美浦トレーニングセンターからほど近い場所に、乗馬クラブ「ホースライディングスクウェア エボルブルス」がある。田畑に囲まれ、のどかな雰囲気が漂っているその場所に、1997年のシリウスSや1998年の中京記念に優勝するなど、芝ダート問わず活躍した
トーヨーレインボー(セン)が暮らしている。今年で明け20歳。
競走馬登録抹消後は種牡馬となったレインボーだが、受胎率が悪く、種牡馬生活は1年でピリオドが打たれた。僅かに残された4頭の産駒の中から、地方競馬で12勝を挙げたジーエスレインボー(牝)が繁殖に上がり、レインボーの血は彼女によって今なお受け継がれている。
エボルブルスにやって来た当初のレインボーは、種牡馬を引退して間もなかったこともあり、馬っけが強くて荒っぽい面を見せていた。
「種馬を経験していますから、いわゆる大人の男になっているわけですよね。ですから余計に馬っけが強かったです。去勢してからも、しばらく馬っけが残っていましたから」(エボルブルス専務・萩原克庸さん)。
だが、静かに過ぎ行く時間の中で、レインボーの気持ちも和らいできたのか、今ではすっかり穏やかな馬になっている。2004年12月に引退名馬として繋養前される前には、馬術競技に出て障害を飛んでいた時期もあったが、今は放牧三昧、功労馬としてのんびりと日々を過ごしている。
取材に訪れた日、トーヨーレインボーは洗い場にいた。「顔がかゆいみたいで、背中を向けると必ず顔をスリスリするんですよ」と、エボルブルスの仙波恵美さんがくるりと背を向けた途端、レインボーはその背中の上から下まで顔を何度もすりつけた。かゆいのか、すりつけると気持ちが良いのか、それとも甘えているのか。レインボーの真意は定かではないが、その姿は本当に愛らしかった。
レインボーと仙波さんの微笑ましい様子を眺めているうちに、私も試してみたくなって、レインボーに背中を向けてみた。しかし、待てど暮らせど一向にすりつけてくれる気配がない。レインボーの方を振り返ると「初対面の素性のわからない女の背中に、俺は果たして顔をすりつけて良いのだろうか?」と思案でもしているような表情を浮かべている。
「怪しい者じゃないから、大丈夫だよ」と、猫撫で声で説得を試みた。2、3分ほどたった頃だろうか。背中がふいに温かくなり、レインボーが顔を上下に動かして擦りつけ始めた。仙波さんに対するよりも、若干遠慮がちではあったが、そのぬくもりは体全体に伝わって、何だか優しい気持ちになった。
レインボーにすっかり癒された後、洗い場エリアから出て馬場の向こう側の小高い丘に目を移すと、ポニーが2頭、草を食んでいた。1頭は妊娠中。春には仔馬が生まれる予定だという。前回紹介した中山グランドジャンプ優勝のスプリングゲント(牡14)も、乗馬を目指してこの地で第二の馬生を歩み始めた。
馬の他にも、存在感ある姿でクラブハウスに陣取るケズメリクガメのかめどん、ホワイトシェパードのラルフを始めとする犬たち、洗い場の枠組みの上部を行き来していた猫のきゅーとやうさぎ、ミニブタなど、ここには溢れる自然と多くの動物がいる。
きれいな空気を吸い、命ある生き物たちと接しているうちに、あっという間に時間が経って、気がつけばとっぷり日が暮れていた。また癒されに訪れたい…そう思わせてくれる場所だった。そして、ファンに感動を与えてくれたトーヨーレインボーやスプリングゲントが、そのような場所に暮らしているということも、嬉しく思ったのだった。(取材・写真:佐々木祥恵)
※ホースライディングスクウェア エボルブルス は見学可能です。
〒300−0323
茨城県稲敷郡阿見町大形696
電話:0298-89-5026
http://www.horse.co.jp/