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「空白期」とも「端境期」とも言われていたアメリカ競馬に復活の兆し

  • 2014年07月23日(水) 12時00分


スター性を帯びたアンタパブル、シェアドビリーフ、カリフォルニアクロームの出現

 振り返れば、ゼニヤッタが引退した頃からであろうか。

 後方一気という大向こうを唸らせるパフォーマンスでファンの心を鷲掴みにした彼女が、現役を退いたのが10年の秋で、これはどこの国でもいつの時代でも起こることだが、大スターが去った後の喪失感というか、俗に言えば祭りの後の寂寥感が競馬界全体を覆い、「空白期」とも「端境期」とも言われていたのが、ここ3年ほどのアメリカ競馬だった。

 だが、ここへ来てようやく、そのアメリカ競馬に復活の兆しが見えている。

 今年3歳世代にスター性を帯びた馬が複数出現し、見てみたいと思うレース、見てみたいと思わせる直接対決が、今年後半に持ち受けているのである。

 まずは、その序奏となるのが、今週日曜日にニュージャージー州モンマスパークで行われるG1ハスケル招待(d9F)だ。

 ここで、1番人気が予想されているのが、牝馬のアンタパブル(牝3、父タピット)である。G1セクレタリアトS(芝10F)を制した他、G1ケンタッキーダービー(d10F)でも3着となっているパディーオプラドの半妹であるアンタパブルは、ロン・ウィンチェル氏による自家生産馬だ。スティーヴ・アスムッセンの管理馬として昨年6月にデビューし、いきなり2連勝でG2ポカホンタスS(d8.5F)を制したものの、その後はG1BCジュヴェナイルフィリーズ(d8.5F)8着、G1ハリウッドスターレット(AW8.5F)3着と、それなりの力は発揮していたものの傑出した存在ではなかったのが、2歳時のアンタパブルだった。

 そんな彼女が、3歳を迎えて大変身。初戦のG3レイチェルアレグザンドラS(d8.5F)を9.1/2馬身差で圧勝すると、続くG2フェアグラウンズオークス(d8.5F)も7.3/4馬身差で快勝。オッズ2倍の1番人気に推されたG1ケンタッキーオークス(d9F)も4.1/2馬身差で制すると、東海岸に遠征した前走のG1マザーグースS(d8.5F)も9.1/4馬身差で圧勝と、牝馬同士ではまるで競馬にならない、桁違いのパフォーマンスを続けているのである。

 そんな最強の3歳牝馬が、初めて牡馬と対戦するのが、今週末のG1ハスケル招待なのだ。G1フロリダダービー(d9F)2着馬ワイルドキャットレッド(牡3、父ディーワイルドキャット)、G1プリークネスS(d9.5F)3着馬ソーシャルインクルーション(牡3、父パイオニアオヴザナイル)、G1ベルモントS(d12F)3着馬メダルカウント(牡3、父ダイナフォーマー)らを相手にどんな競馬を見せるか。ファンが期待しているのは、ここはアンタバブルが楽勝で通過し、最強クラスの3歳牡馬との対決に臨むというシナリオである。

 それでは、「最強クラスの3歳牡馬」は誰かと言えば、その称号に相応しい馬が現段階では2頭いる。

 1頭は、昨年のエクリプス賞全米2歳牡馬チャンピオンのシェアドビリーフ(セン3、父キャンディライド)である。

 マーティンとパムのウィゴット夫妻の生産馬であるシェアドビリーフは、生産者の所有馬として2歳10月19日にゴールデンゲートのメイドン(AW6F)でデビュー。このレースを7馬身差で圧勝して初戦勝ちを果した同馬を見染めたのが、南カリフォルニアに拠点を置く殿堂入り調教師のジェリー・ホレンドルファーだった。交渉の末、テレビやラジオでスポーツ番組のホストを務めるジム・ロームや、ホレンドルファー自身を含む6名のパートナーシップが、この段階で同馬を買収。ジェド・ジョセフソン厩舎からジェリー・ホレンドルファー厩舎に転厩して迎えたG3ハリウッドプレヴュー(AW7F)も7.3/4馬身差で連勝したシェアドビリーフの次走は、カリフォルニア地区の2歳牡馬チャンピオン決定戦的位置付けにあるG1キャッシュコールフュチュリティ(AW8.5F)で、同馬はここも5.3/4馬身差で快勝。鞍上がゴーサインを出した時の反応の良さと、そこから繰り出す「ナタの切れ味」はまさに一級品で、シェアドビリーフはケンタッキーダービーの最有力候補に躍り出ることになった。

 ところが、好事魔多し。年が明けると右前脚の蹄を傷め、3歳初戦が延び延びになるうちに、3冠は全て見送り春シーズンを全休することが陣営から発表された。

 そのシェアドビリーフが、ようやく出走態勢が整い戦線に戻ってきたのが5月末で、半年振りの出走となったゴールデンゲートの一般戦(AW6F)を白星で通過。復帰2戦目となったのが7月4日にロスアラミトスで行われたG2ロスアラミトスダービー(d9F=昨年までのG2スワップスS)で、初めてのダート、初めての9Fを難なく克服して4.1/4馬身差で快勝。デビューから無敗の5連勝を飾るとともに、完全復活をアピールしたのであった。

 こうなると、ファンが見たいのは、今年の春の3歳2冠馬カリフォルニアクローム(牡3、父ラッキープルピット)とシェアドビリーフとの対戦である。ともにカリフォルニアを拠点とする馬たちだけに、どこかで必ず顔を合わせる機会があるはずと、ファンはその瞬間を待ちわびている。

 6月7日のG1ベルモントS(d12F)で勝ち馬トナリスト(牡3、父タピット)に2馬身弱及ばぬ4着に破れて3冠を逸した後、放牧に出されていたカリフォルニアクロームは、7月17日にロスアラミトスのアート・シャーマン厩舎に帰厩。秋の大目標は言うまでもなく11月1日にサンタアニタで行われるG1BCクラシック(d10F)で、その前に、9月20日にロスアラミトスで行われるロスアラミトスマイル(d8F、開催日は変わる可能性あり)か、9月27日にサンタアニタで行われるG1オウサムアゲインS(d9F)のいずれかを使うプランが有力視されている。

 一方のシェアドビリーフの次走は、8月24日にデルマーで行われるG1パシフィッククラシック(AW10F)の予定で、プラン通りに運べばシェアドビリーフはここで初めて古馬と対戦することになる。

 シェアドビリーフも、秋の大目標はG1BCクラシックで、カリフォルニアクロームとの対戦は早ければ、G1オウサムアゲインSで実現する可能性がありそうだ。

 ファンとしてはそこに、最強の3歳牝馬アンタパブルが加わって欲しいところだが、中部地区を拠点とする同馬がこの段階で西海岸に向かうことは考えづらい。

 アンタパブル、シェアドビリーフ、カリフォルニアクロームが3頭とも顔を揃える可能性があるとすれば、アンタパブルが今週末のG1ハスケル招待を圧勝し、その後、09年のレイチェルアレグザンドラのようにサラトガのG1ウッドウォードSに向かってここで古馬の牡馬も撃破。最終決戦のブリーダーズCでは牝馬同士のG1ディスタフ(d9F)ではなくG1クラシックに向かう、というシナリオしか可能性はないかもしれない。

 あるいは、3頭が集まれば高額な賞金を出すというスポンサーが名乗りを挙げて、3頭のためのレースが用意されるか。

 いずれにしても、そんな空想を楽しめる水準まで、アメリカの競馬が盛り上がってきていることは、間違いなさそうである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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