連闘失礼します。
行き先を決めるに当たり、温暖で湿潤な地域は除外された。ウシ目との競争はもううんざり、明らかに分が悪すぎた。もっと寒く乾燥した地域ならば彼らはいない。そういった地域は食べ物の種類は減るが、その分、幅広い食性を持つウシ目には不利な環境になるからだ。
北へ北へと逃れていく中、ついに私たちは私たちが永住すべき地を見つけた中央アジアのステップ気候の大草原地帯。気温も低く、雨も少ないが、何と言ってもウシ目が殆どいない。ここなら生きていける。そう確信した。
この草原地帯で生き抜くためには脚力と繊細な神経が必要だった。当然この草原地帯にも捕食者はいる。ウシ目との競争は回避できたが、捕食者ばかりはそうとは行かない。
なにしろ、草原地帯には隠れる場所が殆どない。捕食者からは我々がいつでも丸見えなのだ。とにかく四六時中、周囲に神経を光らせ、危険を発見したら近づかれる前に逃走する。我々が殊に臆病で神経質な気質を持ったのは、こういった生活を数百万年も送り続けてきた事による。
こんな恐怖と隣り合わせの生活をするくらいなら、以前の生活の方が良かったのではないかと言われる事もある。が、存外、我々にとってはこの地こそが、自分たちの長所を活かせる永住の地とも呼ぶべき場所だったのだ。
我々はウシ目と違って胃袋が1しかない分、身軽だった。蹄も1つしかなく、走行に適していた。ウシ目と違い、速いスピードで長時間の走行をする事が出来た。この走り易い草原地帯はエクウスの新天地だった。その内、汗腺が発達してきて、流れる汗が体を冷却して、より長時間の走行を行う事もできるようになった。瞳も「一」の字型に横に長くなり、これによって広範囲、又、正面を向いている時でも後方が見える、広い視野を持つことができ、捕食者の早期発見に役立った。
草原地帯こそ、エクウスの新天地だった。
つづく
元馬術の選手です。ネットケイバでは主に競走馬掲示板にて活動しています。2016.11.11記諸般の事情により、当面はブログで活動いたします。追い切り所見・レース回顧を中心に、内容そ...
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