鈴木師のラストランを飾るのは阪神12Rトーセンハルカゼ/トレセン発秘話
◆今年は同週に年度替わり
春は出会いと別れの季節だが、今年ほど劇的なシーズンも珍しい。競馬サークルにおける年度替わりは3月。つまり、今週の土曜開催(2月28日)を機にピリオドを打つ者がいる一方、翌日曜(3月1日)には新人が初々しくデビューする。感傷に浸る間もなく、同じ週にコントラストを織り成す競馬シーンが展開されるのだ。
むろん若者の門出も大いに楽しみだが…。今年50歳に手が届くオッサン記者にすれば、より目に焼き付けたいのは長らくお世話になった老雄たち。その最後のベテラン技だ。
「やはり自分の預かっていた馬の今後は気になるし、何より自分が無趣味だからね。今後も競馬場に行くんだろうね。ひょっとしてラチの一番前で見ているかも(笑い)」
週明けの美浦で自身の未来図を語ったのは、今月をもって40年のトレーナー生活に幕を下ろす鈴木康弘調教師。ハイセイコーの育ての親・鈴木勝太郎元調教師を父に持つ“サラブレッド”でありながら「開業当初は馬の良しあしに自信が持てず、馬主に最初に望む馬を買ってもらったのは開業5年目のことだった」というのだから、今と比べ隔世の感を禁じえない。かといって自分の流儀を次世代に押し付ける気は一切ないようで「今後は調教師席には顔を出さず競馬は一般席で見るつもり。行くことで預かった人に変なプレッシャーを与えたくない。若い感性でやってもらえればいい」。ノータッチを約束するのは懐の大きさの表れか、達成感の裏返しか。
ゆえに…。老雄が最後の競馬をいかなる心境で迎えるかは非常に興味深い。土曜阪神12R(ダ1800メートル)のトーセンハルカゼ。それは鈴木康弘調教師にとって全身全霊を注ぐラストランでもある。
「前走はスムーズにさばけていればと思わせる走り。気性が難しくうのみにできない面もあるが、最近は管理馬それぞれが“最後”が分かるかのように頑張ってくれるので…」
1着固定の馬券を買っていた宴会野郎にすれば頭に血が上るような結果だったが、不利を受けての前走2着は、もしかしたら花道を用意する神のおぼしめしかも。馬名通り“春の風”を感じるようなゴールシーンを期待して、今週は静かにその一戦を見守りたい。