デビュー戦とまったく違うペースで勝ったことが素晴らしい
新潟2歳Sは2002年に現在の外回り1600mになって以降、キャリアの浅い馬の2歳戦であり、また、最後の直線が約660mもある独特のマイル戦とあって、前半はスローでゆっくり流れることが多い。前傾のハイペースになることはない。
そんなペースもあって、ここまで1分33秒台で乗り切ったのは、高速新装馬場の2002年のワナ、ヨシサイバーダイン。2011年のモンストール、ジャスタウェイ。そして、2012年のザラストロ、ノウレッジ、サウンドリアーナの7頭にとどまっていた。
今年は、ハープスター、イスラボニータ、ジャスタウェイ…などのその後の大活躍によって、急速にレースの評価が高くなっていた。とくに、陣営が将来性をみきわめ、距離適性を探るには格好のマイル戦であることがはっきりしてきたから、集まったメンバーの全体レベルは高かったろう。実際、ザラストロが一気に差し切った2012年の1分33秒5(レースの前後半バランスは46秒9-46秒6)を更新するコースレコードが記録された。
カシノハリウッドの先導したレース全体の流れは、「47秒1-46秒3」=1分33秒4。前半1000m通過は59秒1の平均に近いバランス。レース上がりは「34秒3」。4着
コメートまでが1分33秒台で乗り切ってみせた。
2歳のこの時期に1600mを1分33秒台で激走すると、ここまで1分33秒台を記録した好走馬は、2011年のジャスタウェイ以外、そのあと必ずしも期待通りではなかった。だから、「早い時期にマイル戦激走のもたらす功罪」がささやかれることも珍しくないが、今年の上位組はレースの評価が上がって、レベルの高い素質馬がそろったから、そう無理の生じない「平均ペース(1000m通過は59秒1)」の流れから、最後に猛然とスパートして1分33秒台前半の好記録が生まれたと考えたい。異常に上がりが速くなる不自然なレースでもなかった。
勝った
ミュゼスルタン(父キングカメハメハ)は、社台グループが誇る名牝系ハ二ードリーマーの一族。フレンチデピュティの牝馬にキングカメハメハの配合は、キラウエアが活躍している程度だが、祖母がサンデーサイレンス産駒なので、キングカメハメハ産駒の典型的な成功パターンに近いともいえる。まだぽっちゃり映るくらいだが、動きは非常に柔らかい。
新馬の新潟1600mは、自身「63秒8-33秒2」=1分37秒0。
今回は、「60秒0-33秒4」=1分33秒4。
超スローのマイル戦から、自身の1000m通過が3秒8もペースアップした今回も、やっぱり上がり33秒台前半で上がってきたところが素晴らしい。あの柔らかいフットワークなら、快時計で走破の負担は少ないだろう。1600-2000m級がベストか。
上がり33秒0で猛然と追い詰めた、注目の
アヴニールマルシェ(父ディープインパクト)の爆発力は驚嘆に値する。新馬戦は上がり33秒9で競り勝ったといっても、鋭いというよりディープブリランテのような印象だったが、2ヵ月後の今回は体つきからしてシャープになっていた。
東京の新馬1800mは1分52秒7。レースの前半1000m通過は65秒3の超スローであり、1600m通過は1分41秒4だった。アヴニールマルシェは中位追走。今回は、置かれたとはいえ自身は前半1000mを新馬戦より推定6秒は速い60秒4で追走し、勢いのついた平坦の直線とはいえ「33秒0」で突っ込んできたことになる。
マイルに換算推定すると、前半1000mを6秒も速く通過し、かつ、上がりタイムも約1秒短縮しての「1分33秒4」である。1800mの新馬(未勝利)と、新潟2歳Sは流れがまるで異なる。だから、過去、1800mを勝って新潟2歳Sを連対した馬はいなかったはずだが、アヴニールマルシェは初戦の1800mとまったく異なるマイルを、いとも簡単に(多少は追走に苦しんだが)克服してみせたのである。はまるとすごいダンシングブレーヴの影響はある。祖母キョウエイマーチの迫力のパワーもある。でも、7代母はクインナルビー(父クモハタ)。オグリキャップの5代母でもある。伝説はよみがえるかもしれない。タフで丈夫な一族のことだから、いきなり1600mで激走の反動などないことを祈りたい。
1-2着馬があまりに光りすぎたから、接戦の3着
ニシノラッシュ(父サクラバクシンオー)以下はちょっとかすんでしまったが、好位のインから下げ巧みに立ち回り、自身「59秒7-33秒9」=1分33秒6のニシノラッシュは、時計の中身が示すように例年なら勝ち馬であっても不思議ない好内容である。フットワークものびのびして大きい。スピード馬として成長してくれることだろう。
見せ場十分の4着だったコメート(父ブラックタイド)は、福島の2歳戦ではめったにない1800mを1分49秒2で快勝の能力を示した。新潟1600m向きの最後の決定力はなかったかもしれないが、これなら、これからの1800-2000mの路線に乗れる。
一転、好スタートから先行策にでた
ワキノヒビキ(父オンファイア)は、道中はうまく流れに乗れたが、直線に向くと前回以上に内にもたれて(ささって)しまった。ごついくらいのたくましい体に成長しつつあるから、右回りで見直したい。
人気の
ナヴィオン(父ハーツクライ)は、すっきりみせる好馬体。ちょっと行き脚がつかずに後方からの追走になり、上がり33秒4(ミュゼスルタンと並ぶ2位)で差を詰めながら6着にとどまったが、父のハーツクライもポンポンと連勝して路線に乗った馬ではなく、またワンアンドオンリーとて連勝はなく2歳時は6戦2勝だった。徐々に力をつけていくはずである。というより、まだみんな2-3戦目の2歳Sで、そんなにみんなが力を出し切ることはありえない。
好素質馬がそろったから、レースの中身もいつもの年以上に厳しかった一面もあり、急な乗り代わりだった
ブリクスト、どうやら1600m向きではなかった好馬体の
ギンパリなど、新潟の1600mのマイルに挑戦したことにより、方向が見えた馬がいっぱいいそうである。