アメリカンフェイローが37年ぶりの3冠達成なるか、ベルモントS展望
アファームド以降、3冠馬は誕生していない
アメリカンフェイロー(父パイオニアオヴザナイル)が、1978年のアファームド以来37年ぶり、史上12頭目の3冠に挑むG1ベルモントS(d12F)の開催が、来週土曜日に迫っている。
西海岸の伯楽ボブ・バファートが管理するアメリカンフェイローは、本来はカリフォルニアを拠点としている馬だが、ニューヨーク州のベルモントパークで行われる3冠最終戦へ向けた調整の舞台となっているのは、ケンタッキー州のチャーチルダウンズ競馬場である。
G1ケンタッキーダービー(d10F)の前哨戦として4月11日にアーカンソー州のオークローンパークで行われたG1アーカンソーダービー(d9F)を使われた後、同馬はカリフォルニアには戻らずに、ケンタッキーダービーの舞台であるチャーチルダウンズ競馬場に入厩。ケンタッキーダービー後もチャーチルダウンズに留まり、プリークネスSの舞台となるメリーランド州のピムリコに移動したのは、レース3日前の水曜日だった。そして、プリークネスS後も直ちにチャーチルダウンズに戻っており、ここで調整された上で、ベルモントパークにはレース3日前の6月3日(水曜日)に移動する予定となっている。
1978年のアファームド以降、ケンタッキーダービーとプリークネスSの2冠を達成した馬は実に13頭誕生しており、つまりは、3冠に王手をかけた馬は3年に1度以上の確率で現れていた。このうち、2012年のアイルハヴアナザーのみ、ベルモントS直前に故障を発症して引退を余儀なくされたが、残りの12頭はベルモントSに出走して、敗戦を喫している。
その成績は、2着だった馬が4頭、3着だった馬も4頭と、つまりは12頭のうちの3分の2を占める8頭までが“あわや”というところまでいきながら快挙を逃した馬たちだった。
中でも惜敗中の惜敗だったのが1998年のリアルクワイエットで、残り3F付近で先頭に立った同馬が、残り1Fの地点では後続に3〜4馬身の差をつけて独走。ところが、そこから猛然と追い込んだのがヴィクトリーギャロップで、一完歩ごとに差をつめた同馬が、最後の最後にリアルクワエイットを鼻差交わすという、天の神様が3冠馬誕生だけは阻止したいと願っているかのごとき結末であった。
今さら改めて記すまでもないことだが、5週の間に場所を移動しつつ施行される3冠を、皆勤するだけでも大変なことで、この36年で、2冠馬がベルモントSで敗戦を喫した12例のうち、勝ち馬が最初の2冠にいずれも出走していた例は、87年にアリシバの3冠を阻んだベットトゥワイス、89年にサンデーサイレンスの3冠を阻んだイージーゴーアー、98年にリアルクワイエットの3冠を阻んだヴィクトリーギャロップの3例を数えるのみだ。
興味深いのは、ベットトゥワイス、イージーゴーアー、ヴィクトリーギャロップの3頭とも、ケンタッキーダービー、プリークネスSでいずれも2着に惜敗していた馬たちで、つまりは、3冠を皆勤しつつベルモントSで初戴冠を果たすには、それほどの能力の持ち主でないと不可能ということが言えそうである。
3冠を阻んだ残り9頭のうち、ケンタッキーダービー、プリークネスSとも不参戦という「別路線組」が5頭。3頭が、ケンタッキーダービーで敗れた後にプリークネスSを回避した馬で、残り1頭が、ケンタッキーダービーには出ずにプリークネスに出走して敗れていた馬であった。
つまりは、ここ36年間の傾向で言うと、アメリカンフェイローの3冠を阻むとすれば、「別路線組」がクサい、ということになろう。26日現在で、今年のベルモントSに出走を予定している馬は、アメリカンフェイローを含めて11頭。
このうち、3冠皆勤はアメリカンフェイロー唯1頭のみ。最大勢力は、ケンタッキーダービーで敗れ、プリークネスSを回避してここへ向かってくる馬で、この臨戦態勢が7頭。ケンタッキーダービーに出ずにプリークネスSに出走した馬が1頭で、残りの2頭が別路線組だ。
「クサい」別路線組は、5月9日にベルモントパークで行われたG2ピーターパンS(d9F)の1・2着馬、メイドフロムラッキー(父ルッキンアットラッキー)と、コンケストカーリネイト(父カーリン)である。
デビューは2歳6月と早かったものの、初勝利を挙げるのに4戦を要し、12月23日にガフルストリームパークで行われたメイドン(d8.5F)でようやく片目が開いたのがメイドフロムラッキーだ。続くガルフストリームパークの条件戦(d9F)も制して2連勝を果たした後、勇躍重賞に挑んだのだが、3月にオークローンパークで行われたG2レベルS(d8.5F)がアメリカンフェイローに6.1/4馬身離される2着。次走となったオークローンパークのG1アーカンソーダービー(d9F)が、勝ったアメリカンフェイローから9馬身離された4着と、つまりはアメリカンフェイローには全く歯がたたずに敗れていた馬である。
ただし、なかなか見どころがあったのがG2ピーターパンSで、前半は5頭立ての4番手に位置したメイドフロムラッキーは、3コーナーでどの馬よりも早く鞍上の手が動き、しかも反応が悪く、見ていた者の多くが敗戦を覚悟した。ところがそこからバテず、逆に渋太く伸びを見せての差し切り勝ちで、瞬発力には欠けても持久力はあるところを実証する内容であった。
ケンタッキーダービー、プリークネスSとも不参加で、ピーターパンSを勝っての参戦というのは、79年にスペクタキュラービッドの3冠を阻んだコースタル、14年にカリフォルニアクロームの3冠を阻んだトナリストと全く同じ臨戦態勢となる。
ピーターパンSで、道中最後方から追い込みメイドフロムラッキーに1馬身遅れる2着となったコンケストカーリネイトは、今年1月にオークローンのメイドン(d8.5F)を制してデビュー2戦目にして初勝利を挙げた後、同じくオークローンの条件戦(d8.5F)が3着、続くホーソーンパークのG3イリノイダービー(d9F)が2着という成績で、ピーターパンSに挑んでいた馬だった。実はこのコンケストカーリネイトは、ベルモントSは未登録で、出走するには7万5千ドルの追加登録料を支払う必要がある。重賞未勝利馬を追加登録するとは相当な冒険だが、13年のベルモントS勝ち馬パレスマリスを出した父カーリンのスタミナ伝承力に、陣営は大きな期待を寄せているようだ。
ケンタッキーダービーに出てプリークネスSを回避した馬を、ケンタッキーダービーの着順が良い順に並べると、4着馬フロステッド(父タピット)、6着馬マテリアリティ(父アフリートアレックス)、7着馬キーンアイス(父カーリン)、8着馬ムブタヒジ(父ドゥバウィ)、10着馬カーペディエム(父ジャイアンツコーズウェイ)、11着馬フラメンテ(父ミッドシップマン)、16着馬ウォーストーリー(父ノーザンアフリート)となる。この中では、ケンタッキーダービーが前残りの競馬になった中、前半14〜15番手から4着まで追い込んだフロステッドに、巻き返しの期待がかかる。ケンタッキーダービー6着のマテリアリティも、父が05年のベルモントS勝ち馬で、ノーマークにはしづらい1頭だ。ケンタッキーダービーを使わず、重賞初挑戦だったプリークネスSで2着に健闘してここへ臨むのが、テイルオヴヴァーヴ(父テイルオヴエカティ)である。
レースまであと10日余り、3冠フィーバーが過熱していく中で、アメリカンフェイローがどんな調整を施されて本番を迎えるか、つぶさにモニターしていきたいと思う。