2月4日「川崎記念」。地元エスプリシーズが、ひとこと衝撃的な強さで勝った。大方の予想通りカネツフルーヴが徹底先行。同馬はその離れた3番手でスムーズに折り合い、直線GOサインとともに弾けるような伸びをみせた。フルーヴを捕えたのはそれこそあっという間で、しかも追いすがる王者・スターキングマンを、逆に4馬身引き離している。正直驚いたというのが実感だろうか。個人的には予想も馬券もラッキーだったが、それより何より、“競走馬の旬”、その不思議さ、切実さを、改めて痛感した。
川崎記念(サラ4歳以上 定量 統一G1 2100m重)
◎(1)エスプリシーズ (56・森下) 2分12秒8
○(2)スターキングマン (56・武豊) 4
△(3)リージェントブラフ (56・吉田豊) 1/2
△(4)カネツフルーヴ (56・松永幹) 5
▲(5)コアレスハンター (56・内田博) 4
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△ディーエスサンダー (56・勝浦) 競走中止
単560円 馬複540円 馬単1540円
3連複1250円 3連単6180円
レース直後、まず思ったのは「スターキングマンの仕掛け遅れ」だった。向正面まで中団よりやや後ろ、末脚を過信しすぎたようにみえた。が、掲示板に2分12秒8、レコードの文字が赤々と灯り、VTRをふり返ってみるとまるで違った。フルーヴの逃げは1000m通過60秒3、昨年同様のハイペース。エスプリシーズの3番手追走は実際相当厳しく、それでいて3F39.5秒で上がっている。ひいきなし、少なくともこのレースに関しては手放しでほめるしかないだろう。ゲート難、折り合い難、走るたびに評価が揺れた3~4歳時とは、心身両面で馬が違う。「以前は深刻なソエと骨瘤があり、それをかばっているうち腰も悪くなった。うまく充電できました。もともと走る素質は一流と信じていた」(武井調教師)。昨シーズン後半、東京盃、JBCスプリント、あえて短距離を経験させたのも、カンフル剤として絶妙だった。スピード能力が磨かれたのはもちろん、何よりもまれてひるまない精神力が加わった。
さてこれから。距離オールマイティーが証明された以上選択肢は広いが、一つ特長、適性といえば、厳しいサバイバルでいい脚を長く使う、そのパワーになるだろう。マイルよし、選手権距離の2000m前後もよし。ただ陣営はこの後ひと息入れるローテーションを考えているらしい。確かにここまで成長した同馬だが、戦歴からは使い込んでにわかにパワーダウンする傾向もある。543キロの巨漢で豪快な走法。しかし見た目と裏腹にデリケートな部分もないではない。古い比喩で恐縮だが、私見では、かつてのアズマキング、カウンテスアップなどに似たタイプとイメージする。年齢を重ね、思わぬ新境地を開いたりする晩成型。本音をいえば、やはり今後の期待は“アウェー”での勝利になる。
スターキングマンは、その2日後に故障が判明した。左第3中手骨こ裂骨折。発症がレース中かその後かはわからない。ただ全治3ヵ月というからひとまず軽症で、順調に回復すれば6月「帝王賞」にも十分間に合う。何より森秀行スタッフに鍛えあげられた芯の強い馬である。ドバイはまた先の夢として、その生命力、復活を見守りたい。ともあれ今回2分12秒8は馬場状態を含め大レコード。昨年ワンツーのカネツフルーヴ、リージェントブラフをちぎっているから、エスプリシーズ自身、勝利の値打ちが下がるものでもないだろう。しかし、昨年帝王賞、ネームヴァリュー勝利の陰にゴールドアリュールの呼吸疾患、今回またスターキングマンのアクシデント。つくづく競馬とはなかなか明快なハッピーエンドで終わってくれない。
リージェントブラフ、カネツフルーヴはどうやら終生のライバルで、そのキャラクターが正反対だから面白い。逃げ一手、追い込み一手。JRA、地方、さまざまな舞台で何度となく対戦し、勝敗はほぼ五分。しかし厳しいレースでは前者、逆に緩いレースでは後者、パターンは常にはっきりしている。強い弱いの問題とは少し違う。しいていえば、リージェントは不器用なぶん、少し損をしていることか。まあしかし、似たようなことは人間の場合でもしばしばある。フルーヴは、03年NAR特別賞を受賞したロジータの息子。総合点、とりわけレースでの精神力など母に遠く及ばないが、それでも血は争えない。統一G4勝、G1・2勝。レベルはどうあれ勝った馬が強い、そんな勝負ごとへの“強運”を、不思議なほどしっかり受け継いでいる。
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報知グランプリカップ(2月11日船橋 サラ3歳上別定 南関東G3 1800m)
◎ナイキアディライト (57・石崎隆)
○イシノファミリー (52・山田信)
▲ロッキーアピール (56・山崎)
△メイプルスプリング (52・左海)
△カイジンクン (56・的場文)
△ノムラリューオー (56・内田博)
ナイキアディライトは今回正念場を迎えている。昨年ダート無敗で羽田盃、東京ダービーを制した南関4歳NO.1。続くG1「JDダービー」3着。その時点のビッグウルフ、ユートピアと名勝負を演じているから、少なくとも例年のクラシックレベルにはあるはずだ。昨秋カムバック後、7、7、5着は不満だが、前走報知オールスターCなどスタート不利を開き直って差す競馬。鞍上・石崎隆もひとまず収穫をつかんだだろう。カイジンクン、ロッキーアピールといる以上、おそらく好位からの競馬になる。それで勝てれば本物。昨シーズンよりひと回り増えた馬体で、早熟型とは考えない。
前走東京湾Cで重賞2勝目をマークしたイシノファミリーに52キロはきわめて有利。ロッキーアピールは同型との兼ね合い、さらに距離1800mがカギになるか。体調8分でも差し馬有利の流れならメイプルスプリング。能力と距離適性、依然つかみづらいノムラリューオーも、初コンビ・内田博Jでどう変わるか。穴としては注目できる。