諦めず、努力を続ける意味
この中のひとつでもと、いつも願っている。温かい性格なのに厳しさを忘れない、威厳があるのに他人を圧迫しない、謙虚なのに窮屈さを感じないの3つである。円満な人柄とは、こういうことなのだろう。順風満帆なときはそれぞれのバランスはとれていたが、少しでも不都合が迫ってくると、そうではなくなってしまう。顔つきが暗くなり、心がねじけ、やたら他人のせいにする、少しでもそんな兆候が出たら気をつけねばならない。
かの孔子は、早くに父に先立たれ、母の手で厳しい生活の中育てられたと言われている。
しかし、不遇をバネに学問をおさめ、志を立てた。弟子たちは、円満な人柄であったと言い、論語では、力量の範囲で最善を尽くせと書かれてある。「下学(かがく)して上達す」がそのこころで、日常の出来事ひとつひとつから学びとり、そこからその上をめざすということなのだ。恵まれていなくとも投げ出さず、常に勉強して一歩一歩前進して、人生を切り開いていく。そうすれば、人柄も円満になっていくだろう。
早い時期に将来を嘱望される2歳Sの勝者たち。出世レースと言われる新潟2歳Sを勝ったミュゼスルタン、敗れたとはいえ僅差だったアヴニールマルシェ、この2頭の将来は約束されたが、どう選択し決断を下すか、そこに注目したい。そして、「下学して上達す」の若馬たちの存在が、来春のクラシック戦線を盛り上げてくれるのだ。これがなくては競馬の奥を知ることは出来ない。また、それがあるから心引かれるのではないか。
堂々と王道を闊歩する姿に気持が高ぶるのもいいが、不遇をバネにのし上がっていく姿にも胸打たれる。かつて不治の病とされる屈腱炎を3度も克服し、7歳にして七夕賞、新潟記念、そして秋の天皇賞にも輝いたオフサイドトラップを思い出す。療養と復帰を繰り返すうちにその存在は薄れていったが、古馬の頂点に立って初めて知った人達にも、諦めず努力を続ける意味を印象づけてくれた馬だった。