そこは昔気質の調教師。早すぎたガッツポーズを咎めはしても、決して熊沢を褒めることはなかったという。
「あのときを含めて、内藤先生に褒められたことは一度もないです。勝っても怒られていたくらいで、本当に厳しい先生だったから。普段から感情をあまり表に出さない先生だったけど、それでもあのときは嬉しそうにされていました。その横で、僕と平田先生はそれはもう大喜び(笑)。騎手課程と厩務員過程で期間は違ったけど、平田先生とは競馬学校のころから一緒なんでね。縁ですよねぇ。今でも乗せていただいてるし、平田先生との縁こそ、ダイユウサクを通して得た一番の財産なのかなと思います」
熊沢「平田先生との縁が一番の財産」
有馬記念のあと、平田と祝杯を上げるつもりで、缶ビールを2本持って中山の出張馬房を訪ねたという熊沢。
「平田先生と乾杯しようと思って行ったんだけど、食事に行っていたのか、誰もいなくて。しばらく待っていたんだけど帰ってこないから、仕方なくダイユウサクとふたりで乾杯してね。冷静に考えると、『ありがとな、乾杯!』とか馬に話しかけたりして、ちょっと危ない人だよね(笑)。で、新幹線の時間も迫っていたので、“先にダイユウサクと乾杯しておきました。あとで飲んでください”っていうメモと缶ビールを置いて帰ったんです」