スマートフォン版へ

直線1000mに対する高い適性/アイビスSD

  • 2014年08月04日(月) 18時00分


短距離の中でも特異な「直線1000m」

 今春、7歳になって初めて新潟の直線1000mの「韋駄天S」に出走し、昨年のアイビスSD2着のフォーエバーマークをほとんど馬なりのままあしらったセイコーライコウ(父クロフネ)が、今度は2回目の1000m。人気に応えて完勝してみせた。

 セイコーライコウの直線1000mに対する高い適性を思うほどに、直線1000mのオープンクラスのレースは「アイビスSD」のほかは限られる。そこで、よほど短距離が好きな調教師とオーナーの馬でなければ1000mの直線競馬に出走することはないが、実際にはこういうレースが合っている馬がいっぱい存在するにちがいないとも感じた。実際、セイコーライコウの芝1200mの最高時計は中山の1分07秒6(2着)にすぎない。

 もっとも、直線1000mはかなり特殊であり、短距離のスペシャリストが出走する距離の中でさえ特異である。距離に対する考え方は、各人各様それこそさまざまであり、客観的にみて明らかなスプリンタータイプだろうと思えても、どのオーナーも、調教師も、出だしの新馬戦から「芝1000mか、それともダート1000mにしようか」とはめったにならない。思うに、最初から「この馬、1000mにしよう」では、夢も希望もなくなるように感じられるからだろう。ある程度キャリアを重ねてから、1000mの方がもっといいかもしれない。新潟の直線1000mなら新しい一面が出るかもしれない。そうなっていくことが多いのである。

 記録された54秒3のレース全体のバランスは「21秒7-(10秒5)-22秒1」(レース上がり32秒6)。

 昨年から芝コース硬化防止策をほどこされているため、レコード「53秒7」と0秒6差の54秒3は決して遅くない。現在考えられる標準の勝ちタイムか。

 春の韋駄天Sを、自身「22秒6-後半32秒7」=55秒3のバランスで、ほとんど馬なりのまま楽勝したセイコーライコウは、今回は「22秒4-後半31秒9」=54秒3だった。

 最初の400mは、平凡なタイムだった韋駄天Sとほとんど同じ。したがって、かなり置かれる印象になったが、再三アイビスSDに出走すると同時に、新潟の直線1000mの経験豊富な柴田善臣騎手は全然あわてることなく、少し気合を入れる程度の追走で自身満々。開幕週とあって、とくにスタンド側に寄って行くこともなく、スパートしたのは最後の200mだった。

 レースの後半は「-10秒5-10秒5-11秒6」。あくまで推定だが、セイコーライコウ(柴田善)自身は、後半3ハロンを連続して「10秒台」のラップで乗り切っての31秒9。

 直線1000mで、これと同じような上がり31秒台は珍しい記録ではなく、03年のイルバチオは31秒6で後半3ハロンをまとめた記録がある。また、アイビスSD特有の快速記録で、苦しくなる前の途中ラップなら、02年のカルストンライトオは中間3ハロンを「09秒8-10秒2-09秒6」=29秒6という驚異の「3ハロン日本記録」を残しているが、みんな苦しくなる後半になっての3ハロン連続10秒台はかなり珍しい記録である。

 近年、ただ飛ばすだけでは苦しく、微妙な緩急のペース変化の重要性がささやかれるにつれ、前半から飛ばす馬は少なくなった。とくに今年は、前半はなだめて進むこと必至の馬が人気の中心だから、逆に、10年の勝ち馬ケイティラブ(父スキャン)タイプの行く一手型も好勝負と思えた。

 ケイティラブの、最後までしのぎ切った内容は、「11秒6-09秒9-10秒3-10秒1-12秒0」=53秒9だった。

 今年、出ムチを入れて飛ばしたアンバルブライベン(父ルールオブロー)は、「11秒6-10秒1-10秒5-10秒5-11秒9」=54秒6である。

 大バテする距離ではないから、勝ったセイコーライコウと0秒3差だったが、硬化防止の馬場差を考慮しても、ケイティラブより全体のスピード能力が下だった。また、最大の勝負どころとされる「600-800m」の地点で、2段加速する能力がなかったので完敗である。

 2着に押し上げた3歳フクノドリーム(父ヨハネスブルグ)は、ここまでは自分でハナを切って自分のペースでレースができないともろい馬だったが、今回の54秒4の2着の中身は、「22秒0-(10秒5)-21秒9」。この形は、勝ったセイコーライコウの「22秒4-(10秒5)-21秒4」=54秒3をバランス面ではしのぐところもあり、今回は51キロの利があったとはいえ、初の直線1000mとすれば上々。ただ快速が持ち味というだけでなく、もう少し全体にパワーアップするなら、サマーダッシュの勝ち馬にもなれる資質を示す内容だった。

 人気の1頭フォーエバーマークは、

昨年が「22秒3-32秒0」=54秒3
今年が「22秒0-32秒6」=54秒6

 少々きついペース追走になったのは確かだが、これに韋駄天S「22秒2-33秒3」=55秒5の内容を重ね合わせると、やっぱりレース内容のバランスが悪くなっている。ちょっと前半にきびしい部分があっただけで、後半に大きく落ち込む6歳の今年は、明らかに不振である。

 対して、5歳アースソニック(父クロフネ)は、「22秒3-32秒1」=54秒4。こちらは芝状態の差を考慮するまでもなく、「22秒5-33秒0」=55秒5の中身でフォーエバーマークと同タイムだった韋駄天Sより、中身のバランスまで良くなっている。2回目の1000m挑戦で明らかに内容良化だから、このあとが楽しみになった。最近はスランプ状態だったが、他場の1200mでの再上昇が望める。

 昨年の覇者パドトロワは、残念ながら今年は元気がなかったから仕方がない。バーバラ(父ディープインパクト)は、結果論だが、初の1000mとあって行きすぎてしまった。ディープインパクト産駒はかなりスピード色が濃くても、スプリント戦は合わないのは確かである。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング