▲左から辻さん(JRA)、中野さん(看護師)、黒川さん(看護師)、竹田さん(JRA)
何万人もの大歓声が響く白熱のレース、美しいサラブレッドを華麗に操るジョッキーたち。そんな華やかな舞台の裏で、ジョッキーたちは命を懸けた勝負をしています。危険とは常に隣り合わせ。今月は、そんなジョッキーたちを守る競馬の最前線、東京競馬場の「救護所」に潜入取材。JRA競走部厩舎関連室の辻智之さん、JRA東京競馬場総務課の竹田祐一郎さんに、その舞台裏を聞かせてもらいました。(聞き手:赤見千尋)
◆救護所の利用者は年間約70件赤見 救護所は普段目にすることのできないエリアですので、取材させてもらえるのを楽しみにしてきました。まず救護所の主な役割から教えていただけますか。
辻 救護所は、レース中の落馬、厩舎作業時の怪我等の際、その名前の通り救護・応急処置をする場所ですね。迅速に対応ができることを第一と考えています。
赤見 利用するのはジョッキーのみですか?
辻 いえ。大部分がジョッキーですが、厩舎作業を行う厩舎従業員(厩務員・調教助手)の方や、調教師の方々もいらっしゃいます。ここ厩舎関係者のエリアにある救護所は、基本的には厩舎関係者の方が利用しています。お客様には、また別にファンエリアの救護所がありますので、そちらをご利用いただけます。
赤見 ファンのための救護所もあるんですね。厩舎関係者の救護所の、1日の利用者数というのはどの程度なんですか?
辻 ファンエリアと比べると、件数としてはそんなに多くはないと思います。去年1年間で約70件。ここ数年で見ても70〜80件か、多くて100件くらいで推移しています。なので、開催日で考えますと1日1件2件あるかどうかですね。
赤見 ファンエリアの救護所はもっと多いですか?
竹田 相当多いですね。私はファンエリアの救護所も担当しているのですが、やはり何万人というお客様に来ていただくレジャー施設ですので。東京競馬場には救護所が3カ所あるんですが、1つの救護所で1日20件くらいになります。
赤見 そんなにですか。またGIともなれば、人が多くて具合が悪くなる方もいらっしゃったり…。
竹田 そうですね。いろんな症状の方が来られます。病気で倒れてしまったとか、お子様がすり傷でとか。あとは朝早くから来てくださる方も多いですので、寝不足で体調が悪くなってしまった…など。救護所には医師や看護師が待機していますので、その点は万全を期しています。
▲赤見「救護所は厩舎関係者やファンの方を守る場所ですね」
◆重要なのは“迅速さ”と“外部機関との連携”赤見 こちらの厩舎関係者の救護所ですと、やはりレースでの怪我などが多いわけですよね。先日も後藤浩輝騎手の落馬事故がありましたが、まさに救護所は騎手の命を守る最前線。そのあたりで、大事なことはどんなことですか?
辻 やはり落馬事故となると、至急外部の病院に搬送しなければならない場合も多くあります。なので、ここで大事なのは、治療だけではなく医師による適切な初期判断となります。そして、可能な処置を行い、救急車を依頼し、速やかに外部の対応可能な病院に運ぶということが求められますね。
赤見 ということは、「適切な初期診断」というのが、とても重要になってきますね。
辻 そうですね。そのため、競馬での事故における特徴的なものへの対応のため、東京競馬場の場合であれば、脳神経外科の医師、整形外科の医師、レントゲン技師、看護師が2名待機しております。
赤見 辻さんと竹田さんはJRAの職員さん。
辻 そうですね。私は「厩舎関連室」という部署におりまして、主に、厩舎従業員等の労務面の対応等を行う部署に所属しています。開催日は、競馬場での勤務を行いますが、主に、業務エリアの救護所に勤務しており、救護所での傷病者対応を行ったり、救急車に乗って落馬者等の搬送対応を行っています。
赤見 救護所にはやはり、競馬の特徴に強い医師がいるんですね。
竹田 ええ。なので、救護所の設備としては、あくまで応急処置、病院へ搬送する前の初期治療を前提としているため、例えばレントゲンはありますがCTはありません。そういう高度な治療は設備の整った病院で行いますので、そのためにここでは専門の医師がしっかりと判断できる体制を備えています。
赤見 落馬だと、どこの病院に運ぶかという選択も大事ですよね。
辻 それも大事ですね。待機している医師が「このような処置が可能な病院に運んだ方がいい」と救急隊の方に話してくださるので、そういう意味でもすごく助かっています。そのために我々は、近隣の病院とできるだけ密に連絡を取るようにしています。落馬は特殊な状況も多いですので「もしかしたら、こういう事もあるかもしれません」と、予めいろいろなケースを想定しながら事前にお話させていただくことも多いです
赤見 毎開催毎に連絡するんですか?
辻 毎開催ですね。また、ここのところ医師不足が社会的な問題にもなっています。開催中に競馬場に来てもらう医師もそうですし、病院側も医師不足で受け入れられないという場合も考えられますので、事前に出来得る準備ということで最大限の努力を行っているところです。
赤見 今は医師を確保するのも大変な時代なんですね。
辻 もちろん、競馬の主催者として、ジョッキーは大事な財産ですから。大事なジョッキーを守るためには、そういうことをしていかないといけないと思っています。
赤見 後藤騎手の落馬の時もそうですが、ああいうことがあるとファンの方もレースを見るのが怖くなってしまったり…。でも、主催者として「ジョッキーは財産」というお気持ちなのが、うれしいと思います。(第2回につづく)
▲辻「主催者として財産であるジョッキーを守りたい」