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佐藤哲三騎手(3)『エスポの走りは、元阪神・赤星選手の盗塁がヒント』

  • 2014年07月21日(月) 12時00分
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▲佐藤哲三騎手の支えとなったエスポワールシチーの存在

今回の落馬の前、2007年に肩甲骨を骨折した佐藤哲三騎手。騎手としての未来に不安を感じていた時、エスポワールシチーとの出会いがめぐってきました。3歳の秋にダート路線に転向してから頭角を現し、2009年のJCダートでGI制覇。哲三騎手にとっては、タップダンスシチーの宝塚記念以来、5年半ぶりの栄冠でした。そして、このエスポから騎乗技術の幅も広がったと言います。競馬の枠を超え、幅広い視野で騎乗の研究を続ける哲三騎手。今週は独自の騎乗論に迫ります。(第2回のつづき、取材:赤見千尋)

◆エスポワールシチーとの出会いが力に

赤見 前回のお話で、哲三騎手の騎乗スタイルのきっかけになったのがタップダンスシチーとお聞きしましたが、ここ何年かを振り返っていただくと、エスポワールシチーがいて、アーネストリーがいて、キズナがいてという。

佐藤 そうですね。タップでの経験は、エスポへつながりました。自分が大きな怪我をして、「もうダメかな」「もうGIは勝てないだろうな」と思っていた頃に、エスポと出会ったんです。「この馬とならもう一度重賞を勝てるかもしれない」と思えて。そうしたら「まだまだこれじゃ終われない」「絶対にGIを獲ってやる」って、どんどん欲が出てきて。気持ちの切り替えとかメンタルの部分は、エスポの存在がかなりあると思います。

赤見 怪我を乗り越えてもう一度GIを勝てたことが自信になって。

佐藤 技術も身に付いたと思いますしね。エスポに乗っていて、僕のそれまでのやり方では、自分の肩、特に肩甲骨にあまり力が入らなかったんです。そういうところで、人よりも劣っているな、人と同じことで勝負したらダメだなと悩んで。ダートだったら、引っ張るよりも前に押すのがいいんじゃないかなって思ったんです。

僕がいつも思っている「馬に合わせた回転」というのを研究したら、ジョッキーが肩甲骨を引くよりも前に出した方がいいとか。あとは、アブミを踏んでいるところからひざまでの角度をこうしたらいいとか、いろいろあるんですけど。そういう無駄のない騎乗フォームというのが作れるようになって。多分、人とは違う土台がいっぱいあると思います。

赤見 だから、前に行けるんですよね。

佐藤 前に行けるし、引っかからないし、意図したところで止まってくれる。それが全てではないですけど、僕にはその乗り方が一番合っているなと思っています。そういうことがエスポとダートで出来た。今度は、その乗り方を芝でも出来るかなと思って、難しいなとは思っていたんですけど、アーネストリーと出会って、芝では出来ないだろうなと思っていたことが出来るようになったんですね。

赤見 今度はエスポからアーネストリーへとつながって。

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▲エスポとダートで出来たことを、次はアーネストリーと芝で


佐藤 その馬に合った乗り方を研究して、馬も頑張ってくれて、それが結果として出たから、調教師やオーナーさんにも喜んでもらえて。喜んでもらえるのが一番ですからね。そのなかで、この乗り方でもっと切れ味ある馬。例えばアーネストリーみたいな乗り方で、34秒台で入るところを35秒をちょっと切るぐらいで行って、上りが34秒でまとめられたら、時計的には負けないじゃないですか。

そういう馬に出会えないかなと思っていたところで、キズナがそのイメージにぴったり合ったんですね。馬に合わせるのも騎手の仕事だけど、騎手に合わせてもらうのも騎手の仕事。「僕の意向はこういうのだよ」というのを馬に伝えたくて、キズナはそれが伝わりやすいんじゃないかなと。

赤見 哲三騎手の求めていたところを、キズナならって可能性を感じられた。

佐藤 そうです。キズナなら、後ろから行こうが前から行こうがきっと結果は出るだろうし、マイルでも走れると思います。天皇賞・春はアクシデントもあったみたいで負けてしまいましたが、それこそ長距離だって走れるでしょうし、1200mだって走れるように感じます。それでも1着を獲ってくるんではないかなというぐらい、オールマイティに何でもうまくこなせそうなイメージがあるので、すごい馬だなと思います。

赤見 初めて乗った時にそう感じられたんですか。

佐藤 うん。乗った瞬間にね。坂路を駆け上がった瞬間に、「ダービーまでこれぐらいで作って行って、こういう追い切りにして。こうやって行ったら、ダービーは勝てるだろうな」と思って。さらにその先の凱旋門賞をイメージするのが、僕の仕事だなと思っていました。

◆競馬のヒントは馬乗りだけではない

赤見 馬を動かすイメージを常に持っていらっしゃるんですね。

佐藤 例えば、いま入院していて、ノースヒルズの馬たちが写っている写真を何気なく眺めたりするんですけど、「首をいっぱいに伸ばして、枝の葉っぱを食べようとしてるな。かわいいなぁ。でも、ジョッキーが普通に乗っていたら、馬は葉っぱを食べられないな。食べられないってことは、ストレスがたまるよな。どうやって動かしたら食べられるかな」って考えたり。イメージ的には、この部屋の照明が馬の好きな葉っぱだと考えて。

赤見 天井ですから、かなり高い。難しいんなかいかなって思ってしまいます。

佐藤 そうですね。今の日本のジョッキーの乗り方で、馬が首をいっぱいに伸ばして食べることができますかってなったら、なかなかできないと思います。それは、馬の支点になるところよりも前に拳を置いているから。そこじゃないところにポジションを置くから、引っ掛かると思うんです。僕のイメージでは、ネックストラップのあたりを中心にすれば、引っ掛からないというのはあるかな。

赤見 首を伸ばした時の想像なんてしたことがなかったです。

佐藤 背中を丸くして小さい円で回るのが20年前の乗り方。でも、今の馬は前がしっかりしているので、その回転が要らなくなるから、ポジションはもっと前に行けるはずで。そう考えたら、乗り方は変えていった方がいいと思いますね。「1、2、3」で馬を出して、「4、5」で抑えるような乗り方だったのが、今の馬は「1、2、3」と乗っただけでビューっと行ける。それにちょっとした止める動作があれば、馬はわかって走ってくれますね。

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▲佐藤「今の馬は前がしっかり。だから乗り方は変えていった方がいい」


赤見 だんだんシンプルになって来ていますね。

佐藤 そう。走るのは馬なんだから、シンプルでいいと思うし。それで、皆が同じようにシンプルになってきたら、また変えればいい。どの世界でも先のことを考えて、他の人がやらないことをやり出した人が強いと思いますからね。そういうところ、蛯名さんが飛び抜けているかなって思います。僕の感じたことなので、その通りかは分からないですが、多分そういうところを意識されていているんじゃないかなと思いますね。

赤見 試行錯誤と言うか、いろいろ工夫されていますよね。哲三騎手は写真からそうやってひらめいたり、競艇からもヒントを得ているというお話を聞きます。

佐藤 そうですね。ボートレースからも、イメージしていますね。まぁ、イメージって言ったら誤解があるのかもしれないですけど、競馬に15年20年乗っていたら、馬乗りだけでひらめくことって、あまりないんですよね。だから、違う分野の考え方を取り入れる。ボートだったらエンジンとか機械的なことを、野球とか陸上だったら体の動かし方ですね。

馬は機械じゃないって言われそうですが、馬だって4本の脚と、心臓と頭と首を使った動力で動く。生き物として考えるとブレるところがありますが、そういう動きをするものだと信念を持ってやれば、前に進む力があるんじゃないかなと思います。例えば、プロ野球の赤星さん(元阪神タイガースの野手)の盗塁は、何であんなにうまいこと行くんだろうと考えて。それがエスポの走りにも入っていますしね。

赤見 盗塁から、馬の走りに?

佐藤 うん。馬が1歩目を出しやすいように、ゲートでも人と違う構え方をしているんです。エスポに乗っている時は特にですね。エスポってよく躓くんですけど、それも赤星スタイルがあるからで。腰から行くよりも先に、一生懸命腕を振らすというのがあるからなんです。それは、良いときは良いけど、調子を落としていたり集中していないと、滑ったりすることもあるんです。でも、そういうのは馬乗りだけじゃ思いつかないところですしね。

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▲赤見「エスポの走りは盗塁から?」佐藤「乗りだけじゃ思いつかないです」


赤見 本当に幅広いところから研究されていますね。

佐藤 野球選手でも陸上選手でも、2本の脚で立っていますけど、体についている4本の手脚を動かして走るわけで、通じるものもあると思います。そういうところからのイメージ作りは必要ですね。

競馬だけを見ていたら、自分が負けた時「あっちの方が強い馬に乗っているから」って逃げ道を作ってしまう。でも、そういうふうに自分が研究したり、他のところから取り入れたものって、自分と馬だけでいろいろな事が出来るじゃないですか。だから、調教に乗るのも好きですし、それで僕と馬との間合いを作っていけば、僕でないと動いてくれない馬が出来上がってくると思います。

赤見 哲三騎手とのコンビで名前が浮かぶ馬ってたくさんいます。

佐藤 稼げるジョッキーと稼げないジョッキーどっちを乗せますかとなったら、稼いでくれるジョッキーの方がいいと思います。僕は稼ぎたいので、頑張って勉強して、“一流のギャンブルレーサー”を目指したい。それで、馬と一緒に応援してもらって、一緒にGIを獲って、馬と一緒に喜べたら、僕なりの“一流のホースマン”になれるかなと思います。だから、競馬からだけじゃないのかな。教えてもらうより、時間がかかってでも自分で考えてやりたい。それは、僕が聞く耳をあまり持たないという、性格もあるかもしれないですけどね(笑)。(第4回につづく)

応援メッセージ募集

今回出演した佐藤哲三騎手への応援メッセージを募集します。いただいたメッセージは、佐藤哲三騎手ご本人へお届けします。皆さまからの温かいご声援をお待ちしています。

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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