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皐月賞戦線をリード/京成杯

  • 2015年01月19日(月) 18時00分


ハービンジャーの長所はおそらく成長力

 魅力のある馬が、それこそ何頭も、いっぱいいる。だが、まだ抜け出したエースはいない。そんな今年の3歳牡馬路線を象徴するような大接戦が展開された。

 接戦をねじ伏せるように勝ったのは、新種牡馬ハービンジャー(父ダンシリ、その父デインヒル)を父にもつベルーフだった。ローズS、クイーンSを制した母レクレドール(01)は、種牡馬ステイゴールド(94、父サンデーサイレンス)の全妹であり、2006年のきさらぎ賞を勝ち、皐月賞を2着したドリームパスポートの母グレースランド(父トニービン)は半姉にあたる。

 また、昨2014年の秋華賞を勝ったショウナンパンドラの母キューティゴールド(父フレンチデピュティ)は、レクレドールの半妹である。

 祖母ゴールデンサッシュ(父ディクタス)は、驚異の多産牝馬として知られ、合計19頭もの産駒を送っている。ただ多産なだけではなく、クラシックレースを中心のビッグレース向きの血を伝えながら、さらに広がる巨大なファミリーを発展させている。

 若い競馬ファンにとってベルーフは、いまや名種牡馬の形容こそふさわしいステイゴールドの、妹の産駒である。ちょっと古いファンにとってのベルーフは、1988年の日本ダービーで1番人気になった河内騎手のサッカーボーイ(父ディクタス)が登場し、その全妹ゴールデンサッシュの産駒がステイゴールドという図式になる。

 もっと古いファンにとっては、ときに猛然と飛ばしてハデなレースを展開させたアスコットロイヤル(1976年生まれ。父エルセンタウロ)の半妹になるのが、サッカーボーイの母ダイナサッシュ(父ノーザンテースト)という結びつきになるかもしれない。

 もう半世紀近くも、勢いを失うどころか、新しい活力を取り込み続けるのが、輸入牝馬ロイヤルサッシュ(1966年)を起点とするファミリーである。そのロイヤルサッシュの父は、いまも日本で貴重なスピード父系を連続させているサクラバクシンオー父子に影響を与え続ける種牡馬プリンスリーギフト(父ナスルーラ)である。

 けっして古典の話題ではない。今週のAJC杯に出走する注目のゴールドシップは、前述のように父ステイゴールドの牝系の出発点にプリンスリーギフトが登場する。と同時に、ゴールドシップの3代母トクノエイティーの父はトライバルチーフ(父プリンスリーギフト)。よって、ゴールドシップはプリンスリーギフトの[5×5]の血量をもっている。だから、現代の若いファンにも、ちょっとだけ古い芦毛のメジロマックイーンのファンにも、もっと古いプリンスリーギフト時代のファンにとっても、旧知の友人のようなチャンピオンとなりえたのである。

 脱線しかかったが、もう何十年も日本の競馬ファンとともに歩んできたファミリーから飛び出した新星ベルーフは、新種牡馬ハービンジャー(先駆けの意)の産駒。期待どおり、距離のびてこそのクラシックタイプを送り出すことに成功した。検討でも触れたが、ディープインパクト産駒のような垢ぬけた切れはないかもしれない。やや無骨かもしれないが、最後の坂上で内に並んだ3頭を交わしたのは、パワーの爆発だった。

 もう1頭のハービンジャー産駒のクラージュシチーが、「力を出し切っていないと思う(菱田騎手)」と残念がったように、もまれたりすると器用に馬群をさばくような脚はない危険がある。

 ベルーフのちょっと荒々しいフットワークを生かすには、外枠が合っていた気がする。必ずしも優雅ではないが、激しく追いまくる川田騎手にもハービンジャー産駒は合っている。

 あの位置から届くのだから、スタミナも底力もある。また、少々タフなコンディションの春の中山も合っている。今年は、「きさらぎ賞…共同通信杯…アーリントンC…弥生賞…スプリングS…」と連続するこれから、新星が次つぎと台頭し、今回、さっそく巻き返してきた5着ダノンリバティ(父キングカメハメハ)のようなタイプもいるはずだが、これで皐月賞戦線を半歩か1歩リードしたのがベルーフだろう。ハービンジャーは新種牡馬ランキング1位に輝いたが、長所はおそらく成長力。最大の魅力はこれからもっと強くなることである。

 出世レースの「エリカ賞」阪神2000m組。重賞に昇格した「ホープフルS」中山2000m組が上位を独占したのが今回の「京成杯」であり、上位グループは早々とマイル路線から離れたグループだった。京成杯はクラシックに向かう路線のなかで、必ずしも重要な位置を占めてきたわけではないが、シンザン記念の歴史が変わり、かつてと比較するときさらぎ賞が大きなポイントレースになったのと同じように、路線のなかの重要度は絶えず変化する。「ホープフルS→京成杯→弥生賞」の路線は、牝馬の「阪神JF→チューリップ賞」と同じように、本番の皐月賞2000mとまったく同じ条件で行われる。これから主流の王道になるかもしれない。

 ブラックバゴ(父バゴ)は、脚を余して3着にとどまったホープフルSと同様、また今回も不完全燃焼だった。道中でクビを上げて折り合いを欠き、他馬と接触のシーンもあった。それで一度は抜け出して勝ったと思わせる「ハナ差」だから、ランクは勝ったベルーフとまったく互角か。4戦連続して騎手がテン乗りになっている点が、ブラックバゴには大きな死角であり、今回の蛯名騎手には朝日杯FSを制したダノンプラチナがいる。もちろん、そのときベストと思える騎手を配する手法は成立するが、ブラックバゴは母の父がステイゴールド。高い能力をもつ産駒ほど、一筋縄ではいかないタイプであって不思議ない。

 3着クルーガー(父キングカメハメハ)は、最初の1コーナーで挟まれる不利はともかく、勝負どころの3コーナー過ぎからは最高の位置にいたと思えたが、ズブさをみせ馬群の密集したところで下がってしまった。直線、寄られながら間を割って一気に伸び、外のベルーフ、ブラックバゴに「ハナ、クビ」の差だけ。ダートで勝ったパワフルなタイプであり、牝系はドイツ血統。2戦連続して賞金加算ならずの足踏みは痛いが、1-2着馬と能力差はほとんどないに等しい。

 4着ソールインパクト(父ディープインパクト)は、道中、予測されたよりかなり後方でベルーフと同じような位置取り。したがって、ベルーフと0秒0差なので、上がりは最速タイの34秒8だった。ゴールの瞬間は迫力負けの印象もあるが、「前半61秒9」のペースで、「後半60秒4-レース上がり35秒7」はディープインパクト産駒向きの馬場ではなかったことを示している。流れひとつ、芝コンディションしだいで逆転できる差である。

 前回が、まったく基準外を示したダノンリバティ、いつもより控える形で良さが出たフォワードカフェ(父マンハッタンカフェ)も、0秒2-3差が示す力関係であり、クラージュシチーも、タケルラムセス(父キングカメハメハ)も巻き返せる。今春の3歳牡馬は、近年にない接戦連続の難解なクラシック路線を展開すること必至。そんな京成杯だった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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