今野厩舎はこの2頭の娘で大ブレークする/吉田竜作マル秘週報
◆公開ドラフトで「今野厩舎はブレークしますよ」と言い切ったことだけは今でもハッキリ覚えている
ニッチなジャンルのPOG記事を担当していることもあって、毎年某出版社主催の「公開ドラフト」に呼ばれている。そこで取材の成果やら自分の意見などを2歳馬たちを指名しながら話していくのだが、今年の締め(10頭持ちの10位)に指名したのがティアラトウショウ(牝=父アドマイヤムーン、母タバサトウショウ・今野)だったか。記憶があやふやなところもあるが、この時に「今野厩舎はブレークしますよ」と言い切ったことだけは今でもハッキリ覚えている。
今野厩舎推しの最大の理由は普段、取材で接している中で、元鶴留厩舎(スイープトウショウ、タヤスツヨシ、チョウカイキャロルなど多くの活躍馬を送り出した名門厩舎)のベテランと若いスタッフが、うまくかみ合っているように見えるのだ。今野調教師のひょうひょうとした雰囲気が、どこか松田博調教師にダブる…というのは我ながら強引過ぎる? ただ「普通のことをしているだけですよ」と繰り返す今野調教師の弁は、松田博調教師の「当たり前のことをやるだけ」という口癖に近いものを感じる。
記者は、この世界で20年近くお世話になっている。「扱うのは同じサラブレッドだし、他(の厩舎)と比べて、そんなにやり方が違うことはない」(今野調教師)ことは理解しているつもりだ。それでも結果に違いが出るのが面白いところ。
今野調教師は厩舎を開業してから“普通のこと”を繰り返してきた。もうすぐ3年がたつ。
「今年は馬房数が増えたことに伴って預託頭数の上限も上がった。そこで馬を集められればいいのでしょうが、なかなかそこは、うまくいかなかった。苦戦するのも覚悟していたとはいえ、今年の前半は頭数が揃わなくて苦しかったですよ」と当時の苦境を振り返ってくれたが、普段の取材ではそんなそぶりはうかがえなかった。苦境の中にも「今年の2歳世代は粒揃い」という大きな希望が支えになっていたのだろうか。ブレることなく、やれることをやって“その時”を待っていたのだ。
今夏、2歳新馬戦がスタートすると一気に反撃に転じた。オメガタックスマン(牡)が厩舎の2歳世代で初の勝ち名乗りを上げると、タガノヴェルリー(牝)、マサハヤドリーム(牡)がこれに続いた。極め付きがロカ(父ハービンジャー、母ランズエッジ)とエイシンカラット(父Tale of Ekati、母Ellie's Moment)という2頭の大物牝馬の出現だ。
ロカは初陣となった2日の京都芝外1800メートルで3馬身差圧勝。上がり33秒2は4回京都開催の新馬戦では最速のタイムだった。「いやあ〜切れましたねえ。超大物じゃないですか」と指揮官もその切れ味を絶賛する。
対してエイシンカラットは8日の京都芝内1400メートルで7馬身差の逃走Vを決めた。走破タイム1分20秒9は近5年の新馬戦では、昨年のモーリスに次ぐ2番目に速いタイム。まさに「スピードの絶対値が違った」(今野師)。余裕のあるレース運びだったことを思えば、まだまだ時計を短縮する余地さえあるだろう。
今後はエイシンカラットを牝馬限定500万下の白菊賞(30日=京都芝内1600メートル)、ロカをGI阪神JF(12月14日=阪神芝外1600メートル)へと送り込む予定だ。松田博調教師や角居調教師、かつての名伯楽・伊藤雄元調教師なども牝馬の活躍で厩舎の土台を築き、その後の繁栄につなげた。この2頭の牝馬が今野調教師にとっての“基礎”となるのか。今後の活躍に注目してほしい。