ジョッキーベイビーズ出場選手や関係者との記念撮影
将来の競馬界を担う少年少女たちの夢と憧れの舞台、ジョッキーベイビーズ
いささか時間が経ってしまったが、去る10月12日(日)に東京競馬場にて開催された第6回ジョッキーベイビーズについて書く。
全国の乗馬に勤しむ少年少女の憧れの舞台が、この東京競馬場芝400mで争われるジョッキーベイビーズだ。6回目を迎えた今年は大きな変更点がいくつもあり、1.開催日が11月初旬のアルゼンチン共和国杯の日から1か月近く早まり、毎日王冠の日に移行したこと、2.同じく、発走時刻も昼休みから最終12レース終了後に移されたこと、が最も大きく変わった点である。
他にも、スタートに関して、大きな改善がなされた。従来、大型ビジョンや実況を通じて、カウントダウン方式により3、2、1、0で一斉に発馬していたが、タイミングを揃えることを優先するため、しばしば人馬がまっすぐ前を向いていなくとも、係員が手綱を離さざるを得ず、過去5回はどうかすると不揃いな、あまり良好なスタートとは言えないものであった。それを受け、今年は現場で全馬が前を向いて揃ったのを見計らって発馬する方式に改められた。ポニーとはいえ、テンションの上がった状態になれば抑え切れるものではなく、カウントダウンに合わせてタイミング良く前を向けることが難しかった過去の反省から、現場優先の、旗による発馬に改められたのである。
この改善により、結果的には今年のレースはひじょうにスムーズに進行し、落馬もなく全馬が無事にゴールインできた。思えば、昨年は、5回目にして初めての落馬が2頭も発生してしまい、打撲や骨折といったダメージを受ける選手が出て、一部にはジョッキーベイビーズ開催そのものを見直してはどうか、との意見もあったと伝えられる。したがって、昨年の痛い教訓から、今年は何が何でも「全馬、無事にゴールする」ことが最優先課題となった。
今年の各地の代表は次の通り。
北海道浦河地区(宮内勇樹君、小6)
北海道札幌地区(鎌田彩緒さん、中1)
東北地区(佐藤優帆さん、中1)
関東地区(佐藤翔馬君、小4)
長野地区(小林勝太君、小6)
東海地区(伴 凌次君、小5)
関西地区(角田大和君、中1)
九州地区(吉永彩乃さん、中1)
代表枠に関しても、過去5年の推移を見ているとかなり変わってきており、今年はリニューアル記念として札幌枠が新たに設定されたことから、関東枠が1つ減らされた。全体で8人というのはずっと同じだが、内訳については、恐らく今後もその都度見直されることになりそうだ。
上記8人のうち、佐藤翔馬君と、小林勝太君、伴凌次君は2度目の出場、吉永彩乃さんはこれで3度目の出場となる。また、関西代表の角田大和君は父が調教師の角田晃一さんである。8人中4人が過去に出場歴のあり、そのせいか、今年は練習時からいつになくリラックスしたムードが漂っていた。過去5回で、地域を超えた人馬の交流が盛んになってきたのもジョッキーベイビーズ効果のひとつで、佐藤翔馬君や小林勝太君、伴凌次君などは、各地で行なわれている草競馬の常連としていつも顔を合わせているという。吉永彩乃さんも、今年、金沢に遠征し、これらのメンバーと戦った経験を持つ。回を重ねてきて、横の連帯感のようなものが確実にでき上がってきている印象だ。
前日の練習風景
選手や保護者は、前日午後2時に東京競馬場の事務所に集合した。従来は競馬場内にある乗馬センター集合であったが、工事中のため、厩舎と管理棟が使用できず(角場場のみ使用可)、やむなく事務所の大会議室が急きょジョッキーベイビーズ関係者のために充当されることになった。
厩舎と管理棟が使用できないため、騎乗するポニーたちも、サラブレッドたちが待機する厩舎地区にて馬装され、JRA職員の手によって乗馬センター角馬場に連れて来られる。例年ならば、馬装や手入れなどを選手たちが手伝う場面がひとつの見どころでもあるが、今年はそれが実現しなかった。
騎乗馬が二度にわたる厳正な抽選によって選ばれるのは例年通りで、以下の通りに決まった。
宮内勇樹君…ゴッド せん3歳
鎌田彩緒さん…ホワイトソックス せん5歳
佐藤優帆さん…栗姫 牝6歳
佐藤翔馬君…チェリー 牝8歳
小林勝太君…サクラダンディー せん14歳
伴 凌次君…エンベツクィーン 牝7歳
角田大和君…ハショウボーイ せん4歳
吉永彩乃さん…オオタニハヤテ せん7歳
身ぶり手ぶりの熱血指導をしていた北村宏司騎手
前日の練習開始は午後4時近くになってからであった。角馬場で部班運動を繰り返し、午後4時40分くらいになってから本馬場に移動した。リハーサルを兼ねて、今年はスタート位置にて発馬方法を確認し合うことに重点が置かれた。プロの騎手の間でもジョッキーベイビーズは関心が高いそうで、北村宏司騎手や丸山元気騎手などが登場し、熱心にアドバイスする姿が見られた。中でも北村騎手はあたりが薄暗くなりかけているにもかかわらず、身ぶり手ぶりの熱血指導で、驚かされた。
当日は9時半集合。さっそく午前中に軽く30分間の練習を行ない、午後は2時半に再び集合。そこでJRAアドバイザー岡部幸雄さんよりそれぞれゼッケンが授与された。いよいよ今度は本番となる。
ゼッケン授与後、岡部幸雄さんと記念撮影
最終12レース(ダート)の出走馬たちが駆け抜けるのを横目で見ながら、出場選手たちは乗馬センター角馬場で控える。ジョッキーベイビーズの出走予定は4時45分である。
最終レースの優勝馬がウイナーズサークルで口取りの撮影を終え、地下馬道に引き上げたのを見計らうようにして、場内にジョッキーベイビーズの開催が告げられた。ビジョンに出場選手たちが次々に紹介される。サザエさんを先頭に8騎が入場してくる。200m地点まできて、Uターンしスタート位置まで戻る。
サザエさんを先頭に入場する出場選手
場内にGIファンファーレが鳴り響く。毎日王冠からかなり多くの観客がスタンドに残っており、手拍子まで起こった。スターターは例年、前年の優勝者が務めることになっており、今年は、齊藤新君であった。スターター台に上り旗を二度振る。ビジョンに8騎が映し出される。今年はほぼ揃ったきれいなスタートが切られた。
レースは内側を進んだ宮内君、鎌田さんが一歩リードし、外の吉永さんも遅れずに追う。やがて中ほどから伴君が抜け出し、それをマークするように角田君が必死に追いかける。残りわずかのところで吉永さんがやや下がり、伴君を首差交わして角田君が1着でゴールした。吉永さんは1馬身差の3着、それから3馬身2分の1差の4着に佐藤優帆さん、首差の5着に佐藤翔馬君という順で決まった。今年は今までのジョッキーベイビーズの中で最もレースの形になっていた。大きく斜行する馬もなく、また際どい勝負が演じられ、白熱した良いレースであった。
直線での攻防(左から吉永さん、角田君、佐藤優さん、伴君)
角田大和君は、「とても馬が元気良く走ってくれました。少し負けたかなと思ったけど優勝と聞いて嬉しかったです。将来は騎手になりたいと思います」と表彰式のインタビューで答えていた。
ゴール直前に伴君(右)を差し切った角田君(左)
惜しくも首差の2着に敗れたものの、2着を確保した伴凌次君は「思い切り馬を追えたので満足です」と語り、晴れ晴れとした表情であった。思えば昨年の伴君は、地元テレビ局から密着取材を受けながら、本番では見せ場を作れず7着に敗退したのだったが、今年の成績は優勝こそ逃したものの十分に満足できるものであったようだ。伴君には敢闘賞が贈られた。なお優勝者の角田君には、蛯名正義騎手が、また敢闘賞の伴君には岡部幸雄さんがプレゼンターを務められた。
また、表彰式にはアルゼンチン大使館からラウル・デジャン特命全権大使ご夫妻もかけつけ、角田大和君に優勝記念品のポンチョを贈る一幕もあった。大使ご夫妻はこのジョッキーベイビーズがとてもお好きなようで、実は去る9月23日に東京・馬事公苑にて開催された関東予選にもお越しになり(ただし夫人のみ)、この時にも表彰式のプレゼンターを務めておられたほどだ。
表彰式にかけつけたラウル・デジャン特命全権大使ご夫妻
レース後、8人は検量室奥の普段関係者しか入室できない小部屋に案内され、そこで岡部幸雄さんからパトロールフィルムを見ながらの解説を受けた。昼休みに実施していた昨年までとはスケジュールがかなり変わってしまったものの、幸いにも天候に恵まれ、今年はアクシデントもなく無事に終了することができたのは何よりであった。
将来の競馬界を担う少年少女たちの夢と憧れの舞台として、ジョッキーベイビーズが末永く続いて行くことを強く願っている。