◆奇跡的ともいえる記録 9月17日、門別で行われた重賞・ステイヤーズCをクラグオーが制した。2歳時に川崎に遠征した鎌倉記念で2着、昨年3歳時には北海道3歳三冠目の王冠賞でも2着があったが、これが重賞初制覇となった。
今シーズンは、冬季に移籍していた南関東から7月に北海道に戻ってここまでA1以下の特別で3戦。いずれも2着で、ホッカイドウ競馬では古馬重賞初挑戦にもかかわらず、3番人気の支持を受けたのは、おそらく2600mという距離への期待もあったのだろう。
今回の勝利は、単にクラグオーが重賞を初めて制したということにとどまらない。倉見牧場生産馬の一族による、貴重な重賞タイトルだ。しかし“一族”といっても、それはきわめて細い糸でつながれたもの。それゆえに奇跡的ともいえる記録でもある。
父クラキングオーは、2000年に王冠賞、北海優駿と北海道の二冠を制し、ステイヤーズC連覇(2001、02年)、道営記念(2002年)と重賞5勝を挙げたが、その後レース中の事故で引退。実はこのとき、レース直後には予後不良の宣告を受けていた。しかしオーナーブリーダーである倉見利弘さんの判断で、脚元を固定して静養し、種牡馬にまでなった。そのあたりの経緯については、競走馬ふるさと案内所のコラム『クラキングオーを訪ねて〜倉見牧場』(
http://uma-furusato.com/column/detail/_id_53386)に詳しいので、ぜひ一読いただきたい。
しかしその後、クラキングオーは2010年10月、心不全のためにこの世を去っている。残した産駒は、2007、09、10年に1頭ずつ生まれた、わずか3頭。2010年にも1頭に種付けはしているが、産駒はとれなかったようだ。その最後の産駒となったのがクラグオーだ。
前述『クラキングオーを訪ねて〜倉見牧場』は、初年度産駒のクラキンコがデビューして2勝を挙げた2歳時の取材だったようで、当時倉見さんは、「来年は北海優駿に出たいですね」と語っている。ちなみにクラキンコは、父のクラキングオーだけでなく、母のクラシャトルも1994年に北海優駿を制しているという血統。そのクラキンコは、「北海優駿に出たいですね」というのみならず、父母仔による北海優駿制覇という快挙を果たしたばかりか、ホッカイドウ競馬史上4頭目、牝馬では史上初の三冠馬になるという、まさに奇跡ともいえる活躍を見せ、4歳以降も重賞4勝を挙げて引退した。
2頭目の産駒、クラオージクン(牡、母クラダッチューノ)は下級条件で4勝を挙げたのみだが、クラキンコの全弟クラグオーは、クラキンコが勝つことができなかったステイヤーズCを勝ったことで、同レース父仔制覇となり、父のクラキングオーにはまたひとつ、奇跡ともいえる勲章となった。
たしかに日本の北海道というローカルな地域でのできごとではあるが、層の厚い2歳戦線には社台グループの生産・育成馬も参戦し、JRA認定競走ひとつを勝つのも容易なことではない。そうした世界にも通じるレベルの高い競馬の中での、超マイナー血統での活躍だ。
『クラキングオーを訪ねて〜倉見牧場』では後半に、「今年は2頭に種付けを行い、1頭が受胎、その相手はクラシャトルだ。このまま無事にいけば来春にはクラキンコの全弟か全妹が誕生する事になる。」という記述がある。その全弟が、まさにクラグオーだ。
この時点では、クラキンコの奇跡的な大活躍も、クラグオーの重賞制覇も、想像などできるものではなかっただろう。
おめでとうございます、倉見さん。