◆馬が好きなオーナーの元へ ヤマニンアクロのいた香川県から車を走らせ、徳島県を通過し、大鳴門橋を渡って淡路島に向かった。海を渡っている感覚がほとんどないまま、淡路島へと上陸する。目的地は南あわじ市。この2月に高知競馬を引退したミヤマリージェント(牡15)に会うためだ。
▼ターフを去って12年、香川県で穏やかに暮らすヤマニンアクロ→
記事はこちら 途中、ミヤマリージェントを繋養している角山喜信さんが、軽トラックで迎えに出てくれていた。その後をついてミヤマリージェントの元へ向かう。
案内された敷地は2区画に分かれていて、片方に鹿毛の馬、もう一方に芦毛の馬が放たれていた。鹿毛の馬は、馬体に張りがあり、目力も強くて若々しかったので、15歳のミヤマリージェントかどうか半信半疑になったが、角山さんに聞くとやはりこの馬がそうだった。
ミヤマリージェント(牡15)は、1999年4月24日に北海道浦河町の木戸口牧場に生を受け、2001年5月10日にまだ道営競馬が開催されていた札幌競馬場でデビューした。道営所属の2歳時と南関東に移籍してからの3歳時に中央競馬にも参戦している。
北海道、南関東、北関東(宇都宮)、岩手を転々として、2005年の夏には高知競馬へと移籍した。そこから2014年2月23日の引退レースまで、生涯成績は実に329戦13勝。netkeiba.comの競走馬データを印刷すると、その成績は実に7頁にまたがり、1戦1戦を辿っていると気が遠くなりそうになる。タニノギムレットやシンボリクリスエスらが、同じ1999年生まれということを考えても、リージェントがいかに長い間、走り続けたかがわかると思う。
「家の仕事が運送屋で、当時は馬力(ばりき)と言って馬が荷物を引っ張っていてね。僕が小学生の頃だったけど、馬の横についていったりしてましたよ」
角山さんの原風景には、馬がいたのだ。
元々動物好きだったこともあり、シェパード犬に夢中になっていた時期もあったが、現在は馬一色。競走馬も所有していて、自家生産のアワジノルーキー(牡3、父リンカーン)が高知競馬で走っている。

▲角山さんに甘え中のミヤマリージェント
本業をご子息に任せて、正に馬三昧の日々。自宅から馬たちのいる放牧地に通い、朝から世話をしている。馬仲間である徳島県の「観光乗馬 クラブ コルツ」の代表・井村泰信さんと連れ立って高知競馬にも行く。
取材に伺った日には、コルツの井村さんも来ていた。「癒されるし、いつまで見ていても飽きないよ」と言って、穏やかな笑顔でリージェントを眺める井村さん。コルツでも毎日馬に接しているはずだが、それでも「飽きない」というのだから、この方も角山さんに負けず劣らず馬好きのようだ。
「田舎のことだから、青草はたくさんありますからね」

▲放牧地の前を流れる小さな川
新鮮そうな青草が放牧地の前に積まれていた。ミヤマリージェントが放牧地でボロ(馬糞)をすると、即座にそれを始末する。
「良い餌食べてるから、体が立派だよね」コルツの井村さんが、ミヤマリージェントの張りのある馬体を目の前につぶやく。世話をする角山さんの様子や井村さんの言葉から、リージェントはとても大切にされている。そう感じた。
◆現役時代の友と第二の馬生を 隣の放牧地にいる芦毛の名はリュウノクロノス(セン8)。父メジロベイリー、母オグリロイヤルで、祖母のオグリドンはオグリキャップの異父姉にあたリ、ミヤマリージェントと同じ國澤輝幸厩舎からやって来た。

▲オグリ一族の血を引くリュウノクロノス

▲観光乗馬クラブコルツの井村さんとお話中
「ちょうど馬房が空になっていたし、草を食べてくれる馬がいたら良いなと思って、引退する馬がいたら教えてほしいと國澤調教師に話してあったんですよ。それでちょうどミヤマリージェントが引退するからということで、ウチに来ました。それで1頭だと寂しいからからということで、同じ厩舎のリュウノクロノスもやって来たんです」(角山さん)
角山さんと調教師の何気ない会話が、2頭に第二の馬生をもたらしたのだった。
リージェントとクロノスは、時折、柵越しに顔を突き合わせていたが、喧嘩をする素振りはない。同じ厩舎にいたのだから、お互い旧知の仲。競走馬時代の話をしているのか、それとものんびりと過ごす今を語り合っているのか。馬の言葉が理解できたら良いのにと、こんな時に思う。

▲ミヤマリージェントとリュウノクロノス、どんな会話をしているのか…
角山さんに初めて電話をした時に「元気で元気で」とミヤマリージェントを評していたが、実際に会ってみると、それが良くわかった。キリッとした瞳には気の強さが宿っているものの、角山さんに甘える時には、鼻の下が若干、伸びている。リラックスしたリージェントの表情からは、既に人と馬との絆が構築されていることが伝わってきた。
角山さんが厩舎内に姿を消すと、リージェントはそちらの方向をじっと見つめた。そろそろご飯の時間だとわかっているようだ。やがて角山さんに引かれて、2頭は馬房に戻った。藁がフカフカに敷かれた馬房は広々としていて、馬が伸び伸びと過ごせそうな空間になっていた。2頭が黙々と餌を食べている様子を眺めながら、馬の運命は人間のさじ加減一つで決まるのだとつくづく思った。
角山さんと井村さんに別れを告げて、再び大鳴門橋を渡る。自然体で愛情を注ぐ角山さんのもと、安心して暮らす2頭にまた会いに来ようと同行者と話し合っているうちに、車は徳島県に入っていた。
(取材・文・撮影:佐々木祥恵)
※ミヤマリージェントは見学可
兵庫県南あわじ市に繋養されています。見学の際は、角山喜信さんに事前に連絡の上、お願い致します。
090-8820-2966
※文中に登場した井村泰信さんの「観光乗馬 クラブ コルツ」のHP
http://www.c-colts.com/