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【潜入取材】競馬の舞台裏!競馬場の救護所(2)『後藤騎手の落馬負傷、その時現場では…』

  • 2014年06月09日(月) 12時00分
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▲不測の事態に備えて馬場に待機する救急車

4月27日の東京第10R、ジャングルハヤテに騎乗していた後藤浩輝騎手が落馬負傷。救護所の医師の判断により、すぐに病院に搬送され、第5、6頸椎棘突起骨折と診断されました。厳しい勝負の中ではどうしても起こりうる事故。その時、現場の最前線である救護所ではどんな動きがなされているのか。緊迫の時間に迫ります。(第1回のつづき、聞き手:赤見千尋)

◆後藤騎手の落馬“すぐに救急搬送”の指示

赤見 レース中に落馬事故が起きた場合、馬場に待機している救急車にジョッキーを乗せて救護所に運ぶという流れになると思いますが、その救急車に辻さんが乗られているんですよね?

 私と、もう1名執務している者がいるので、どちらかが救急車に乗って対応を行います。また、障害競走は、事故が起こる可能性も平地競走に比べて高いので、正面と向正面のように2名とも馬場内に行く場合もありますね。

赤見 そうなんですね。ジョッキーを救急車に乗せた後は、どんな対応になるんですか?

 救急車から、自分たちで確認できる範囲で、「意識の有無」「外傷の有無」「どこを痛がっているか」などを無線で救護所に伝えます。救護所に搬送されるまでに状況を伝えることで、待機している医師、看護師、レントゲン技師が、搬送されるまでにどういう状態なのかを把握できることで、到着後の処置等が迅速に進められるようにと考えています。

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▲現場と救護所は無線でやり取り(JRA競走部厩舎関連室の山本大輔さん)


赤見 じゃあ、ジョッキーが到着するまでにやり取りが行われていて、どういう状態かというのも伝わっているんですね。ところで、先日後藤騎手の落馬がありましたが、その時の状況をお聞きしてもいいでしょうか?

 私はその日は別の競馬場に執務していたので伝聞になってしまいますが、最後の直線での事故でしたが、速やかに搬送できたと、対応した職員からは聞いております。

赤見 ここに運ばれた時、後藤騎手の意識はあったんですか?

竹田 搬送時に意識はありました。また、救護所への搬送後、脳外科の医師が意識レベルを確認しています。その結果、「CTの撮影を行い、精密検査をした方がいい」という医師の判断を受け、できる限り速やかに外部の病院に救急搬送しようということになりました。

赤見 ここに設備があったとしても、早く運んだ方がいい場合もありますね。

 ええ。怪我の場所・状態等もあり、すぐにCT撮影を行ったうえで治療にあたった方がいいという見解だったと聞いています。

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▲辻「後藤騎手の場合は、速やかに外部の病院に救急搬送しようということに」


◆緊急対応の中で一番気をつけていること

赤見 首は人間の一番大切な部分ですもんね。

 JRAの職員も、各事業所等において、救急対応の研修を受けることがあります。特に開催競馬場において競走中の落馬事故等に対応する担当者が一番意識しているのが「頭部の固定」なんですね。一番大事な頭部・首にかけては特に重要な部分なため、砂枕などで頭と首をできるだけ動かさないように固定して搬送するということです。

赤見 担架で運ぶ時も、例えば意識がない人を乗せるのは大変じゃないですか?

 意識がない人を運ぶ場合にも気をつけるべき点があり、研修等を含めていろいろな機会に教わります。あとは、特に障害競走での落馬ですと、例えば1周目で落馬すると、時間的に余裕が無い状態で2周目にかかった馬群が接近してくる可能性があります。そういう時間的な余裕が無い場合はどのように対応すべきかなどを、常に考え話し合ったりしています。

赤見 たしかに障害競走は、助けに行くタイミングが難しそうですね。

 事故が1か所で落馬したのが1人であれば、救急車でその場所に行って、全馬が通過した後を見計らって担架に乗せて運び出すのは可能だと思うんですけど、場所が複数だったり、怪我をしたのが複数人になる可能性もあります。そういう時は、搬送する担当者が騎手の状態を見極め、人間の判断により、搬送する優先順位を見極めないといけない場合があります。適切な判断力が求められるところだと思います。

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▲競馬を裏から支えるのが救護所の役割


赤見 緊迫した状況の中で、一番気を付けていらっしゃることは何ですか?

 一番気をつけているのは、やはり運ぶ時ですね。こちらは、レースの進行状況を把握した上で、出来るだけ早く現場へ行って、出来るだけ早く運ぼうとしていますが、落ちたジョッキーにとっては、その時間は長く感じていると思います。そういう不安を感じさせないように、少しでも早く運び、処置ができる状態にもっていくことを意識していますね。出来る限り状況をしっかり見ること、相手の気持ちになって対応していくことを、常に考えています。

赤見 そういう緊迫した状況の中で、常に冷静さを保てるものですか?

 たしかに焦ってしまうのですが、そういう時にこそ冷静にならないと、というのはありますね。バタバタしている状況でも、自分が冷静でいないと駄目だなと思うので、なかなかできてはいませんが、自分自身心掛けているところですね。

竹田 あとは、医師からの情報を正確に受け取って、関係各所に適切に連絡するというところですね。連絡が必要な場所も多いので、そこを正確かつ速やかに出来るように心掛けています。(第3回につづく)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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