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冬季繁殖馬セール

  • 2014年01月23日(木) 18時00分
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◆国内唯一の繁殖馬市場

 去る1月22日(水)、新ひだか町静内神森にある北海道市場を会場に、冬季繁殖馬セールが開催された。主催は(株)ジェイエス。同社による繁殖馬セールは国内唯一であり、秋季と年明けの冬季の年二回開催が定着している。胆振日高を中心とした生産者や関係者にとっては、新規に繁殖牝馬を求めるチャンスでもあり、毎回注目度が高い。

 今回は、名簿上では64頭の上場予定馬がいたものの、結果的には11頭の欠場が出て全53頭の上場馬となった。

 内訳は受胎馬22頭、空胎馬31頭。うち落札されたのは受胎馬が15頭、空胎馬が22頭で、計53頭中36頭が落札されたことになる。売却率は67.92%(受胎馬68.18%、空胎馬67.74%)である。

 開場は午前11時。それから2時間が下見のために設けられており、購買希望者はそれぞれ気になる馬の馬房まで行って、実馬を自分の目で確かめるのだ。

 この日は比較的好天に恵まれたものの、今年の北海道は年明けからいきなり気温が平年以下に下がり、このところずっと冷凍庫にはいったような厳冬が続いていることから、静内もかなり寒かった。日陰にいると冷気が体に堪えた。おそらく日中の最高気温は-2度か3度くらいのところだったと思うが、それでも海岸に近いせいか、内陸部から出てくると「暖かく感じる」らしい。今年の冬は平年よりも寒くなるとの長期予報が昨秋に出た時にはまだ比較的暖かかったことから「まさかそんな」と思ったものだが、予報が的中したようだ。

 せり開始は午後1時。欠場馬が少なくないので、セリはどんどん進む。前半は受胎馬、後半に不受胎馬と未供用馬というように完璧に「区別」されている。防疫上、この時期は受胎馬と未供用馬は一緒にできないので主催者も神経を使う。

 いきなり1番「チアフルドーラ」(9歳、鹿毛)が950万円(税抜き)まで上がり、まずまずのスタートであった。父Jump Start、母Cheer Cheerの米国産馬で、スズカフェニックスを受胎している。販売申込者は藤田在子氏、落札は(有)岡田スタッド。

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チアフルドーラ


 続く2番「ケイアイメルヘン」は栗毛12歳。ケイアイダンサー(6勝)が半姉、ケイアイドウソジン(10勝)が半弟におり、自身も貴船Sや円山特別など4勝を挙げている。カネヒキリを受胎しており、リコーファームが630万円で落札した。販売申込者は(有)松田牧場。

 最高価格馬は4番目に登場した「ラインレジーナ」(栗毛、12歳)で、父サクラバクシンオー、母シンコウエンジェル(その父オジジアン)という血統。本馬自身は未勝利ながら、半兄にワイルドソルジャー(名古屋グランプリ=GII、中央4勝)や半妹にクイーンズバーン(阪神牝馬Sなど4勝)、半弟にダノンカモン(8勝)などがいる名血馬だ。エンパイアメーカーを受胎しており、3月29日が出産予定日となっている。

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ラインレジーナ


 このセールの“目玉”の1頭で、活発な競り合いの末に価格は2100万円まで上がった。販売申込者は若林牧場、(有)岡田スタッドがせり落とした。

 これを過ぎると価格は比較的落ち着き、それほど高額馬が出ないまま、不受胎馬、そして未供用馬へとせりが移行した。

 未供用馬は、現役を引退したばかりの、いわゆる「(競馬)上がり」で、本馬自身も成績を上げているような素材はまずいない。しかし、血統的には面白そうな馬が結構いて、受胎馬よりもこの未供用馬狙いで会場にやってくる生産者も少なくない。

 価格は受胎馬から比べると確かに安いのだが、注目馬はどうしても集中しがちだ。今年は53番「ドリーミートーツ」がその筆頭であった。父ジャングルポケット、母ローズバド(その父サンデーサイレンス)の4歳馬。5戦未勝利ながら、「薔薇一族」の母系は魅力的で、半兄は言わずと知れたローズキングダムである。予想通り、この馬が登場すると価格はどんどんつり上がり、瞬く間に1000万円の大台を超え、1250万円で落札された。販売申込者はノーザンレーシング、落札者は前川正美氏(新ひだか町)。

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ドリーミートーツ


 なお、101番として登場した「ムーンハウリング」(10歳芦毛)は、いわゆる“黄金配合”馬で、注目された。父メジロマックイーン、母アスカシーズ(その父カコイーシーズ)という血統背景とくれば、胎児はステイゴールドの仔を宿している。3月22日の出産予定。この馬はかなり高くなるのではと期待されたが、900万円でスクーデリアに落札された。販売申込者は村上欽哉氏。

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ムーンハウリング


 売り上げ総額は9502万5千円(税込)で、昨年と比べると、約3000万円の減となった。セールを振り返って(株)ジェイエスの藤原悟郎市場長は「欠場馬が割に多かったためにこうした結果になりましたが、時期的に受胎馬は数少ないものの、未供用馬が多数上場されて、牝馬の流通を促進するための、繁殖馬を求めるセールとしての認知度は上がってきていると考えております」と語った。

 国内唯一の繁殖馬市場として、今後も秋と冬の2回開催を維持して行く方針という。やや玉石混交の感は否めないものの、このセールの存在意義は決して小さくない。簡単に海外市場へ出かけられる人は少なく、繁殖馬の更新を考えればまずこのセールで買い求めるのが最も近道だから、である。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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