突然ですが、シゲルスダチが関東・伊藤正徳厩舎に転厩することになりました。馬の転厩はよくあることですが、まさかスダチが…。と驚きは隠せませんでした。
でも、これは決定ですから。受け止めるしかありませんね。美浦への転厩となると、関西を拠点とするわたしとは縁遠い馬になってしまうので寂しいですが…仕方ない。
スダチの美浦転厩の知らせを受け、10日の午後に厩舎に会いにいってきました。小倉が2走続きましたから輸送疲れもあったようで「最近はよく寝ている」(塩満助手)というスダチくん。でも、覇気が戻ってきているかんじがするし、何より食欲がある。やっぱりヤンチャで元気が一番です!
出発前日のスダチ
出発当日のスダチ
スダチ自身は明日、自分がここから旅立つとは知る由もありません。いつもどおり、硬いものにしゃぶりついてみたり、カイバ桶から顔を上げてキョトンとしてみたり。こんな、特に変わりない日常がもうやってこないんだなぁ、と思うとグッとこみ上げるものがありました。
やんちゃで困らせることもたくさんあったスダチですが、西園厩舎ではひじょうに愛されていましたから。関東に行っても可愛がられるといいですね。
無口をかんで遊んで塩満助手を困らせているスダチ
スダチを運ぶ馬運車は11日の午前3時半すぎに到着しました。「他の馬たちが馬場に出る前の運動をはじめる前の時間帯に」(塩満助手)ということで、この時間が決まったそうです。まもなく出発を迎えるあわただしい時間に当のスダチは遊びたいらしく、装着のために口元に近づいた無口をかんで遊びはじめました。困る塩満助手を尻目に、最後まで無邪気きわまりないスダチくんなのでありました(苦笑)。
馬運車に乗るスダチ
荷物はファンの方から送られたお守りと健康手帳。この健康手帳とは、競走馬全馬が持っている身分証のようなもので、移動やワクチン接種などの履歴が記載されています。たった2つの引越し荷物と「移動の途中でお腹がすくだろうから」と塩満助手がつくったカイバをお弁当に午前3時45分、スダチは馬運車に乗り込みました。キョトンと相変わらず、飄々としたまま。そして、その姿はあっという間に見えなくなりました。
健康手帳など、スダチの荷物
スダチと過ごした3年ちょっとの日々、本当にあっという間で楽しい時間でした。NHKマイルでの落馬後、馬場をスライディングするかのようにすべりながらもほぼ無傷だったのは有名ですが、トレセンでもかなりヤンチャで後ろ向きに転んだり、放馬したあとチップを捨てるボックスに自ら体当たりしたり、と普通の馬なら大怪我につながってもおかしくないようなシーンもありました。でも、スダチは毎回ほぼ無傷。体が柔らかいからか、うまく受身をとるんです。ただし、怪我をまったくしないのは、それ以外に“何かを持っている馬”なんだろうな、とも思っていました。今でも、そう信じています。
ツノが年を重ねるにつれ目立つようになり、少しづつ大人の顔になった。でも、それでも最後までヤンチャで可愛い、でも憎めないヤツでした。入厩当時「ずいぶん小さいけど、女の子かな? 可愛い芦毛を女性厩務員の鈴木さんがひいているなぁ」とシャッターを切ったことは昨日のことのように覚えています。あれからあっという間の3年数ヶ月。別れがこんなに突然くるなんて、まったく考えていなかった。でも、これが現実です。
というわけで、このコラムでのシゲルスダチのおっかけ日記はこれで終わりです。3年ものあいだ、可愛い顔をたくさん見せてくれたシゲルスダチには感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとう、スダチ。またいつか、どこかで会えるといいね。
ありがとう、スダチ