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「ふたたびすべからざる」部分を慎重に

  • 2014年03月06日(木) 12時00分
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◆ミッキーアイルの逃げ切りと「勝ち虫」

 縁起がいいとなれば気にするのが人情。わずかでも水のある湿地に産卵し、田植えで水が張られた水田で育ち、稲刈りの頃になると空を赤く染める「赤トンボ」は、五穀豊穣のシンボルと言われた。田んぼが増えれば、それだけ赤トンボの数も増える。縁起がいいからと女性のくしや着物の柄にもなった。また、トンボの前に前にと飛び続ける姿を見て戦国武将たちは「勝ち虫」と呼んでこれを愛でたりもした。武具や刀のつばなどに、トンボで意匠を凝らしたものが遺されており、この勝ち虫がネクタイの柄にもなっている。

 アーリントンCを期待どおり逃げ切ったミッキーアイルは、正にこの「勝ち虫」に相当する。ロケットスタートを決めてひたすら前へ前へと突き進んで、シンザン記念を勝ったことで、ミッキーアイルの春の目標は、NHKマイルCと早くから言われてきた。勝てば直行したいと音無調教師が述べていたのでそういうことになると思うが、一見、大胆に見える決断は、実は慎重の上に建てられているのだ。つまり、ゆったりしたローテーションこそ大切で、テンションを上げすぎずに戦わせることをいつも念頭に置いているのだ。

 競馬は一発勝負だから、フォローの難しいところには慎重さが必要だ。「修正がきかない部分を念入りに行なえば、めったに失敗はしないものだ」と中国、戦国時代の韓非子は教えているが、「ふたたびすべからざる」部分は慎重に運んだほうがよく、折角の努力が水泡に帰さないためにも、そうあるべきなのだ。「大胆」は「慎重」の上に建つのだが、その勝ち進む姿からは、そんな不安な影は見えてこない。もしかしたら、そのゆったりローテーションの中、ミッキーアイル自身の心身の成長を見ることもあるかもしれない。重賞を連覇したことで、周囲のすべてがゆったり構え、それがいい縁を呼び込むことになるとも言える。ここまでの「勝ち虫」が、大目標も「勝ち虫」として快速ぶりを発揮できるか、この春の楽しみになってきた。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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