キズナの評価はむしろ上がったのではないか
断然の人気を集めた
ハープスターは5着に沈み、一方の
キズナも3着にとどまった京都記念。レース直後は、2頭の期待を下回る敗走にみんな「がっかり」だった。しかし、少し冷静になって振り返ると、悲感するには及ばないのではないか、という一面が大きいことに気づく。
まず、馬場コンディションの違いはあるにせよ、『前半61秒2-(12秒2)-後半58秒1』=2分11秒5は、1995年に現在の2200mになって以降のレースレコードである。上がりは「45秒7-34秒0-11秒6」。レースの中身は凡戦どころではない。
勝った5歳
ラブリーデイ(父キングカメハメハ)は、同期のキズナの制した日本ダービーを0秒4差に突っ込んだ期待馬であり、エピファネイアなどと同様の上がり33秒9を記録している。
そのあとすぐ本物になったわけではないが、5歳の今年は中山金杯2000mを「1分57秒8」の快レコードで快勝。調教の動きが実戦と結びつくようになり、絶好調。好調の波に乗るキングカメハメハの代表産駒の1頭にふさわしく、この2000-2400m級こそベスト。2強を倒すならこの馬だろう。伏兵ではなく3番人気の支持を受けた候補だった。
マイペースに持ち込んだあと、差し返すようにハナ差の2分11秒5(上がり34秒0)の
スズカデヴィアス(父キングカメハメハ)にしても、昨年の日本ダービーを0秒8差に食い込んだ馬であり、逃げ=先行型となってオープンに出世してきた現在は、この組み合わせで4番人気の高い支持は少しも不思議ではなかった。キズナに先着した2頭は、一連の成績よりまたスケールアップしてみせたのであり、人気のハープスター、キズナが凡走したから浮上したのではない、という素晴らしい内容である。3着のキズナ、5着のハープスターを振り返る前に、わたしたちはキズナでも、ハープスター自身でもないから、1-2着馬の2頭を正当に評価したい。
キズナ(父ディープインパクト)は、直線中ほどでは期待どおり「差し切る」勢いだった。レース上がりは「11秒4-11秒0-11秒6」=34秒0なので、キズナの記録した上がり3ハロン33秒3は、推定「11秒4-10秒6-11秒3」前後か。
非常に重度の骨折で、今回は昨年の5月4日の天皇賞・春以来の実戦。57キロならそれでも負けないと思えたが、1-2着した2頭が強気に出て(バランスはスローの分類でも、決して緩い流れではない)、かつ、並んでスパートの併せ馬になったプラスが生じ、この上がりでまとめてレースレコードである。ふつうの京都記念のレベルだったら、キズナの快勝だったろう。
「いままで乗った中で、一番良かった(武豊騎手)」というレース直後の実感は、先週のきさらぎ賞などと違って、けっして負け惜しみではなかった。道中の人馬の折り合いも、追い出しての切れ味も、文句なし。骨折での長期休養明けの馬に懸念される微妙な能力減も、キズナ自身がセーブしてしまう一面も、少しも感じられなかったということであり、はた目には、速すぎた上がりが心配になるくらいである。一見、たしかに「がっかり、そこまでなのか…」も否定できないが、客観的にはキズナの評価はむしろ上がったのではないか、と思い直したい。
一方、ハープスター(父ディープインパクト)の、直線で斜行した川田騎手には4日間の騎乗停止のおまけまでついた5着は、評価が分かれる。5着とはいえ0秒4の2分11秒9は、今回先着を許した4頭は別に、従来のレコード2分11秒8を持っていた1995年の牝馬ワコーチカコ、2002年の1-2着馬ナリタトップロード、マチカネキンノホシの2分11秒8にほとんど見劣らないから、凡走というほどの5着ではないのではないか。冬は牝馬の好調期とはいえず、この30年間、京都記念を勝ったのは、10年ブエナビスタと、そのワコーチカコだけである。
ただ、レース直後、この時期にしては破格の「2分11秒5」の勝ち時計と、レース上がり34秒0を確認しながら、「ハープスターは、この内容(時計)では乗り切れないだろう」とつぶやいた近くの記者の感覚は、かなり正しいのではないかとも感じた。
キズナのプラス22キロは、凱旋門賞でも通用するパワー兼備型に変身しようとする展望もあるから、太いとは思わなかったが、ハープスターのプラス14キロ(490キロ)は、この時期だからとはいえ少々余裕残しだったか。それで、2200mの前半1000m通過61秒2のスローというほどではない流れを、正攻法の中位(好位)で追走となったハープスターには、さして距離の違わないオークスや、ジャパンCや、さらには2000mの札幌記念より、自身の前半1000m通過はだいぶ速かった計算になる。休み明けで慣れないレースを展開したハープスターには、自分のリズムのとりにくい追走だったのだろう。斜行は、鞍上があわてたのは確かだが、ハープスター自身がもう苦しくなっていたからでもあった。
「いつものパターンの追走の方がいいのか?」という感想を思わず漏らしてしまったという陣営にとっても、ある程度早めに追走のもくろみは誤算だったことになる。しかし、また最後方近くから届く算段のつきようもない追走では、もう同世代の牝馬同士のレースではないから、やっぱりもっと苦しい立場を自らに課す危険大である。ハープスターの春の目標はドバイ遠征だが、一時、ビッグタイトルはクビ差の桜花賞だけにとどまるハープスターは、招待する側のドバイも、候補順位は低いだろうなどと心配された。でも、シーマクラシック2410mへの挑戦が決まったといわれる。ムーア騎手とされるが、ハープスターは第2のジェンティルドンナになれるだろうか。ちょっと、いや、かなり心配である。
最上位ランクの候補誕生
「共同通信杯」を快勝した新星
リアルスティール(父ディープインパクト)は、抜け出した2連勝中の
ドゥラメンテ(父キングカメハメハ)をインから差し返すように1分47秒1。これは13年のメイケイペガスターの突出したレコード1分46秒0には及ばないが、共同通信杯史上2位の快時計だった。レース検討で、「新馬勝ち、未勝利勝ち直後の1勝馬が連対圏に入ったことはない」。これを突き破って快走するとき、たちまち最有力馬の誕生となる。などと、その素質に半信半疑を感じていたら、なんと史上初めて1戦1勝のキャリアで勝ち、レース史上2位の好記録である。
まだ動きが硬い印象があり、騎乗した福永騎手の感覚は「しなりが足りない」なので、まだまだ未完の大器にとどまるところもあるが、次つぎにエース級の評価が一転二転の牡馬の路線に、またまた注目馬出現である。次は中山の「スプリングS」が予定されている。ダービー候補であり、中山コースが合うかどうかに心配もあるが、いきなり最上位ランクの候補誕生である。祖母モネヴァッシア(父ミスタープロスペクター)は、キングカメハメハなどの父として名を馳せる大種牡馬キングマンボの4歳下の全妹である。リアルスティールは、全兄4歳のラングレーよりずっと出世が早そうである。
人気のドゥラメンテは、道中、中1週のためかちょっとかかってしまった。それで下げるロスがあって、直線一度は完全に抜け出したから、負けても評価は下がらないが、これで左回りの東京の1800mだけに出走して【2-2-0-0】である。石橋脩騎手は、この2戦だけともいわれる。新たな外国人騎手で、初の右回りが中山の皐月賞となるのだろうか。
期待した
アヴニールマルシェ(父ディープインパクト)は、シャープに映る身体つきに変わり、評価落ちに反発するようなレースを期待したが、4コーナーを最後方で回っては、上がり33秒台でも脚を余すように5着が精いっぱい。この3歳世代の牡馬は、みんな難しい馬ばかりである。
一時は候補No.1だった
ティルナノーグ(父ディープインパクト)は、2連勝のあと、「7着、10着、7着」。2戦目のレコード2000m2分00秒5が、「幼い2歳馬にとって、かわいそうだった」という説は、まったくその通りだろう。