ダービーが終りました。毎年、この週だけはなんとも言えずホッとしますね。大役を終えた皆さんの安堵の表情を見るたび、そう思います。「無事、ダービーに送り出す」という任務がどれだけ重大なことか! 選ばれし18頭の中に入るだけでも凄いのに、そこに向けて万全の態勢で挑むという緊迫感、そしてそれをやり遂げた達成感。ほんと、この凄みのある空気をそのまま皆さんにお見せできないのが悔しいです。
松田博厩舎のレーヴミストラルも無事、ダービーを走り終え、そのまま放牧にいきました。松田博師は青葉賞から輸送が続くことを心配していました。無事、走り終えて、本当に良かったですね。ただし、「この馬がほんとうによくなるのは来年」と繰り返して話していらっしゃいます。仮にそれがわかっていても、来年は自分が管理していないのだから今年たくさんレースで走らせる。そういう調教師さんはとても多いです。でも、松田先生は違うんですよね。
レーヴミストラル
「本当によくなるタイミングまで待たないと馬がかわいそう」と、自分の損得より馬の成長を促すことを優先するんです。松田先生のそういうところ、本当に凄いな、と思います。
ハープスターについても、早々にキングカメハメハを受胎して「ホントによかった」と繰り返します。もう1年現役でいてくれれば自分が稼げたのに、というようなことは絶対に言わないし、考えてもいない方ですね。ほんとに凄い。
ハープスター
“過去”のことより、残された“未来”をしっかり見据えている。いまなら、未勝利の馬をいかに勝たせるかに真摯に取り組んでいらっしゃいますよ。
その中の1頭にゴールデンサッシュの最後の仔、ヴァイスゴルトがいます。きれいな金髪、ちょっと小柄な馬体。眺めているだけで、この血統らしさを感じます。
競馬に長く携われば携わるほど、最初に競馬を好きになったときに知った馬たちのことを思い出します。わたしの世代なら、サッカーボーイがその1頭。ゴールデンサッシュの全兄ですね。尾花栗毛の華やかな馬体が繰り出す躍動感ある走りには背中がソクゾクしました。そして、ステイゴールド。このヴァイスゴルトの兄ですね。体こそ小さかったけれどめちゃめちゃ賢くて、いつ走るかわからなかった。とくに人間が期待を寄せたときにかぎって成績が出ず、池江先生も「いいと思うとダメで、ダメかなと思うと勝つ。ほんと、つかみどころのない馬だった」と言っていました。あれだけ多くの名馬を扱ってきた名伯楽の心に深い印象を刻み込んだ1頭でしたね。
あれから時がたち、サッカーボーイが後ろ脚だけで仁王立ちしていたあの場所、小野厩舎も昨年で解散。ヴァイスゴルトを最後にゴールデンサッシュの子供とも会えなくなります。そして、松田博資厩舎も来年2月をもって解散です。
ヴァイスゴルト
ただ、普通にヴァイスゴルト1頭を見ているだけでも、たくさんの記憶が蘇る。競馬のよさ、素晴らしさってそういうところだな、ってホント思います。
次走、ヴァイスゴルトは阪神の最終週の未勝利戦を予定しています。まだちょっと弱いところがありそうですが、この厩舎にいれば大丈夫。毎日しっかり動かして体力をつけていく松田先生の指導のもと、秋になんとか間に合って欲しいな、と願うばかりであります。