9月30日大井、「東京記念」。ネームヴァリューは、誇張でなく空恐ろしいような強さだった。逃げるカイジンクンの2番手を持ったまま進み、直線GOサインとともにあっさり先頭。後続を一瞬のうちに7馬身ちぎっている。なるほど昨今の南関東レベル、相手は少々情けないが、それでも2着カイジンクン自身、2分35秒1だから、昨年オンユアマーク(2分35秒9)との比較から十分好走といえるだろう。要は今のネームヴァリューが、ひとケタ次元が違うということ。先週も書いたが、この馬の帝王賞は、ゴールドアリュール(ノド鳴り)の破綻による勝利ではけっしてない。勝ちタイム2分33秒7は、過去10年にさかのぼって最速。ネームヴァリューは牝馬ながら少しズブいくらいの気性にみえる。先頭に立ってふわっと気を抜く。フィニッシュだけ石崎隆Jが一発二発、型通りのステッキで気合をつけた。続く大一番へ向け、ひとこと完璧、思惑通りというしかない。
東京記念(サラ3歳以上 別定 南関東G2 2400m良)
(1)ネームヴァリュー (57・石崎隆) 2分33秒7
(2)カイジンクン (56・内田博) 7
(3)ジェネスアリダー (57・桑島) 8
(4)シャイニングボス (56・今野) 首
(5)ダイワボンバー (56・戸崎) 1.1/2
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(6)オンユアマーク (58・鷹見)
(7)ベルモントシーザー (56・見沢)
単120円 馬複880円 馬単1080円
3連複3440円 3連単8070円
ネームヴァリューは、この後JBCクラシック→JCダート→東京大賞典、堂々の王道を歩むようだ。きわめて当然。帝王賞、そしてこの日のレースをみる限り、南関?1はもちろん、もっと大きく日本のダート界をリードする立場になった。JRA出身、当時4勝すべて芝。それをダートで見事に開花させた川島正行調教師と同スタッフ。意地と心意気、さらに技術。地方競馬ならでは、馬と相談しつつじっくり仕上げる“ユックリズム”の勝利でもあるだろう。
カイジンクンは能力いっぱいの競馬をした。勝ち馬とは別レベルにせよ、自身中~長距離で粘っこさが出る。10月14日金沢「白山大賞典」出走が決定。強敵相手でもハナさえ切れれば十分脈ありと考えたい。期待したシャイニングボス、ベルモントシーザーは現状でやや格負けの結果だった。ただ前者は直線、後者は3~4コーナー、それぞれ見せ場を作り、長距離向きの評価は間違いでないと思う。オンユアマークはパドックから気配が冴えず、デキ自体がひと息にみえた。ダイワボンバーが勝負どころで目を見張る行き脚をみせ復調急。まだ条件馬だが、次走はどこを使っても狙い目になりそうだ。
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翌々日、10月2日船橋「クイーン賞」。こちらは伏兵・メイプルスプリングが大金星をあげた。道中は逃げるロングカイソウの4、5番手、レマーズガールをマークする形だったが、3コーナー手前、左海騎手が軽く手綱を与えると、待ってましたとばかり反応した。直線入口、早くもロングカイソウに並びかけ、間髪を入れず一気に抜き去る。最後は独走の5馬身差。JRA1勝で船橋転入、以後[1-4-2-4]では人気薄で当然だが、ひとまず前走大井トゥィンクルレディー賞5着、一瞬あわやの見せ場を作っていた。生涯一度の大駆けか、あるいは馬自身の素質開花か。1800m1分52秒6、パサパサに乾燥し、かなり時計のかかる馬場。良馬場に限れば4年前ファストフレンド=52秒8をむしろ凌ぐ。ごく素直には、馬が急成長したとみるべきだろう。ソヴィエトスター×キャロルハウス、ゆったりのびやかな好馬体。ネームヴァリューの域に届くかはともかく、こちらも地方転入でこれ以上ない水を得た。
クイーン賞(サラ3歳以上牝馬 別定 統一G3 1800m良)
(1)メイプルスプリング (54・左海) 1分52秒6
(2)ロングカイソウ (56・小池) 5
(3)レマーズガール (54・武豊) 鼻
(4)イシノレインボー (54・甲斐) 6
(5)ラヴァリーフリッグ (57・石崎隆) 首
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(11)ビーポジティブ (55・後藤)
単2950円 馬複6860円 馬単30410円
3連複2660円 3連単60300円
レマーズガールは15キロ減。前走金沢が16キロ増だから数字はそれで納得だが、パドックの気配など、関東オークス時に大きく及ばない感じにみえた。馬体にも歩様にも迫力がない。心身とも3歳牝馬としては十分タフでしたたかだが、やはり連戦、輸送、初コースが続いては少し辛いか。勝ち馬メイプルを勝負どころで追いきれず、直線猛然と伸びたものの連対に鼻差届かなかった。ロングカイソウは自分の競馬をして力通り。逆にラヴァリーフリッグはレマーズを目標にしたぶんもあったか、終始不完全燃焼のレースだった。依然ハリ詰めた馬体で調子落ちとは思えない。こんな日もある、それが正直。ビーポジティブは16キロ増でも、どこか空元気、うわっ調子を思わすパドック。完調には少し時間が必要という印象だった。
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間の10月1日、ダイナマイトソウルがデビューから無敗の7連勝を飾った。ポンと好スタートを切り、その時点で勝負あった。道中スムーズに折り合いがつき、直線GOサインからの反応も合格点。後続に8馬身差。1600m1分41秒台の時計も、重苦しい馬場を考えると悪くない。「稽古ではカカるし、まだまだ胸が晴れない段階」(出川克己調教師)、「馬混みで競馬をしていないし、課題の方が多いんじゃないか」(石崎隆騎手)。むろん実態は夢の途中だが、それでも和田アキ子さんの持ち馬、ベルモントアクターの半妹、話題と期待が先行するのは仕方ないところなのだろう。何とか無事に、順調に走ってほしい。素質オーブンは言わずもがな。競馬を知らない友人の週刊誌記者にこう問われた。「和田さんのダイナマイトなんとかって馬。あれ今年の有馬記念に出てくるのかな」。さすがに無理だ。無理だけれど、それをきっかけに地方競馬に目を向けてくれるファンが増えれば、ある意味、彼女の走りも報われる。
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東京盃(大井10月9日 サラ3歳以上 別定 統一G2 1190m)
◎ハタノアドニス (56・内田博)
○サウスヴィグラス (56・柴田善)
▲エスプリシーズ (56・森下)
△ノボジャック (58・蛯名)
△ノボトゥルー (58・武豊)
△シルクブラボー (54・後藤)
東京盃は距離1190m(平年1200m)、やや特殊ともいえるレースである。平成7年、JRA馬を交えた統一Gに移行したが、以後8年、地方馬6勝とイメージをはるかに超えた健闘を重ねてきた。JRA勝ち馬は8年トキオクラフティー、そして一昨年ノボジャック。対して地方側の勝ち馬といえば、サクラハイスピード、カガヤキローマン(連覇)、サカモトデュラブなど。格で納得できるのは、正直12年ベラミロード一例だけで、昨年は12番人気アインアインが優勝している。交流前の歴史も含め、先手必勝が絶対セオリー。そう考えると、今年のハタノアドニスはかなりの確率で狙えるだろう。7歳馬ながら充実一途。前走アフター5スター賞圧勝からも、天性のスピードがほぼ極限まで磨かれている。次走JBCスプリントはひとまず置いて、ハナ切れるここは文字通り完全燃焼と考えたい。
サウスヴィグラスのスピード能力はむろん群を抜くが、一昨年現実に6着(2番人気)という難コースが立ちはだかる。エスプリシーズはどうやら追って味がなく、短距離ベストという仮説も成り立つ気がする。ノボ2頭では1200mのスペシャリスト・ジャックを上にみたい。キャリア5戦、初ダート、3歳シルクブラボーのレースぶりも今回大きな興味ではある。