10月29日川崎「鎌倉記念」。トキノコジローが、デビュー3連勝目を重賞で飾った。4コーナーほぼ殿りの位置から豪快な大外一気。気性面にかなりズブいところがあるのだろう。鞍上がときおり気合をつけながら、馬はじれったいほどおっとりしている。しかし直線、エンジンかかると強烈な伸び脚。およそ10頭ほどを一瞬のうちに捕えてみせた。
個性派登場、ひとことでいうならそれしかない。3歳馬ばなれした度胸、逞しい心臓が特長だろうか。鞍上・山田信大騎手は、新潟から南関東(船橋)移籍後、重賞初勝利。今季82勝、現在南関東リーディング8位。とりわけ“追わせる馬”に乗って、その技術が光っている。
鎌倉記念(サラ2歳 別定 南関東G3 1500m重)
◎(1)トキノコジロー (54・山田信) 1分36秒3
(2)ジョウテンデヒア (53・今野) 首
△(3)ヒデボンバイエ (53・岩城) 2
△(4)ゴールドファミリー(52・森下) 1/2
△(5)モエレトレジャー (53・金子) 5
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○(6)エスプリゼット (53・内田博)
▲(7)スウィープダンス (52・酒井)
単170円 馬複1820円 馬単2100円
3連複30680円 3連単62190円
前半3F~4F、通過35秒3、48秒8のハイペース。人気はともかく傑出馬不在、各ジョッキーとも前へ前へはよくあるケース。トキノコジローは上がり推定39秒6、時計的にはとるに足らない。しかし前走「若武者特別」も同様のレースぶりで、見た目の印象、凄みを、よりインプットしておきたい思いもある。よくとれば相手なりに必要十分な競馬をするということ。父ホリスキー。少し古くなったがインパクトの強い菊花賞馬。JRAではユキノサンライズ、ストロングカイザー、地方では東海ルイボススキー、上山カガリスキーなどが代表産駒。02年地方リーディングサイヤー14位。おおむね晩成型でパワフルな仔を出してきた。コジロー自身、あとは絶対スピード、競馬センスをどう磨くか。「全日本2歳優駿」出走権はひとまず獲れたが、前2年、ジェネスアリダー、パレガルニエと較べ、正直まだ数字の裏付けがない。
ジョウテンデヒアは今回デビュー4戦目。中団から鋭くインを突き、一瞬勝ったかのシーンがあった。父デヒア、血統からはマイルで瞬発力を生かすタイプ。のびやかな好馬体はパドックでも目についた。3着ヒデボンバイエは人気薄。ただ前走大井オープンで差のない競馬をした比較から、特に驚く材料もない。父トーヨーリファール。今後もしぶとい穴馬タイプか。ゴールドファミリーは4コーナー先頭、地元・森下、さすがという好騎乗。目いっぱいの4着とすると以後は展望が厳しくなった。新馬戦、目を見張る切れ味で快勝したスウィープダンスは中団のまま動けず終了。ひとまず来春へ向け経験だろう。2歳戦は、基本的に2~3戦目が評価の基準。5着モエレトレジャー、6着エスプリゼット。このあたりは大きな変わり身が必要になってくる。
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今回の川崎競馬(10月27~31日)、ルーキー・山崎誠士騎手がいきなり3勝をあげ、鮮烈なデビューを飾った。父はかつての名ジョッキー、現在川崎トップトレーナーである山崎尋美調教師。5日間で26鞍とは確かに新人ばなれした厚遇だが、その騎乗ぶりをみる限りけっして祝儀的なものではないと納得する。純粋に馬の力で勝ったのは、3日目メイン「古都オープン」、JRA移籍ロッキーアピールだけで、あとの2つは能力拮抗の顔ぶれ。的場文男、酒井忍相手にゴール前激しい叩き合いを制している。道中位置取りが巧みなこと。上下動が少ないフォームで、追って馬が動くこと。天性のセンスとしかいいようがないだろう。騎手過程終了後、フランスへ競馬留学した経験もあると聞いた。あとは恵まれた環境を、日々の努力でどう結実させるか。
新時代を迎えた南関東ジョッキー戦線は、目下競争がきわめて厳しい。少し先輩にあたる石崎駿、御神本訓史、繁田健一。廃止の不運を乗りこえ、逞しくスターダムに昇りつつある山田信大、岡田大。もちろん真っ当には、これこそプロというべきなのだろう。彼らの夢を賭けた戦いは、地方競馬、いや競馬界全体にもフレッシュな活力を生み出す。
父、山崎尋美調教師が、デビューする息子に送った言葉。「みんなに好かれる騎手(人間)になりなさい」。肉親でもあり師弟でもあり、素晴らしいアドバイス、そして深いひとことであると思った。勝負ごと、シビアな世界だからこそ、ファンを含め周囲の誰もが「ナイスガイ」を渇望している。思えばヤンキース・松井秀喜がそうだ。