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「今年こそ」3冠馬誕生なるか?カリフォルニアクローム

  • 2014年05月07日(水) 12時00分


◆母の購買金額と父の種付け料を合計しても100万円に満たない元手で生産した馬がカリフォルニアクローム

 3日(土曜日)、第140回ケンタッキーダービーが、舞台となったチャーチルダウンズ競馬場に16万4906人の観衆を集めて開催された。この数字、12年に記録した16万5307人にわずか401人足りないだけの、ダービー史上2番目の入場数だった。

 今年のダービーは話題に事欠かなかった上に、快晴で気温22〜23度という屋外スポーツの観戦にはもってこいの日和に恵まれた結果だが、これだけ盛り上がったにも関わらず、馬券売り上げの1億2466万ドルは、前年の1億2566万ドルを0.8%ほど下回るものに留まった。昨年のダービーが近年稀に見る混戦で、1番人気のオーブでさえ単勝オッズが6.4倍もあったにの対し、今年は、昨年暮れから楽勝続きの4連勝で臨んだカリフォルニアクローム(牡3、ラッキープルピット)という確固たる1番人気(3.5倍)がいたから、馬券的には昨年ほど食指の動く競馬ではなかったということだろう。

 同日のチャーチルダウンズでは全部で13競走が行なわれたが、その総売り上げ1億8075万ドルは、前年の1億7827万ドルを1.4%上回るもので、北米における競馬人気が回復基調にあることは間違いなさそうである。

「話題に事欠かなかった」と記した今年のダービーだが、その話題の半ばは1番人気に推されたカリフォルニアクロームにまつわるものだった。同馬については、前哨戦のG1サンタアニタダービーを制した直後の4月9日付けの当コラムに詳述したので、そちらを改めてご高覧いただければ幸いである。

 実は、4月9日のコラムでは書き切れなかったこともある。

 カリフォルニアクロームは、ネヴァダ州のカリフォルニアとの州境にあるトパーズレイクに住むスティーヴとキャロラインのコバーンズ夫妻と、カリフォルニア州北部のユバシティに住むペリーとデニスのマーティン夫妻という、二組のカップルによる自家生産馬なのだが、カリフォルニアクロームの母ラヴザチェイスは、09年2月にゴールデンゲート競馬場で開催されたクレイミングレースにて8千ドル(当時のレートで約73万円)でクレイムした馬で、そのラヴザチェイスに2500ドル(当時のレートで約22万5千円)のラッキープルピットを交配して生まれたのがカリフォルニアクロームなのだ。すなわち、母の購買金額と父の種付け料を合計しても100万円に満たない元手で生産した馬が、ケンタッキーダービー馬となったのだ。コバーン夫妻とマーティン夫妻にしてみれば、まさしく瓢箪から駒が出たわけである。

 父のラッキープルピットは、現役時代の成績22戦3勝。勝ち星の中に重賞競走は含まれておらず、G2・2着、G3・3着が一度ずつあるだけの馬だった。08年生まれが初年度産駒で、カリフォルニアクロームは4世代目の産駒となるが、これまでの3世代から重賞勝ち馬は1頭も出ていなかったから、種付け料2500ドルというのも納得の価格である。

 魅力があるとすれば、ラッキープルピットの父プルピットが、タピット、スカイメサ、そして昨年日本でファーストシーズンサイヤーランキング第2位となったパイロなど、直仔が続々と種牡馬として成功し「サイヤー・オヴ・サイヤー」として脚光を浴びつつある点にあろうか。実は、ケンタッキーダービーの前日に同じくチャーチルダウンズで行われたG1ケンタッキーオークスも、タピット産駒のアンタパブルが制覇。「プルピットの2代目」は今、北米における血統的キーワードの1つとなっている。

 カリフォルニアクロームの次走に関して、管理するアート・シャーマン調教師はケンタッキーダービーの翌日、「私は元来、ゆったりとしたローテーションが好きで、一度競馬を使った後は6週間から8週間かけて再調整するのがいつものやり方だ。ましてや、あれだけ激しい競馬をした馬を中1週で使うというのは、私の流儀に反するのだが、しかし現在の自分が、プリークネスSを避けては通れない状況にあることは承知している」と、長い前置きの末に5月17日にメリーランド州ピムリコで行われる3冠2戦目に向かうことを表明した。

 ケンタッキーダービー出走組では、2着のコマンディングカーヴ(牡3、父マスターコマンド)、3着のダンザ(牡3、父ストリートボス)、7着のライドオンカーリン(牡3、父カーリン)の3頭が、馬の状態次第としながらもプリークネスS出走の可能性を残しているが、2番人気で4着だったG1ウッドメモリアルS(d9F)勝ち馬ウィケッドストロング(牡3、父ハードスパン)を筆頭する残りの馬たちは、2冠目をパスする公算大となっている。

 ケンタッキーダービー不出走組では、一度は補欠から繰り上がってのケンタッキーダービー出走が決まりながら、結局は回避したG1ブルーグラスS(AW9F)3着馬パブロデルモンテ(牡3、父ジャイアンツコーズウェイ)、G1ウッドメモリアルS3着馬ソシアルインクルーション(牡3、父パイオニアオヴザナイル)、G1アーカンソーダービー3着馬ベイヤーン(牡3、父オフリーワイルド)、地元の前哨戦フェデリコテシオS(d8.5F)勝ち馬キッドクルーズ(牡3、レモンドロップキッド)、G3イリノイダービー(d9F)勝ち馬ダイナミックインパクト(牡3、父ティズナウ)らがプリークネスS出走に意欲を見せ、ケンタッキーダービーを熱発で回避したG3タンパベイダービー(d8.5F)勝ち馬リングウィークエンド(セン3、父タピット)も、陣営の言葉を借りれば50%の確率で参戦の可能性がある。

「今年こそ」のフレーズもすっかり色落ちするほど使われてきたが、「今年こそ」カリフォルニアクロームが3冠馬誕生の空白期間に終止符を打つか。5月17日のプリークネスSに注目したい。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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