三冠制覇、GI5勝、凱旋門賞2年連続2着という輝かしい勲章を誇ると同時に、阪神大賞典での逸走など、個性的な一面も持ち合わせているオルフェーヴル。その稀代の名馬が、有馬記念を最後に引退する。頂点の喜びと共に地獄のような苦しみも味わった、主戦池添謙一騎手に、現在の心境を語ってもらった。(取材・文:赤見千尋)
◆一昨年の有馬後はプレッシャーがキツかった オルフェーヴルとコンビを組んで3年半。池添は、どんな想いでこの時間を過ごして来たのだろうか。
「この馬がデビューしてからは、頭から離れることはなかったですね。3年半、ずっとです。新馬戦でいい勝ち方をして、クラシックへの手応えを感じ、そこから実際に三冠獲って。古馬になってからもいろいろありましたからね。有馬記念で最後ですが、今はまだ実感はないです。淋しさは、レースが終わってから感じるんじゃないですかね」
この3年半、オルフェーヴルと共に歩んだ道のり。1番人気でのダービー制覇、そして三冠達成、3歳での有馬記念制覇。池添の心に一番強く刻まれたレースは――。
「一番嬉しかったのは、やっぱりダービーです。この馬に乗ってガッツポーズしたのはダービーだけなんですよね。よくあの時ガッツポーズ出来たなと思いますよ。いつも落とされますからね(笑)。一番緊張したのは菊花賞。三冠が懸かってましたから、またダービーとは違うプレッシャーがありました。ゴールした瞬間は、嬉しさよりもホッとしたというのが一番でしたね。その後は有馬記念で4冠目を獲って、負けちゃいけない馬になったので、プレッシャーもキツかったです」
◆世紀の大逸走を振り返る 無事に三冠を達成し、その年の有馬記念も制したオルフェーヴルは、池添の言葉通り負けてはいけない馬になった。しかし、古馬になっての初戦・阪神大賞典で、レース途中で外へ逸走、その後猛烈に追い上げて2着という、誰もが目を疑うような負け方をした。
■阪神大賞典レース映像
「まさかレース中にああいう風になると思わなかったです。一瞬止めようかと思ったんですけど、もうしがみついてるしかなかったです。『やってしまった…』という感じでした。ハミは利かないし、なんとか止めようとした時に、内側の馬が見えたんですよ。そしたら、自分から追いかけて行ったんです