競馬界を去る人、入ってくる人…その行く末を見守れるのは記者冥利/トレセン発秘話
◆土曜中山最終後のサプライズ
先週土曜(28日)の中山で、レースを勝つことに勝る“有終の美”があることを知った。12Rウインネオルーラー(3着)をもってトレーナー生活にピリオドを打った畠山重則調教師に対し、多数のジョッキーがレース終了後集合し、慰労を込めた胴上げを行ったのだ。元騎手という経歴もあろう。だが、謙虚で誠実な師の人徳が、競馬場でめったに見られないセレモニーを演出させたのだ。
恥ずかしそうにファンの前で胴上げを受けた畠山師は「びっくりしたね。ただ、これだけたくさんの人に囲まれて引退できたのは調教師冥利に尽きる」。人がしみじみと過去をさかのぼる瞬間は、不思議と周りに温もりを与えてくれる。
振り返った後には前に進まねばならない。その翌日には競馬学校生4人がデビューを果たした。美浦所属の野中悠太郎(18=根本)は中山で2鞍に騎乗し、ともに14着と“洗礼”を浴びた形。それでも「思ったほど緊張せず、ペース判断なども考えて乗ることができた。ただ、もっと上手に乗れるよう頑張りたい」と抱負を口にしたユータロー君。
師匠の根本康広調教師によると「技術的には(丸山)ゲンキのデビュー時と遜色ない。ただ、ちゃらんぽらんなゲンキとは対照的に、性格に真面目すぎる面がある。これからは勝負師としてのメンタルをつくっていくことも重要」とのこと。その成長は楽しみだが、師弟の絆を見守るのもある意味で記者冥利に尽きる。
弟子の吉田豊とのコンビでトレーナー人生を全うした大久保洋吉調教師は「いい時代に調教師をやらせてもらった」と自身を振り返った。すべてのホースマンにとって、今が“いい時代”かは分からない。二本柳俊夫調教師が門下生の騎手・加藤和宏現調教師を擁護した末に起きた「シリウスシンボリ転キュウ事件」(85年)も今や昔。サークルにおいて人間関係が薄まりつつあるのは否めない。だが、競馬がある限りホースマンに希望はあるはずである。
悲痛な最後はいらない。今年デビューの新人を含め、すべての騎手がいつか満足してムチを置くことを今は願うばかりだ。
(美浦の宴会野郎・山村隆司)