▲ダービー馬ワンアンドオンリー、二冠への勝算を橋口師が語る
ダービー馬ワンアンドオンリーが、三冠レースの最後を飾る菊花賞に出走する。ダービーで叩き合いを演じたイスラボニータは天皇賞に進むため、圧倒的な1番人気になることは必至だ。前哨戦の神戸新聞杯はアタマ差での勝利。念願のダービートレーナーとなった、橋口弘次郎調教師の胸の内は――。(取材・文:赤見千尋)
“ダービー”は思っていたより何十倍も大きい
橋口弘次郎調教師といえば、ダービートレーナーになることへ強い想いを持っている人物である。毎年のようにダービーに出走馬を送り込み、毎年のようにその夢に破れて来た。ダービートレーナーになるという夢は、もう橋口調教師一人のものではなくなっているほど、関係者やファンの間に浸透していた。だからこそ、今年のダービーは大きなドラマを生んだのだ。
「勝った時は泣きそうになりましたけど、グッとこらえました。念願のダービー勝利で、やっと獲れたというか、周りの人たちが毎年声を掛けてくれてましたから、その人たちの期待に応えられたという思いもありましたし、親の顔も浮かんだし、友達の顔も浮かびましたね。あの日は晴れた天気だったから、『天国から良く見えたやろ』って言われたりして。今想い出しても泣きそうになりますね」
ダービーのことを振り返ると、長年の想いと共に、応援してくれたたくさんの人たちの顔が浮かんでくるという。念願のダービートレーナーになって約4か月が経った今でも、その1勝は大きな余韻となって響いていた。
「思っていたより何十倍も大きいです。何倍じゃない、何十倍ですよ。ダービートレーナーになったことを実感したのは、翌日の新幹線ですね。スポーツ新聞を全紙買って読みながら、『俺は勝ったんやな』って呟きました。その後も余韻はずっとありました。だって最近まで、久しぶりに会った人が『ダービーよかったな』って握手してくれるんです。盛岡のマーキュリーカップで勝った時も、表彰式に行ったら『ダービーおめでとう』の声の方が多かったですから(笑)。そんなレースは他にないでしょう」
▲「思っていたより何十倍も大きい」というダービーの表彰式
橋口調教師は、これまでにダンスインザダーク、ハーツクライ、リーチザクラウン、ローズキングダムと4度2着になっている。もうすぐ届きそうでいて、なかなか届かなかった称号。実際にダービートレーナーになるまで、遠い道のりだった。
「実際入れ込んだのは、今回を別にしたらダンスインザダークだけですよ。リーチザクラウンは、あの土砂降りの雨でね、すごいレースでした。儲けもんといえるんじゃないでしょうか。ハーツクライは、あの頃はまだひ弱だったから、2着に来て嬉しかったです。でもダンスは、負けることを考えていませんでした。もう勝負付けも済んでいると思ってましたし。
だから直線抜け出して来た時に、これからどれくらい引き離すかなと思っていたら、何かがシュッシュシュッシュ近づいて来て。まさかフサイチコンコルドとは思わなかったです。